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第106話

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蓮の言葉に思わず目を見開いてしまった。蓮がさらに言葉を続ける。
「俺は、呪いによって永遠に生き続ける運命だ。それは、受け入れる。でも、お前が傍に居たら・・・俺はお前にまで呪いをかけて、永遠に生きる運命を与えてしまいそうなんだ。もし、その行為をお前の子供が邪魔するなら、俺はお前の子を殺すかもしれない。」
「そんな!!」
私は思わず、お腹に手を当てていた。蓮は、目に闇の色をたたえて私のお腹の子を見つめながら口を開いた。

「俺は、器用な生き方ができる人間じゃないんだ。愛する人間を二人も持つことはできない。もし、お前とお前の子が危機に陥れば俺は間違いなくお前の方を救う。智也の子を見殺しにしてもな。」
「蓮・・・私たちは、幼馴染で男友達でしょ?そりゃ、今は女の姿をしてるけど蓮がそんなに愛情を向ける対象じゃないよ、私は。」

私が狼狽しつつそう伝えると、蓮は俯き表情を隠したまま口を開いた。

「愛している、智也。元の世界にいた時から、お前は特別な存在だった。俺が例のノートにお前の女体化を望む書き込みをしたことからも分かるだろ・・・俺の望みが?」

不意に蓮が近づくと私をぎゅっと抱き寄せた。彼の胸の鼓動は早鐘のように打っていた。私は凝り固まったように彼の胸の中で立ち尽くしていた。

「お前が目の前に居れば、俺は王国を守ることすら忘れて、お前に永遠の命を与えて愛し続けるだろう。もし、お前が母親としての愛情に目覚めたのなら、元の世界に帰ってくれ。俺は器用じゃないと言っただろ?腹の子を俺が全力で守るためには・・・お前の存在は邪魔なんだ。」
「生まれてくる子にとっては、私がこの異世界を去ることが一番いいということなの・・・蓮?」

私はいつの間にか、涙ぐんでいた。蓮は、私の涙をその指で拭いながら彼は囁くように呟いた。

「俺が生まれてきたお前の子と魔法使いの契約を果たしたその後に・・・お前を元の世界に還す。お前が抵抗しても、還すから・・・許してくれ、智也。」

蓮の決意が固いことを知って、抗いがたく私は黙って頷いていた。でも、すぐに疑問が浮かんで蓮に聞いていた。
「まって、蓮。私の子供と魔法使いの契約をするつもりなの?」
「そのつもりだ。」
「でも、すでに蓮はアーサーと魔法使いの契約を結んでいるでしょ?王家の魔法使いの契約は、どちらかが死なないかぎり契約は解除されないはずじゃ?」
私は、質問を口にしてから結論に思い至って目を見開き蓮を見つめていた。蓮は、冷徹な色を帯びた瞳で私を見返してきた。その唇は沈黙を守り何も語らなかった。

蓮は、アーサーとの魔法使いの契約を自らの手で解除するつもりなんだ。私の子供と契約を結ぶ為に。
私は震える声で蓮に囁いていた。

「アーサーを殺すつもりなの?」

蓮は黙って私を見つめている。私は蓮に抱きしめられたまま、がたがたと震えだしていた。俯いた私の視線の先に、暗黒に染まった蓮のマントがゆらりと揺れていた。そのマントの色にまっかな血の色が混じっているような錯覚に陥って、私は思わず蓮の手を振り解いて彼から離れると後ずさった。
蓮はすこし哀しい表情をして私を見つめていた。私は、そんな彼の視線から逃れるように彼に背を向けると蓮の部屋の出口に足早に向かった。蓮が追いかけてくる気配は無かった。

私は、蓮の扉を開けて廊下に出た。しばらく廊下を歩いているうちに、足ががくがくしてそれ以上歩けなくなってしまった。私は廊下にもたれ掛かって、そのまま床に座り込んでしまった。涙がぽろぽろと溢れてきて止まらなくなってしまった。顔を両手で覆って涙を流し続けた。

蓮が怖いと思った。
私の産む子を守るために必要ならば、アーサーさえ殺そうとしている。
そして、その子供さえ・・・・私の為ならば見殺しにするという。

元の世界にいた時から、蓮が私を特別な存在としてみていた?
友情以上の感情を抱いていたの?男同士なのに?
私には理解できなかった。彼が私に興味を持ったのはこの異世界で私が女になったせいだと思っていた。
私は顔を伏せたまま床に座り続けていた。

その時だった。

「トモヤさま?」

名前をよばれて私ははっとして、顔を上げた。廊下に立って私を見つめていたのはカインの正妃のフレアだった。その彼女の横には彼女の契約魔法使いのギルドが立っていた。相変わらずの魔法使いの海パン姿にいつもなら笑い声ぐらい出しているところだが、今はそんな気持ちにもならなかった。
フレアが心配そうに私に駆け寄ってくると口を開いた。

「トモヤ様に逢いたくて、魔法使いのギルドに探してもらっていたところなの。でも、ついさっきまで王宮内で気配も感じ取れないと言っていたギルドが、場所が分かったって言い出して瞬間移動したら廊下でトモヤさまが座り込んでいて!!ああ、もう・・そんな事どうでもいいですよね。ギルド、トモヤ様を抱き上げて私の部屋にお連れして。さあ、早く!!」

フレアの言葉と同時にギルドは私を優しく抱き上げるとフレアの部屋に向かって歩き歩きはじめた。



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