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第95話

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(カインの部屋)

蓮は独り言を呟くように、話し始めた。

「元々この異世界に呼ばれたのは『トモ』の生まれ変わりである俺が原因だ。俺は巻き込んでしまった智也とモモを元の世界に還す義務がある。魔法陣が刻まれたノートに俺は文字を書き込んだせいで、魔法陣に囚われ輪廻の輪を切られてしまったが、幸いにも二人は輪廻の輪をきられていないようだ。ふたりには、待ってくれている優しい両親がいる。両親の為にも、智也とモモは元の世界に帰らないと駄目なんだ。」
蓮の言葉にカインが口を挟む。
「レン、元の世界にはお前を待つ人もいるのだろう?」

その言葉に、蓮は自虐的な表情を浮かべて口を開いた。
「俺の両親は早くに離婚した。父は再婚して子供もいて幸せに暮らしているだろう。母に引き取られたが、・・・母は子を愛するタイプの人間ではなかった。放任主義と言えばまだまともに聞こえるが子が飢えても構わない人だった。隣に住んでいた、智也の母親のお陰で俺は飢えずに少年期を過ごす事ができた。智也の母親は面倒見がよくてさぁ、すごく良くしてもらったんだ。だから、あの人を泣かせたくないんだ。」

「母と子を引き裂きたくないんだな、蓮は。だが・・・智也は元の世界に帰ることを承知するかな?あいつは子を身ごもっている。子が生まれたら、あいつは母親だ。子供を抱いたあいつから無理やり子を奪って智也を元の世界に帰すのか?」

カインにそう言われて、蓮は表情を隠しつつも不意に声を荒げた。

「仕方ないだろ!!俺は、智也に子を産むなと忠告した。だが、あいつは産むことを選んだんだ。あんたの子供をな、カイン!!俺は、狂い出しそうだったよ。この世界で生まれた子供は輪廻でこの地に結ばれているはずだ。その子を連れてもとの世界に帰るとなると、禁忌の魔法陣を使うしかない。だが、それで輪廻の輪を外れた智也の子が幸せになれるとはおもえない。そう智也に説明すれば、あいつのことだ、『元の世界には還らない』と言い出すに違いない。」

「レン・・」

蓮は、カインの前で感情を露にし始めた。いつもの冷静で飄々とした魔法使いの男は存在せず、そこには切羽詰った男の姿だけがあった。

「でも、俺はあいつを元の世界に帰すべきなんだ・・・母と子を引き裂いたとしても。いや、あいつが身ごもったのは幸いだったかもしれない。俺はあいつの子供を一生守ってこの国の守り神となろう。神よりも・・悪魔に近いかな?智也の血が流れるだろう王家に、俺は不死の身奉げるだろう。そして、その血に危害を加えるものは、すべて消し去ってやる。獣族の村のようにな!!」

蓮の目は血走っていた。その吐き出される言葉は、いつもは心の奥底に封印されている感情の塊そのものだった。カインは背筋をぞくりとさせながらも、魅入られるように蓮を見つめていた。
蓮は感情のままに言葉を紡ぐ。

「わかるか、カイン!!俺が本当に欲しいものは智也の子供じゃない・・・・智也本人だ。本当は、元の世界になんてあいつを還したくない。俺はあいつのことが子供の頃から好きだった。あいつは気が付もしなかったが・・・ただ好きで、欲しくて、たまらなかった。あいつが女ならよかったのにと、何度も考えたよ。諦めようと何度も思った。あいつは、俺のことをただの幼馴染みとしか思っていない。当たり前だよな・・男同士で恋愛なんて望めるはずも無い。だが、異世界に召還されて事態が一変した。あいつは、異世界で俺が幾度も望んだとおり女になっていた。女になったあいつを見ているだけで、想いは増すばかりで気が狂いそうだ。あいつを、誰よりも愛している!!アーサーよりも、カインよりも他の誰よりもだ。本当は、元の世界になんて還したくない。俺の魔法の力で、あいつに永遠の命を授けて共に生きていきたい。生きていきたいんだ。でも、そんな事あいつが望むと思うか!!望むはずが無い。望むはずが無いんだ・・・・くそ、何の話をしているんだ、俺は!!」

蓮は混乱したように額に手を当てると、落ち着き無くカインの部屋を歩き回った。そして、急に思い立ったようにカインに向かって両手を向けると青い光を放った。
その青い光はカインの背中に刻まれた呪いの魔法陣を包み込んだ。カインはぎりっとした痛みを背中に受け思わずうめき声をあげた。
「ぐっ・・う。レン、何を・・!!」

「安心しろ、カイン。一時的だが、お前の背中の魔法陣を封じた。封はいつ破られるか分からないが、封印されている間は、痛みも苦しみも無いはずだ。その間にしっかり食事を取って体力を取り戻せ。王に相応しい体を取り戻すんだ。それと、俺がこの部屋でお前に話したことは誰にも言うなよ、もちろん・・・智也にもだ。さて、今からこの部屋の魔法防壁を外す。すぐに女医のギーナを呼んで、体力を取り戻す方法を相談してくれ。俺は、智也の様子を見てくる。」

それだけ言って、蓮はカインの部屋から一瞬で消え去った。カインは、呆然としながらも、己の運命を受け入れる為に頭を整理し始めた。ただ、どんなに理性を働かせても胸に生じた痛みだけは取り去ることができなかった。

「俺は、トモヤの子を抱くことなく死んでいく運命か・・・」

父親としてしてあげられることが、子が生まれる前に死ぬことだとはあまりにも辛いとカインは思った。


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