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第91話

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◆◆◆◆◆◆

「カイン!!大丈夫、しっかりして!!」
ベッドに駆けつけカインに話しかけると、彼は苦しそうな表情のまま僅かに目を開いて私に視線を向け口を開いた。

「トモヤ・・・無事でよかった。怪我はないか?腹の子は無事か?酷いことは・・・・されなかったか?」

カインの声はかすれていた。私は涙ぐみながら、彼の手に自身の手を重ねると彼に話かけていた。
「心配かけてごめんね。カイン、私は大丈夫だよ。子供も元気にお腹で育ってる。それより、カインは自分の体のことだけを考えて!!」
私の言葉に、カインが僅かに微笑んだがすぐに苦悶の表情に変わる。
「ぐっ・・ううっ。すまない、お前は俺の手で獣族から救いだしたかったが、こんな状態でな。わが子をこの手に抱くことも・・・ぐっ・・はぁ・・叶わぬかもしれない。」

「そんな弱気な事言わないでよ!!あなたの子供なんだよ、カイン。その手に我が子を抱いてよ!!」

私は苦しむカインを抱きしめていた。カインの体温は酷く高く、衣服は汗でぐっしょりとして彼の肌に張り付いていた。元は筋肉質だった体だったが、食事をまともに取っていないのかしばらく見ないうちにすっかりやせ細っていた。
「ちゃんとご飯食べてるの、カイン?こんなに痩せてしまって・・・」

「ここ数日は、カイン様は食事をとってもすぐに嘔吐されて口にできるのは、水だけなのです。」

私の質問にそう答えたのは、海パン魔法使いのギルドだった。突然私の背後に現れたギルドに驚いていると、彼は私の体をカインから引き剥がした。
「ちょっと、何をするの!?」
「トモヤ様、あなたは人質として監禁されていたみなのですよ。そして、馬車に揺られて王宮に帰ってきたばかりだ。あなたは自覚されていないですが、相当体が疲労しています。ご自身の部屋で休養して頂きます。」
「でもカインが!!」
「カイン様の治療は、私と私の姉のギーナが全力を尽くしております。どうか、トモヤ様はお部屋でお休みください。」
「でも・・」
私が躊躇っていると、弱々しい声でカインが話しかけてきた。

「トモヤ、ギルドの言うとおり休むといい。もう一人の体ではないのだぞ?俺の子が・・・そのお腹には宿っているのだろ?その身を大事にして欲しい。」

私は、カインに促されて仕方なくカインの部屋を後にすることにした。確かに自分自身の疲れを感じていた。それに、この部屋に居ても私がカインの役に立てないことは明らかだった。私は唇をかみ締めながらも、あることを思いついて私を抱きしめるギルドに話しかけていた。

「ギルド、獣族の女性からつわりに効果がある薬草パンの作り方を教えてもらったの。もしかしたら、その薬草には吐き気を止める効果があるのかもしれない。カインの吐き気を止めるヒントになるかもしれない。これを、女医のギーナに渡してくれる?」

「承知した。」

私はギルドに獣族のリリカから貰った薬草パンのレシピを手渡した。彼はそれを受け取ると、マントの裏に大事そうに納めた。

「智也、部屋に行って休むとしよう。お前、顔色が悪いぞ。」
「蓮・・・」

それまで黙って見守っていた蓮が私に近づき、ギルドから奪うように私を抱きしめると魔法で瞬間移動した。そして、気が付くと私は自身の寝室のベッドの上に横たわっていた。蓮はベッドの傍にいて、優しく私の髪を撫でていた。私は横になったまま、蓮に向かって声をかけていた。

「カインに掛けられた呪いを解くことはできな、蓮?あんなに苦しそうにしている姿、私・・見ていられないよ。」
「・・・・智也。あいつが呪いに掛かったのは自業自得だとは思わないか?『トモ』を殺した罪だ。そして、俺はその『トモ』の生まれ変わりだ。『トモ』の祖母の言葉を信じるならな。そんな俺に、カインの呪いを解けと言うのか智也は?」
「確かに、カインが呪いに掛かったのは自業自得だと思う。でも、あの人は私の初めての男性で、そして・・・私のお腹の子のたった一人の父親なの。生まれてくる子を抱きしめて欲しいの。蓮に酷いことを頼んでいることは分かってる。だって、あの人はあなたを殺した人だものね。でも・・それでも!!」

語気を強め蓮に話し掛けながらも、私の脳裏にはカインの苦しむ姿がくっきりと焼き付いていて離れなかった。蓮に酷い事を頼んでいる事は分かっていた。カインは『トモ』を殺した男だ。その『トモ』の生まれ変わりである蓮にとっては、カインは自分を殺した男でしかないだろう。それでも、カインを助けて欲しいと蓮に願ってしまう自分がいる。蓮が傷つくと分かっているのに。

いつの間にか目頭が熱くなり、涙が溢れて頬を伝って流れ落ちた。蓮は、そっと私の頬に流れた涙を指で拭うと、顔を近づけて私の唇を優しく奪った。そっと唇に触れただけのキスだったが、彼は私に魔法をかけたようだった。急に睡魔に襲われて、私はそれに抗いがたく目をゆっくりと閉じた。

「俺に『トモ』の記憶なんてない。だから、別に酷いことなんて頼んでないよ。俺は今からカインの治療に全力を尽くすつもりだ。お前は安心して眠れ・・・智也。」

「蓮・・・ありがとう。」

睡魔に襲われ意識を失いそうになりながら、私は蓮にそう囁いた。蓮の手が優しく私の頬を撫でる気配を感じつつ私は、寝室のベッドで深い眠りについた。

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