上 下
85 / 172

第84話

しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆

私はアーサーの問いに首を振っていた。そしてゆっくり口を開く。

「カインに無理やり側室にされて、アーサーから引き裂かれて、私は彼を恨んだよ。彼に、無理やり処女を奪われて泣いたよ・・・・すごくいっぱい。でも、この妊娠は、無理やりじゃないの。私は、カインを庇護者である親鳥として受け入れることでこの世界で生きていこうとしたの。アーサーにとっては裏切りだよね。」

「そうじゃないさ。トモヤが責任を感じることは無い。裏切ったのはむしろ俺のほうなんだ。俺はお前と出逢い過ごすうちに・・お前が『トモ』の生まれ変わりのように思うようになっていた。黒い目黒い髪の少女が女性となって俺の前に現れて心を奪われてしまった。」

「アーサー」

アーサーは自嘲気味に笑うと言葉を続けた。
「俺はいまだに『トモ』の死にとらわれている事に、改めて気づかされた。お前をカインから取り戻す為に弟の部屋に乗り込んだとき、俺はお前のことを『トモ』と呼んでしまった。こんな俺を、トモヤが愛せないのは当然だ。側室になったお前を、もうこの手に取り戻すことは俺にはできない。お前は、カインから逃げれば側室の指輪の呪いで死んでしまう。俺も、母や妹を抱える身でカインを敵に回すことはできない。がんじがらめで、お前の為に何もしてあげることができない。」

アーサーが苦しそうにそう言ったので、私は慌てて口を開いた。

「アーサーが私のことで気に病むことなんてないよ。だって、私はお腹に子供を宿した時にもうカインの妻として生きてくって決めたんだから。カインに乗り換えた裏切り者だって、私を罵倒してくれていいくらいなんだから、アーサーは!!私のことで自分を責めたりしないで。ね、アーサー。」

私の言葉に、アーサーは眩しそうに私を見つめて口を開いた。

「女は強い生き物なんだな。」
私は笑って答えた。
「私も、女になって初めて女って男より逞しい生き物だって気が付いた。運命に流されて溺れているみたいに見えるかもしれないけど、その実とっても逞しくて男の人たちを飲み込んじゃうくらい図太く生きていくんだから!!」
「そうか」
アーサーはくすりと笑って私を抱き寄せると、不意に真剣な顔になって口を開いた。

「だが、心配なんだ。トモヤは、俺の母と同じ立場になってしまった。もし、側室が男の子を産めば正妃との確執が生まれる。もし、正妃に男の子が生まれたら・・・俺や母と同じ様に王宮を追われる立場になるかもしれない。それに・・・」
「それに・・?」
「カインが王になる前に、『トモ』の呪いによって死んでしまえばお前は完全に庇護者を失うことになってしまう。子を抱えたお前が王宮で生きていけるとも思えない。王宮は権力を狙う王族貴族が巣食う恐ろしい場所だ。お前の身が心配でたまらないんだ。」

「大げさだな、アーサーは。それに、まだ私が男の子を生むとも限らないよ。女の子かもしれないし?」
「蓮は、男だと信じているようだ。」
「蓮が?」

最強の魔法使いが、男の子だと言うのなら私のお腹の子は男の子なのかもしれない。私は、お腹をさすった。まだ膨らみは感じられないが、すこし周りより体温が高いような気がした。命が宿っている為だろうか?
私は微笑みながら、口を開いた。

「もし私が王宮で行き場を失ったら・・・里帰りしていい、アーサー?」
「里帰り?」
「私のこの世界での実家はアーサーのお城って気がするから。駄目?」

ちょっと可愛らしく首をかしげて微笑むと、アーサーは参ったと言うように甘いため息を付いて私を抱き寄せると顔を近づけた。そして、優しく唇を奪う。私がそっと唇を開くと、彼の舌が優しく入ってきた。アーサーは馬車のソファに私を横にすると優しく唇を奪った。絡みつくお互いの熱い舌が唾液を零しながらようやく離れた時に、アーサーが呟いた。

「女は、やはり逞しい。」
「でしょ?」
「俺の城がお前の実家ならば、しっかりと守らなくてはならないな。いつでも里帰りできるように、薔薇の園も、温泉の出る浴室も綺麗にしておこう。そうだ、メアリーがお前が王宮に行ってから元気が無いんだ。きっとお前が帰ってきたら、喜ぶよ。」

メアリーの名前を聞き、思わずメアリーのペニス棒コレクションを思い浮かべ笑みを漏らしてしまった。アーサーも微笑みながら、私を馬車のソファから抱き起こしてくれた。

走る馬車から車窓の森の緑を視線に捉えながら、ふと気が付いてアーサーに聞いていた。

「そういえば、この人質救出の指揮を取るようにアーサーに命じたのは、カインなの?」
「ああ、あいつが俺と蓮にトモヤを迎えに行くように命じたんだ。」
「そうなんだ・・・カインは何を考えて、私とアーサーを逢わせたのかな?」

私がそう言うと、アーサーはちょっと考え込みながら口を開いた。

「カインは、俺にトモヤが自分の子を宿している姿を見せ付けたかったのかもしれないな。お前のことを諦めろという意味が含まれているのも知れない。それに、蓮の事もあったしな・・・」

「蓮のことって?」

私が不思議そうに聞くと、アーサーは躊躇した後に口を開いた。

「牢獄塔で『トモ』の祖母が死んでから、しばらくあいつの様子がおかしかったんだ。誰が話しかけても反応を示さなかったらしくて、魔法使いの契約をした俺が牢獄塔に呼ばれた。あんなにぼんやりとした蓮は初めてだったよ。もっとも、正気に戻ってからの蓮は何時もと変わらない様子だったがな。」

蓮が牢獄塔の最上階に強力な魔法防壁を張っていたことは覚えている。私が護送兵にレイプされそうになり、彼に助けを求めても私の声が聞こえないほどに蓮は何かに気を奪われている様子だった。いつも飄々としている蓮が正気を失っている姿など想像もできなかった。

「蓮・・・」

蓮がいない馬車ががたがたとゆれながら王宮に向かっていく。どこからか溢れだす不安が私の胸をきゅっとさせた。掴みどころが無い蓮が、ますます分からなくなっていく様で怖かった。

私は不安になって彼の名前を呼んでいた。

◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指すい桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...