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第84話
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◆◆◆◆◆◆
私はアーサーの問いに首を振っていた。そしてゆっくり口を開く。
「カインに無理やり側室にされて、アーサーから引き裂かれて、私は彼を恨んだよ。彼に、無理やり処女を奪われて泣いたよ・・・・すごくいっぱい。でも、この妊娠は、無理やりじゃないの。私は、カインを庇護者である親鳥として受け入れることでこの世界で生きていこうとしたの。アーサーにとっては裏切りだよね。」
「そうじゃないさ。トモヤが責任を感じることは無い。裏切ったのはむしろ俺のほうなんだ。俺はお前と出逢い過ごすうちに・・お前が『トモ』の生まれ変わりのように思うようになっていた。黒い目黒い髪の少女が女性となって俺の前に現れて心を奪われてしまった。」
「アーサー」
アーサーは自嘲気味に笑うと言葉を続けた。
「俺はいまだに『トモ』の死にとらわれている事に、改めて気づかされた。お前をカインから取り戻す為に弟の部屋に乗り込んだとき、俺はお前のことを『トモ』と呼んでしまった。こんな俺を、トモヤが愛せないのは当然だ。側室になったお前を、もうこの手に取り戻すことは俺にはできない。お前は、カインから逃げれば側室の指輪の呪いで死んでしまう。俺も、母や妹を抱える身でカインを敵に回すことはできない。がんじがらめで、お前の為に何もしてあげることができない。」
アーサーが苦しそうにそう言ったので、私は慌てて口を開いた。
「アーサーが私のことで気に病むことなんてないよ。だって、私はお腹に子供を宿した時にもうカインの妻として生きてくって決めたんだから。カインに乗り換えた裏切り者だって、私を罵倒してくれていいくらいなんだから、アーサーは!!私のことで自分を責めたりしないで。ね、アーサー。」
私の言葉に、アーサーは眩しそうに私を見つめて口を開いた。
「女は強い生き物なんだな。」
私は笑って答えた。
「私も、女になって初めて女って男より逞しい生き物だって気が付いた。運命に流されて溺れているみたいに見えるかもしれないけど、その実とっても逞しくて男の人たちを飲み込んじゃうくらい図太く生きていくんだから!!」
「そうか」
アーサーはくすりと笑って私を抱き寄せると、不意に真剣な顔になって口を開いた。
「だが、心配なんだ。トモヤは、俺の母と同じ立場になってしまった。もし、側室が男の子を産めば正妃との確執が生まれる。もし、正妃に男の子が生まれたら・・・俺や母と同じ様に王宮を追われる立場になるかもしれない。それに・・・」
「それに・・?」
「カインが王になる前に、『トモ』の呪いによって死んでしまえばお前は完全に庇護者を失うことになってしまう。子を抱えたお前が王宮で生きていけるとも思えない。王宮は権力を狙う王族貴族が巣食う恐ろしい場所だ。お前の身が心配でたまらないんだ。」
「大げさだな、アーサーは。それに、まだ私が男の子を生むとも限らないよ。女の子かもしれないし?」
「蓮は、男だと信じているようだ。」
「蓮が?」
最強の魔法使いが、男の子だと言うのなら私のお腹の子は男の子なのかもしれない。私は、お腹をさすった。まだ膨らみは感じられないが、すこし周りより体温が高いような気がした。命が宿っている為だろうか?
私は微笑みながら、口を開いた。
「もし私が王宮で行き場を失ったら・・・里帰りしていい、アーサー?」
「里帰り?」
「私のこの世界での実家はアーサーのお城って気がするから。駄目?」
ちょっと可愛らしく首をかしげて微笑むと、アーサーは参ったと言うように甘いため息を付いて私を抱き寄せると顔を近づけた。そして、優しく唇を奪う。私がそっと唇を開くと、彼の舌が優しく入ってきた。アーサーは馬車のソファに私を横にすると優しく唇を奪った。絡みつくお互いの熱い舌が唾液を零しながらようやく離れた時に、アーサーが呟いた。
「女は、やはり逞しい。」
「でしょ?」
「俺の城がお前の実家ならば、しっかりと守らなくてはならないな。いつでも里帰りできるように、薔薇の園も、温泉の出る浴室も綺麗にしておこう。そうだ、メアリーがお前が王宮に行ってから元気が無いんだ。きっとお前が帰ってきたら、喜ぶよ。」
メアリーの名前を聞き、思わずメアリーのペニス棒コレクションを思い浮かべ笑みを漏らしてしまった。アーサーも微笑みながら、私を馬車のソファから抱き起こしてくれた。
走る馬車から車窓の森の緑を視線に捉えながら、ふと気が付いてアーサーに聞いていた。
「そういえば、この人質救出の指揮を取るようにアーサーに命じたのは、カインなの?」
「ああ、あいつが俺と蓮にトモヤを迎えに行くように命じたんだ。」
「そうなんだ・・・カインは何を考えて、私とアーサーを逢わせたのかな?」
私がそう言うと、アーサーはちょっと考え込みながら口を開いた。
「カインは、俺にトモヤが自分の子を宿している姿を見せ付けたかったのかもしれないな。お前のことを諦めろという意味が含まれているのも知れない。それに、蓮の事もあったしな・・・」
「蓮のことって?」
私が不思議そうに聞くと、アーサーは躊躇した後に口を開いた。
「牢獄塔で『トモ』の祖母が死んでから、しばらくあいつの様子がおかしかったんだ。誰が話しかけても反応を示さなかったらしくて、魔法使いの契約をした俺が牢獄塔に呼ばれた。あんなにぼんやりとした蓮は初めてだったよ。もっとも、正気に戻ってからの蓮は何時もと変わらない様子だったがな。」
蓮が牢獄塔の最上階に強力な魔法防壁を張っていたことは覚えている。私が護送兵にレイプされそうになり、彼に助けを求めても私の声が聞こえないほどに蓮は何かに気を奪われている様子だった。いつも飄々としている蓮が正気を失っている姿など想像もできなかった。
「蓮・・・」
蓮がいない馬車ががたがたとゆれながら王宮に向かっていく。どこからか溢れだす不安が私の胸をきゅっとさせた。掴みどころが無い蓮が、ますます分からなくなっていく様で怖かった。
私は不安になって彼の名前を呼んでいた。
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私はアーサーの問いに首を振っていた。そしてゆっくり口を開く。
「カインに無理やり側室にされて、アーサーから引き裂かれて、私は彼を恨んだよ。彼に、無理やり処女を奪われて泣いたよ・・・・すごくいっぱい。でも、この妊娠は、無理やりじゃないの。私は、カインを庇護者である親鳥として受け入れることでこの世界で生きていこうとしたの。アーサーにとっては裏切りだよね。」
「そうじゃないさ。トモヤが責任を感じることは無い。裏切ったのはむしろ俺のほうなんだ。俺はお前と出逢い過ごすうちに・・お前が『トモ』の生まれ変わりのように思うようになっていた。黒い目黒い髪の少女が女性となって俺の前に現れて心を奪われてしまった。」
「アーサー」
アーサーは自嘲気味に笑うと言葉を続けた。
「俺はいまだに『トモ』の死にとらわれている事に、改めて気づかされた。お前をカインから取り戻す為に弟の部屋に乗り込んだとき、俺はお前のことを『トモ』と呼んでしまった。こんな俺を、トモヤが愛せないのは当然だ。側室になったお前を、もうこの手に取り戻すことは俺にはできない。お前は、カインから逃げれば側室の指輪の呪いで死んでしまう。俺も、母や妹を抱える身でカインを敵に回すことはできない。がんじがらめで、お前の為に何もしてあげることができない。」
アーサーが苦しそうにそう言ったので、私は慌てて口を開いた。
「アーサーが私のことで気に病むことなんてないよ。だって、私はお腹に子供を宿した時にもうカインの妻として生きてくって決めたんだから。カインに乗り換えた裏切り者だって、私を罵倒してくれていいくらいなんだから、アーサーは!!私のことで自分を責めたりしないで。ね、アーサー。」
私の言葉に、アーサーは眩しそうに私を見つめて口を開いた。
「女は強い生き物なんだな。」
私は笑って答えた。
「私も、女になって初めて女って男より逞しい生き物だって気が付いた。運命に流されて溺れているみたいに見えるかもしれないけど、その実とっても逞しくて男の人たちを飲み込んじゃうくらい図太く生きていくんだから!!」
「そうか」
アーサーはくすりと笑って私を抱き寄せると、不意に真剣な顔になって口を開いた。
「だが、心配なんだ。トモヤは、俺の母と同じ立場になってしまった。もし、側室が男の子を産めば正妃との確執が生まれる。もし、正妃に男の子が生まれたら・・・俺や母と同じ様に王宮を追われる立場になるかもしれない。それに・・・」
「それに・・?」
「カインが王になる前に、『トモ』の呪いによって死んでしまえばお前は完全に庇護者を失うことになってしまう。子を抱えたお前が王宮で生きていけるとも思えない。王宮は権力を狙う王族貴族が巣食う恐ろしい場所だ。お前の身が心配でたまらないんだ。」
「大げさだな、アーサーは。それに、まだ私が男の子を生むとも限らないよ。女の子かもしれないし?」
「蓮は、男だと信じているようだ。」
「蓮が?」
最強の魔法使いが、男の子だと言うのなら私のお腹の子は男の子なのかもしれない。私は、お腹をさすった。まだ膨らみは感じられないが、すこし周りより体温が高いような気がした。命が宿っている為だろうか?
私は微笑みながら、口を開いた。
「もし私が王宮で行き場を失ったら・・・里帰りしていい、アーサー?」
「里帰り?」
「私のこの世界での実家はアーサーのお城って気がするから。駄目?」
ちょっと可愛らしく首をかしげて微笑むと、アーサーは参ったと言うように甘いため息を付いて私を抱き寄せると顔を近づけた。そして、優しく唇を奪う。私がそっと唇を開くと、彼の舌が優しく入ってきた。アーサーは馬車のソファに私を横にすると優しく唇を奪った。絡みつくお互いの熱い舌が唾液を零しながらようやく離れた時に、アーサーが呟いた。
「女は、やはり逞しい。」
「でしょ?」
「俺の城がお前の実家ならば、しっかりと守らなくてはならないな。いつでも里帰りできるように、薔薇の園も、温泉の出る浴室も綺麗にしておこう。そうだ、メアリーがお前が王宮に行ってから元気が無いんだ。きっとお前が帰ってきたら、喜ぶよ。」
メアリーの名前を聞き、思わずメアリーのペニス棒コレクションを思い浮かべ笑みを漏らしてしまった。アーサーも微笑みながら、私を馬車のソファから抱き起こしてくれた。
走る馬車から車窓の森の緑を視線に捉えながら、ふと気が付いてアーサーに聞いていた。
「そういえば、この人質救出の指揮を取るようにアーサーに命じたのは、カインなの?」
「ああ、あいつが俺と蓮にトモヤを迎えに行くように命じたんだ。」
「そうなんだ・・・カインは何を考えて、私とアーサーを逢わせたのかな?」
私がそう言うと、アーサーはちょっと考え込みながら口を開いた。
「カインは、俺にトモヤが自分の子を宿している姿を見せ付けたかったのかもしれないな。お前のことを諦めろという意味が含まれているのも知れない。それに、蓮の事もあったしな・・・」
「蓮のことって?」
私が不思議そうに聞くと、アーサーは躊躇した後に口を開いた。
「牢獄塔で『トモ』の祖母が死んでから、しばらくあいつの様子がおかしかったんだ。誰が話しかけても反応を示さなかったらしくて、魔法使いの契約をした俺が牢獄塔に呼ばれた。あんなにぼんやりとした蓮は初めてだったよ。もっとも、正気に戻ってからの蓮は何時もと変わらない様子だったがな。」
蓮が牢獄塔の最上階に強力な魔法防壁を張っていたことは覚えている。私が護送兵にレイプされそうになり、彼に助けを求めても私の声が聞こえないほどに蓮は何かに気を奪われている様子だった。いつも飄々としている蓮が正気を失っている姿など想像もできなかった。
「蓮・・・」
蓮がいない馬車ががたがたとゆれながら王宮に向かっていく。どこからか溢れだす不安が私の胸をきゅっとさせた。掴みどころが無い蓮が、ますます分からなくなっていく様で怖かった。
私は不安になって彼の名前を呼んでいた。
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