81 / 172
第80話
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
「獣の勘ではぴくぴくっとそんな感じなのよね。そうでなければ、アーサーから引き裂かれてカインに無理やり側室にされたのなら、彼のことをもっと憎んでいるはずだよね?でも、二回目のセックスは同意の下だったんだよね。それで妊娠した。つまりは・・・」
「つまりは?」
「あなたって、自分を庇護してくれる人を探して渡り歩いているひな鳥なんだよ。」
私はがくっと肩を落として呟いていた。
「ひな鳥ですか・・・なんか、元男として情けない感じ。つまり、アーサーもカインも私にとっては庇護者で親鳥って訳だ。だから、私のアーサーへの愛は本物じゃない?親鳥を慕うひな鳥の気持ちって事?」
そう言われると、なんだかそんな気もしてきた。
「私って、男を渡り歩く軽い女つうか・・・・ひな鳥ってことだよね。かなり情けない感じ・・・」
「確かにあなたからは、ひな鳥で流されて生きているってかんじを受けるわ。アーサーが好きなのに、カインが結構いい人だと解れば彼の事も受け入れようとしている。つまりは親鳥を変えようとしているんだよ。そのひな鳥のあなたが、本物のひな鳥を生もうとしている。母親になる自覚はあるの、トモヤ?」
元男の私に母親になる自覚をきかれても正直・・・あまり無い。
「無いかも、親になる自覚。」
「でしょうね。だったら、その子を生む前に本当に心から信頼できる人を見つけておく事ね。もし、あなたが生んだ子があなたにとって『愛する人』になったとしたなら、その子を託す事ができる人こそあなたにとって、本当に『愛する人』じゃないかな?」
リリカの言葉を聞きながら思わず自身のまだ膨らんでもいないお腹をさすっていた。
「この子を託す事ができる人?」
私の言葉にリリカはすこし申し別けなさそうな顔をして口を開いた。
「ごめんなさいね、トモヤ。どうしてかな、獣の勘なのかな・・・あなたが、その子を誰かに託して消えてしまいそうな気がするの。」
「私が、この子を置いて消える?」
「ごめんなさい。不吉なことを言って。もうこの話はよしましょう。長のナギ様が帰ってくるまで眠っておくといいわ。妊娠しているのに、誘拐なんか荒っぽい事に巻き込んでごめんね。」
リリカはそう言うと、私をベッドに横になるように促した。私は素直に従いすこし堅いベッドに横なった。
「眠るといいわ。私は別室にいるから何かあったら呼んで。」
「ありがとう、リリカさん。」
優しい獣族の人たち。でも、アベルには恐ろしい獣の牙と爪で護送兵を斬り殺した一面もあった。もちろん、私を蹂躙しようとした護送兵に同情はしないけど獣族には人間にはない力があるのは明らかだった。そんな野生の力を押さえ込む為に、王家はどれほどの血を流したのだろう。ギルミット一族の事もそうだ。王家は一族を恐れたがゆえに、その血を絶やした。
絶やしたはずのその血は、密かに他者と混じり薄まりながらも『トモ』に受け継がれた。そして、『トモ』はその命と引き換えにカインに拷問のような呪いをかけた。
お腹の子の父親であるカインは、その呪いにより死の淵にいる。もし彼が死んだら、生まれてくるこの子はどうなるのだろう?誰がこの子を守ってくれるのだろうか?
それに、リリカは私がこの子を誰かに託して消えると言っていた。
それは、この子をこの世界に残し私は元の世界に帰るという意味だろうか?
「そんなこと・・・できるのかな?」
確かに母親の自覚は今は無い。でも、私はこの子を生み抱きしめるのだ。その時に、私にも母親の自覚ができているのではないだろうか?そんな私が、元の世界に帰れるとしてもその子を残し帰るような、そんな選択をするものだろうか?
私は目を瞑った。疲れていたのだろうか、いつの間にか眠りに落ちていた。
不思議な夢を見た。
王家の証である青い炎に包まれた赤ちゃんを私は抱きしめている。
その赤ちゃんはやがて成長して一人で歩けるようになった。その子に誰かが近づき、王家の証である魔法使いの契約を交わした。そして、男はその子を守ると私と子に誓った。そして、王家に流れる私の血を守り続ける為に永遠に生きていくとその男は誓う。
私は離れたくないと泣いた。
泣きながら、それでも私は異世界で生まれた我が子をその男に託した。
『もし、あなたが生んだ子があなたにとって『愛する人』になったとしたなら、その子を託す事ができる人こそあなたにとって、本当に『愛する人』じゃないかな?』
「私が『愛する人』を託す事ができる人が、本当の『愛する人』?」
私は自分の呟きで目を覚ました。知らず涙が溢れて頬を伝っていた。慌てて涙を拭ってベッドから半身を起こして、ぼうっとした頭でさっき見たばかりの夢の事を考えていた。
その時だった。突然、部屋の扉が開いてアベルが現れた。
「トモヤ、迎えが来た。さあ、起きて俺と一緒に来い!!」
アーサーと蓮が迎えに来てくれたんだ!!
私は慌ててベッドから飛び出した。ドレスは牢獄塔の護送兵によって、ぼろぼろに切り裂かれていたはずだが、いつの間にか私は獣族の民族衣装を身に纏っていた。きっと、リリカがこの衣装を着せてくれたのだろう。動きやすい衣装になった私は、身軽にアベルの後を追って部屋を出た。
◆◆◆◆◆◆
「獣の勘ではぴくぴくっとそんな感じなのよね。そうでなければ、アーサーから引き裂かれてカインに無理やり側室にされたのなら、彼のことをもっと憎んでいるはずだよね?でも、二回目のセックスは同意の下だったんだよね。それで妊娠した。つまりは・・・」
「つまりは?」
「あなたって、自分を庇護してくれる人を探して渡り歩いているひな鳥なんだよ。」
私はがくっと肩を落として呟いていた。
「ひな鳥ですか・・・なんか、元男として情けない感じ。つまり、アーサーもカインも私にとっては庇護者で親鳥って訳だ。だから、私のアーサーへの愛は本物じゃない?親鳥を慕うひな鳥の気持ちって事?」
そう言われると、なんだかそんな気もしてきた。
「私って、男を渡り歩く軽い女つうか・・・・ひな鳥ってことだよね。かなり情けない感じ・・・」
「確かにあなたからは、ひな鳥で流されて生きているってかんじを受けるわ。アーサーが好きなのに、カインが結構いい人だと解れば彼の事も受け入れようとしている。つまりは親鳥を変えようとしているんだよ。そのひな鳥のあなたが、本物のひな鳥を生もうとしている。母親になる自覚はあるの、トモヤ?」
元男の私に母親になる自覚をきかれても正直・・・あまり無い。
「無いかも、親になる自覚。」
「でしょうね。だったら、その子を生む前に本当に心から信頼できる人を見つけておく事ね。もし、あなたが生んだ子があなたにとって『愛する人』になったとしたなら、その子を託す事ができる人こそあなたにとって、本当に『愛する人』じゃないかな?」
リリカの言葉を聞きながら思わず自身のまだ膨らんでもいないお腹をさすっていた。
「この子を託す事ができる人?」
私の言葉にリリカはすこし申し別けなさそうな顔をして口を開いた。
「ごめんなさいね、トモヤ。どうしてかな、獣の勘なのかな・・・あなたが、その子を誰かに託して消えてしまいそうな気がするの。」
「私が、この子を置いて消える?」
「ごめんなさい。不吉なことを言って。もうこの話はよしましょう。長のナギ様が帰ってくるまで眠っておくといいわ。妊娠しているのに、誘拐なんか荒っぽい事に巻き込んでごめんね。」
リリカはそう言うと、私をベッドに横になるように促した。私は素直に従いすこし堅いベッドに横なった。
「眠るといいわ。私は別室にいるから何かあったら呼んで。」
「ありがとう、リリカさん。」
優しい獣族の人たち。でも、アベルには恐ろしい獣の牙と爪で護送兵を斬り殺した一面もあった。もちろん、私を蹂躙しようとした護送兵に同情はしないけど獣族には人間にはない力があるのは明らかだった。そんな野生の力を押さえ込む為に、王家はどれほどの血を流したのだろう。ギルミット一族の事もそうだ。王家は一族を恐れたがゆえに、その血を絶やした。
絶やしたはずのその血は、密かに他者と混じり薄まりながらも『トモ』に受け継がれた。そして、『トモ』はその命と引き換えにカインに拷問のような呪いをかけた。
お腹の子の父親であるカインは、その呪いにより死の淵にいる。もし彼が死んだら、生まれてくるこの子はどうなるのだろう?誰がこの子を守ってくれるのだろうか?
それに、リリカは私がこの子を誰かに託して消えると言っていた。
それは、この子をこの世界に残し私は元の世界に帰るという意味だろうか?
「そんなこと・・・できるのかな?」
確かに母親の自覚は今は無い。でも、私はこの子を生み抱きしめるのだ。その時に、私にも母親の自覚ができているのではないだろうか?そんな私が、元の世界に帰れるとしてもその子を残し帰るような、そんな選択をするものだろうか?
私は目を瞑った。疲れていたのだろうか、いつの間にか眠りに落ちていた。
不思議な夢を見た。
王家の証である青い炎に包まれた赤ちゃんを私は抱きしめている。
その赤ちゃんはやがて成長して一人で歩けるようになった。その子に誰かが近づき、王家の証である魔法使いの契約を交わした。そして、男はその子を守ると私と子に誓った。そして、王家に流れる私の血を守り続ける為に永遠に生きていくとその男は誓う。
私は離れたくないと泣いた。
泣きながら、それでも私は異世界で生まれた我が子をその男に託した。
『もし、あなたが生んだ子があなたにとって『愛する人』になったとしたなら、その子を託す事ができる人こそあなたにとって、本当に『愛する人』じゃないかな?』
「私が『愛する人』を託す事ができる人が、本当の『愛する人』?」
私は自分の呟きで目を覚ました。知らず涙が溢れて頬を伝っていた。慌てて涙を拭ってベッドから半身を起こして、ぼうっとした頭でさっき見たばかりの夢の事を考えていた。
その時だった。突然、部屋の扉が開いてアベルが現れた。
「トモヤ、迎えが来た。さあ、起きて俺と一緒に来い!!」
アーサーと蓮が迎えに来てくれたんだ!!
私は慌ててベッドから飛び出した。ドレスは牢獄塔の護送兵によって、ぼろぼろに切り裂かれていたはずだが、いつの間にか私は獣族の民族衣装を身に纏っていた。きっと、リリカがこの衣装を着せてくれたのだろう。動きやすい衣装になった私は、身軽にアベルの後を追って部屋を出た。
◆◆◆◆◆◆
0
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる