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第79話
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◆◆◆◆◆◆
「前の長老は、今の長のナギさんの祖父だったの。でも、おじいさんがなくなってナギさんが跡目を継いだのよ。獣族では年齢性別関係なく強い人が長になるの。この村では、彼女が一番強いから、彼女が長になったのよ。」
リリカは私の為に、長のナギのことを丁寧に説明してくれた。私は、まだ見ぬ長のナギの姿を思い浮かべながら口を開いた。
「じゃあ、アベルは愛する人を救う為に自ら牢獄塔に侵入しようとしていたのね。なんか、愛を感じるわ。うん、なんかアベルに好感持ったかも。最初は獣の爪や牙を見て怖い奴って思ったけど、結構可愛いとこあるじゃん!」
「うん、アベルはいい人だよ。この村の獣族のみんなだって皆いい人だよ。でも、人間は・・自分と姿が違うだけで私たちを嫌う。今は、獣族の大部族が王家に忠誠を誓っているから理由無く狩られる事は無いけど、昔はよく理由無く人間に狩られたと聞くわ。もちろん、反撃もしたけど・・・結局、王国に服従する事になった。でも、それを嫌って大部族を離れる獣族も出た。それが、私たちなの先祖なのよね。」
私は、異世界の歴史をよく知らないけどきっと獣族はギルミット族と同じように王国から酷い目にあわされた歴史があるのだろう。そして、彼らはギルミットとはまた違う道を選び生き残った。王家に服従を誓う事で生き延びたけど、それでも人に支配される屈辱に耐えられず離れていった部族のひとつが、この村の人々なのだろう。誇り高き狼の一族にはその生き方がよく似合っているように思えた。
それにしても、彼らにとってみれば王位継承者の側室の私は憎むべき存在だろうに、こんなによくしてくれている。私はただお礼を言う事しかできなかった。
「ありがとうね、リリカさん。薬草入りパンすごく美味しかった。つわりも治まってきたみたい。」
私がそう言って笑いかけるとリリカは耳をぴくぴくとさせながら私に身を寄せて口を開いた。
「ねえ、アベルがあなたはアーサーの元恋人だと言っていたけど本当?」
「こ、恋人じゃないってさっき言ったでしょ!!その・・彼は私の命の恩人なの。初めてこの世界に来て、右も左もわからない時に山賊に襲われてレイプされそうになったの。その時に彼が助けてくれて、行き場の無い私を彼はお城に連れて行ってくれたの。その時から、彼のことを思うとどきどきするようになって・・たぶん、これって初恋、一目惚れかな。ラッキーにも、『愛する人』とこの世界に来て速攻で運命的に出逢っちゃったんだよね、私!」
私が照れながらそう言うと、リリカは僅かに首をかしげて口を開いた。
「で、その『愛する人』であるアーサーと男女の仲になったの?」
「うぐぅ・・それは、なってないけど。」
「じゃあ、トモヤの処女を奉げた相手は誰?」
「んん。それは、カインだけど。彼に無理やり処女を奪われたのよね。アーサーからは引き離されて勝手に側室にされるし、カインって最悪の奴でしょ。でも、カインも根っからの悪じゃないんだよね。理由があって性格が歪んじゃったんだよ。それを知ると・・・なんとなく、気持ちが揺らいじゃって。二回目は、同意の下でセックスしたんだけど・・・まさか、それで妊娠するとは思わなかったよ。人間って不思議だよね。」
リリカはじっと私の話を聞いていたが、私が話し終えると獣の耳をぴくぴくさせながら口を開いた。
「獣の勘で話すけど怒らないでね、トモヤ?多分、アーサーはあなたの『愛する人』じゃないよ。一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「初めてこの世界に来たってさっき言っていたけど、それはどういう意味?」
「え、うーーん。リリカ誰にも内緒だよ。私は、この世界とは別の世界から来たの・・って言っても解らないか?」
「そんな事無いよ。普通、獣族が作ったパンをあんなに素直に食べる人はこの世界にはいないもの。野生の勘だけど、あなたがどこか遠くから来たのは解るわ。そのあなたが、知らない土地に来て危ない目にあって、そこにアーサーが王子様の様に颯爽と現れて助けてくれた。そうよね?」
「そうだよ。」
「それをあなたは、恋だと言ったけど本当にそうかな?ねえ知ってる。ひな鳥が生まれた時、目の前にあるものがたとえ親鳥でなくても慕う事を。」
「へえ、この世界にも同じような話があるんだね。知っているよ、ことわざだっけ?」
「ことわざ?その言葉は知らないけど、つまりはあなたはひな鳥と同じなんだよ。初めてこの世界で会ったアーサーに庇護されて、この人が親鳥で守ってくれる人だって無意識に刷り込まれて慕ってしまったんだよ。」
私は眉を顰めながらリリカに聞いた。
「つまり私はアーサーのことを庇護者である親鳥のように慕っているってこと?『愛する人』では無いって事?」
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「前の長老は、今の長のナギさんの祖父だったの。でも、おじいさんがなくなってナギさんが跡目を継いだのよ。獣族では年齢性別関係なく強い人が長になるの。この村では、彼女が一番強いから、彼女が長になったのよ。」
リリカは私の為に、長のナギのことを丁寧に説明してくれた。私は、まだ見ぬ長のナギの姿を思い浮かべながら口を開いた。
「じゃあ、アベルは愛する人を救う為に自ら牢獄塔に侵入しようとしていたのね。なんか、愛を感じるわ。うん、なんかアベルに好感持ったかも。最初は獣の爪や牙を見て怖い奴って思ったけど、結構可愛いとこあるじゃん!」
「うん、アベルはいい人だよ。この村の獣族のみんなだって皆いい人だよ。でも、人間は・・自分と姿が違うだけで私たちを嫌う。今は、獣族の大部族が王家に忠誠を誓っているから理由無く狩られる事は無いけど、昔はよく理由無く人間に狩られたと聞くわ。もちろん、反撃もしたけど・・・結局、王国に服従する事になった。でも、それを嫌って大部族を離れる獣族も出た。それが、私たちなの先祖なのよね。」
私は、異世界の歴史をよく知らないけどきっと獣族はギルミット族と同じように王国から酷い目にあわされた歴史があるのだろう。そして、彼らはギルミットとはまた違う道を選び生き残った。王家に服従を誓う事で生き延びたけど、それでも人に支配される屈辱に耐えられず離れていった部族のひとつが、この村の人々なのだろう。誇り高き狼の一族にはその生き方がよく似合っているように思えた。
それにしても、彼らにとってみれば王位継承者の側室の私は憎むべき存在だろうに、こんなによくしてくれている。私はただお礼を言う事しかできなかった。
「ありがとうね、リリカさん。薬草入りパンすごく美味しかった。つわりも治まってきたみたい。」
私がそう言って笑いかけるとリリカは耳をぴくぴくとさせながら私に身を寄せて口を開いた。
「ねえ、アベルがあなたはアーサーの元恋人だと言っていたけど本当?」
「こ、恋人じゃないってさっき言ったでしょ!!その・・彼は私の命の恩人なの。初めてこの世界に来て、右も左もわからない時に山賊に襲われてレイプされそうになったの。その時に彼が助けてくれて、行き場の無い私を彼はお城に連れて行ってくれたの。その時から、彼のことを思うとどきどきするようになって・・たぶん、これって初恋、一目惚れかな。ラッキーにも、『愛する人』とこの世界に来て速攻で運命的に出逢っちゃったんだよね、私!」
私が照れながらそう言うと、リリカは僅かに首をかしげて口を開いた。
「で、その『愛する人』であるアーサーと男女の仲になったの?」
「うぐぅ・・それは、なってないけど。」
「じゃあ、トモヤの処女を奉げた相手は誰?」
「んん。それは、カインだけど。彼に無理やり処女を奪われたのよね。アーサーからは引き離されて勝手に側室にされるし、カインって最悪の奴でしょ。でも、カインも根っからの悪じゃないんだよね。理由があって性格が歪んじゃったんだよ。それを知ると・・・なんとなく、気持ちが揺らいじゃって。二回目は、同意の下でセックスしたんだけど・・・まさか、それで妊娠するとは思わなかったよ。人間って不思議だよね。」
リリカはじっと私の話を聞いていたが、私が話し終えると獣の耳をぴくぴくさせながら口を開いた。
「獣の勘で話すけど怒らないでね、トモヤ?多分、アーサーはあなたの『愛する人』じゃないよ。一つ聞いてもいい?」
「なに?」
「初めてこの世界に来たってさっき言っていたけど、それはどういう意味?」
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「そんな事無いよ。普通、獣族が作ったパンをあんなに素直に食べる人はこの世界にはいないもの。野生の勘だけど、あなたがどこか遠くから来たのは解るわ。そのあなたが、知らない土地に来て危ない目にあって、そこにアーサーが王子様の様に颯爽と現れて助けてくれた。そうよね?」
「そうだよ。」
「それをあなたは、恋だと言ったけど本当にそうかな?ねえ知ってる。ひな鳥が生まれた時、目の前にあるものがたとえ親鳥でなくても慕う事を。」
「へえ、この世界にも同じような話があるんだね。知っているよ、ことわざだっけ?」
「ことわざ?その言葉は知らないけど、つまりはあなたはひな鳥と同じなんだよ。初めてこの世界で会ったアーサーに庇護されて、この人が親鳥で守ってくれる人だって無意識に刷り込まれて慕ってしまったんだよ。」
私は眉を顰めながらリリカに聞いた。
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