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第50話

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女医のギーナは私をじっと見つめながら、口を開いた。

「まあ、とにかくお前には救えないよ・・トモヤ。レンでさえ、その呪いは解けないと言っていたからな。まあ、あいつが本心を言っているのかどうかは私には分からないがな。そうそう、カインがお世継ぎを欲しがっているといったな。カインは亡き母親に王位を継ぐ事を幼少期から何度も誓わされたのだ。その誓いをかなえる為に、現王が亡くなる前に世継ぎを得て自分が王より先に死んでも自分の子に王位を継がせる事で亡き母の誓いに報いたいと思っているのだろう。」

「それで、あんなに焦って世継ぎを欲しがっていたんだ・・・カインは。」

「だが、王位を継げるのは正妃か側室の指輪をしている妻の子だけだ。今のカインにとって側室を増やす為に指輪の契約を交わす事は、体力を失うばかりか寿命を削る行為でもあるんだ。だから、側室は増やさず正妃やお前に子供を作ることを求めたのだろうな。でも、肝心の正妃がセックス恐怖症でベッドから脱兎のごとく逃げ出すようでは・・・子供は見込めないだろうな。」

「私を無理やり抱いたように、正妃も無理やり抱いたらいいのに。」

私がポツリとそう言うと、女医のギーナはちょっと笑って口を開いた。
「カインは、元来気の弱いところがある。お前の場合、アーサーからトモヤを奪いたいという対抗心がお前を犯すという行為に走らせたのだろう。『トモ』を斬ったことからも分るように、カインはアーサーが絡むと冷静ではいられなくなるようだからな。」

私は唇をかみ締めていた。カインは無理やり私を犯して側室にした。本来なら彼を恨んでカインが死ぬのを喜んでもいいほどの立場だ。なのに、私はアーサーやカインの心と体を支配している『トモ』に負けたくないと思っている。自分の中にこれほどの、気持ちがあるとは思わなかった。私は、『トモ』という存在を憎んでいる。これが、女の嫉妬心なのだろうか?

「私、正妃のフレアにカインの子供をできるようにできるだけの努力をするよ!!ギーナ先生、セックスに関する文献を全部フレアの部屋に運んでください。私が、彼女のセックス指導をしますから!!」

「でも、お前セックス初心者じゃなかったか?」
「うっ。じゃ・・じゃあ、お互いにセックスの奥深さを学びます。本を届けてくださいね。頼みますね。」
「それは了解した。正妃に懐妊させるよう努力することは良いことだが、お前も側室だ。お前の子も、王位を継げる立場にあるのだぞ?お前も子作りに励んではどうだ?」
「うっ・・。でもやっぱり正妃が子供を生んでくれるのが一番いいと思います。」

「そうか、まあ・・それでよかろう。そうだ、お前『トモ』に随分こだわっているようだが興味があるようなら彼女の祖母に会うことは可能だぞ。彼女に『トモ』がどんな少女だったか聞いてくればいい。」

「先生、私の心読みましたね。でも、『トモ』の祖母が生きているなんて意外です。彼女もギルミット一族の末裔なのですか?」
そう聞くと、女医はうなずいて口を開いた。
「そうだ、血は薄まっているが祖母もギルミットの末裔だ。『トモ』がカインに斬り殺された後、彼女がギルミットの末裔だと分り、王国は彼女の血族のものを探したのだ。で、彼女の祖母が捕まった。彼女の両親はすでに亡くなっていて、祖母が『トモ』を育てていたらしい。今確認されているところでは、彼女が最後のギルミットの血をひく唯一の人間だ。」

「『トモ』の祖母は今どこにいるのですか!!彼女なら、カインに掛けられた呪いを解く事ができるかもしれない。」
私がそう言うと、彼女は無理だというように手を振ったがそれでも居場所を教えてくれた。

「王家もカインに掛けられた呪いを解くヒントを得られるかもしれないと、彼女を捕らえたが拷問に掛けても答えない。私も何度か会ったが、あれは頑固な女だ。何度問われても『呪いを解く事はできぬ』の一点張りでな。王家もあきらめて、魔法の防壁が張られた牢獄の塔に老女を幽閉しているのが現状だ。」

「牢獄の塔に幽閉されているのですね。」
「会うつもりか?」
「そのつもりです。」

不意に女医のギーナが真剣な顔になって口を開いた。

「トモヤ、お前にとってカイン様は憎い相手かもしれないが・・・・あいつの苦しみも分ってあげて欲しい。王位に継ぐことを運命づけられながら、王家の証である魔法使いと契約する力が無い。そのことに悩んでいた彼の前にアーサーと魔法使いの契約をした『トモ』が現れたのだ。『トモ』は11歳のカインと出逢ってこう言ったそうだ。『あなたには王家の血は流れていない。アーサーこそが正統な後継者です』だとな。カインは怒りのあまりその魔法使いの少女を斬り殺してしまった。そして、彼女の呪いを受けて、父王よりも先に死ぬかも知れぬ現実に焦り、足掻いているのだ。王位を継ぐ世継ぎが欲しいと。」

カインの苦しみ。
彼は弱みを見せない。私を犯し、処女を奪った。アーサーへのこだわりから、愛してもいない私を側室にして、アーサーから引き離した。王位を継ぐことに固執して、そのためには手段を選ばない男。

でも、11歳の幼いカインが『トモ』によって王位を継ぐ資格を全否定された時、それを一笑にふす余裕があっただろうか?

私はまた『トモ』に嫉妬している。彼女の事が知りたかった。その彼女の事をよく知る祖母が生きているのなら会いたかった。私は、蓮に頼んで魔法で牢獄の塔に連れて行ってもらうことにした。

でもその前に、まずは正妃フレアをセックス大好き女にするってカインと約束したっけ。そっちが先だな。私はギーナにお礼を言うと治療院を後にして正妃フレアの部屋へと向かった。



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