39 / 172
第38話
しおりを挟む
◆◆◆◆◆◆
次期王位を継ぐカインと正妃のフレアの婚礼の儀は、とても盛大で華やかなものだった。現王の契約魔法使いが魔法で占った吉日に、婚姻は王宮の婚儀の間で執り行われた。
王国の首都アザンガルドは祝賀ムードに包まれ、首都に住む国民も辺境からはるばる来た少数民族や、豪商、豪農もそれぞれ祝いの正装を身にまとい華やかだった。朝から祝いの酒を飲むためにパブは開放されたり、花束を売る商人や食べ物を売る商人がいたりとアザンガルドは商業的にも賑わっていた。
その首都の中心にある王宮は、さらに華やかだった。王族、有力貴族はもちろん、辺境を治める諸侯もこぞって若い二人の門出を祝って煌びやかな馬車で王宮にやってきた。その馬車から降り立つご夫人たちの衣装も艶やかで、一部王宮の庭園を庶民に開放していることもあり、その豪華絢爛なご夫人たちの様子に、淡いため息をつく庶民の女性も多かった。といっても、そのため息に王侯貴族への反感のような感情は感じなかった。
もともと、この国は豊かな土と川に恵まれ豊富に食料も取れることから、王国に反することをしない限りは飢えることなくそこそこの生活が庶民にも保障されていた。ただ、辺境では宗教や種族との違いから、小競り合い程度の紛争は長々と続いていた。それでも、国の財政を逼迫させるほどのものではなかった。その為か、次期王位を継ぐカインにもその正妃フレアの婚儀も好意的に受け止められていた。王宮のバルコニーに主役の二人が出て庭園に集まった庶民に手を振ったときには、盛大な歓声と拍手が沸き起こった。
国民への婚姻の報告が終わると、その後は王侯貴族たちとの婚姻のパーティーが広間で行われた。現王は病に伏し彼の正妃は数年前になくなっていることから、王と王妃の席は空白だったがその心許無さを忘れさせるような存在が、このパーティーにはいた。
まずは、カイン。
婚礼の正装を身に纏った彼は、凛々しくかなりの男前で貴族の未婚の女性はもちろん夫人たちまでも甘いため息をつかせていた。
そのカインの両脇を固める、魔法使いの蓮とギルド。
ギルドのマントの濃い色もさることながら、蓮の漆黒に近いマントの色が初めて彼を見た王侯貴族の度肝を抜いた。彼らのマントには王家の紋章が青く刻まれその二人がカインを守るように両脇に立っている姿は、王家に反感を持つ貴族や地方を治める諸侯に衝撃を与えた。まだ病み上がりの蓮であったがカインからの命令でパーティーに出席させられた理由は、反感を持つ人間への押さえとしての意味が大きいようだ。
そして、この婚儀のもう一人の主役であるカインの正妃。
フレアは、カインが言っていたとおりあまり美人とはいえず、小柄ですこし太っていることもあり豪華な衣装を着ると歩くたびによたよたとして、王族や貴族たちの密かな失笑を買っていた。私は、そんな貴族たちの密かな失笑を不快に思った。きっと、もう少し彼女の体型にあった衣装を着れば初々しく愛らしい印象になったのではないかと思うと、彼女の衣装係りに文句を言いたいくらいだった。とにかく、私は彼女に好意を持った。
さて、このパーティーで一番の好奇の目で見られていたのは、私だろう。
数日前までアーサの女だっとはずの私が、いつの間にかカインの側室となっていて堂々と正妃とカインの婚儀のパーティーに参加しているのだから、好奇の目で見られるのは仕方ない。仕方ないのだけど、貴族の視線がじろじろと私の体を這い、アーサーとカインをたぶらかした悪女の裸体を見てみたいという囁きが聞こえた時には、正直かなり凹んだ。
だから、婚儀の祝いの席になって出たくなかったのだ。カインが側室の務めだというから出席を迫ったから仕方なく参加したが今すぐ王宮で宛がわれた自室に帰りたい気分だった。それでも、この場にいるのはアーサーに会いたかったから。私はきょろきょろしながら、パーティー会場で彼の姿を求めそしてすぐに見つけた。
アーサーもまた、この会場で目立つ存在だった。カインの兄であるアーサーは、カインの身に何かあれば王位を継ぐ可能性がある人物である。彼が、先日の王の間の騒動で審問にかけられたことやカインに剣を向けたことは伏せられたが、以前から兄弟間に確執があることは知れ渡っている。そして、その決定打が私の存在だ。
黒髪に似合うとカインガ真紅の豪華なドレスをプレゼントしてくれた。その黒髪には蓮が魔法で作った椿の髪飾りで彩られている。アーサーの姿を見た私の黒い瞳は思わず潤んで、貴族たちの勝手な憶測をよぶことになってしまった。アーサーを突き放して、カインの下にいることを選んだのは私。
それでも、アーサーの姿を見るにつけ、彼が私と共に王宮から逃げようと差し出してくれたその手を振り切った自分の行動が、本当に正しかったのか分らなかった。
あのまま、彼と逃げて・・・・アーサーとセックスしていれば、この恋は成就しなくても元の世界に帰れたのかもしれないのに。蓮やモモを元の世界に還すきっかけを自分の手で壊してしまったのだから。
ううん。そんなのは、後付の言い訳。
ただ、アーサーのその手に自らの手を重ねてこの王宮から逃げ出したかった。彼の唇を私の唇で奪い、その素肌に自分の素肌を重ねたかった。彼のものを体内に埋め込み、アーサーの躍動と彼の精液を受け入れたかった。元男の私が・・・彼の体と心全てを欲しがっている。浅ましいほどに、貪欲に。
このパーティーで、アーサーが私と視線を合わせることは無かった。
それが悲しくて、いつの間にか傍にいた蓮に寄りかかりながら、この祝賀会が早く終わってくれることを私は願っていた。
◆◆◆◆◆◆
次期王位を継ぐカインと正妃のフレアの婚礼の儀は、とても盛大で華やかなものだった。現王の契約魔法使いが魔法で占った吉日に、婚姻は王宮の婚儀の間で執り行われた。
王国の首都アザンガルドは祝賀ムードに包まれ、首都に住む国民も辺境からはるばる来た少数民族や、豪商、豪農もそれぞれ祝いの正装を身にまとい華やかだった。朝から祝いの酒を飲むためにパブは開放されたり、花束を売る商人や食べ物を売る商人がいたりとアザンガルドは商業的にも賑わっていた。
その首都の中心にある王宮は、さらに華やかだった。王族、有力貴族はもちろん、辺境を治める諸侯もこぞって若い二人の門出を祝って煌びやかな馬車で王宮にやってきた。その馬車から降り立つご夫人たちの衣装も艶やかで、一部王宮の庭園を庶民に開放していることもあり、その豪華絢爛なご夫人たちの様子に、淡いため息をつく庶民の女性も多かった。といっても、そのため息に王侯貴族への反感のような感情は感じなかった。
もともと、この国は豊かな土と川に恵まれ豊富に食料も取れることから、王国に反することをしない限りは飢えることなくそこそこの生活が庶民にも保障されていた。ただ、辺境では宗教や種族との違いから、小競り合い程度の紛争は長々と続いていた。それでも、国の財政を逼迫させるほどのものではなかった。その為か、次期王位を継ぐカインにもその正妃フレアの婚儀も好意的に受け止められていた。王宮のバルコニーに主役の二人が出て庭園に集まった庶民に手を振ったときには、盛大な歓声と拍手が沸き起こった。
国民への婚姻の報告が終わると、その後は王侯貴族たちとの婚姻のパーティーが広間で行われた。現王は病に伏し彼の正妃は数年前になくなっていることから、王と王妃の席は空白だったがその心許無さを忘れさせるような存在が、このパーティーにはいた。
まずは、カイン。
婚礼の正装を身に纏った彼は、凛々しくかなりの男前で貴族の未婚の女性はもちろん夫人たちまでも甘いため息をつかせていた。
そのカインの両脇を固める、魔法使いの蓮とギルド。
ギルドのマントの濃い色もさることながら、蓮の漆黒に近いマントの色が初めて彼を見た王侯貴族の度肝を抜いた。彼らのマントには王家の紋章が青く刻まれその二人がカインを守るように両脇に立っている姿は、王家に反感を持つ貴族や地方を治める諸侯に衝撃を与えた。まだ病み上がりの蓮であったがカインからの命令でパーティーに出席させられた理由は、反感を持つ人間への押さえとしての意味が大きいようだ。
そして、この婚儀のもう一人の主役であるカインの正妃。
フレアは、カインが言っていたとおりあまり美人とはいえず、小柄ですこし太っていることもあり豪華な衣装を着ると歩くたびによたよたとして、王族や貴族たちの密かな失笑を買っていた。私は、そんな貴族たちの密かな失笑を不快に思った。きっと、もう少し彼女の体型にあった衣装を着れば初々しく愛らしい印象になったのではないかと思うと、彼女の衣装係りに文句を言いたいくらいだった。とにかく、私は彼女に好意を持った。
さて、このパーティーで一番の好奇の目で見られていたのは、私だろう。
数日前までアーサの女だっとはずの私が、いつの間にかカインの側室となっていて堂々と正妃とカインの婚儀のパーティーに参加しているのだから、好奇の目で見られるのは仕方ない。仕方ないのだけど、貴族の視線がじろじろと私の体を這い、アーサーとカインをたぶらかした悪女の裸体を見てみたいという囁きが聞こえた時には、正直かなり凹んだ。
だから、婚儀の祝いの席になって出たくなかったのだ。カインが側室の務めだというから出席を迫ったから仕方なく参加したが今すぐ王宮で宛がわれた自室に帰りたい気分だった。それでも、この場にいるのはアーサーに会いたかったから。私はきょろきょろしながら、パーティー会場で彼の姿を求めそしてすぐに見つけた。
アーサーもまた、この会場で目立つ存在だった。カインの兄であるアーサーは、カインの身に何かあれば王位を継ぐ可能性がある人物である。彼が、先日の王の間の騒動で審問にかけられたことやカインに剣を向けたことは伏せられたが、以前から兄弟間に確執があることは知れ渡っている。そして、その決定打が私の存在だ。
黒髪に似合うとカインガ真紅の豪華なドレスをプレゼントしてくれた。その黒髪には蓮が魔法で作った椿の髪飾りで彩られている。アーサーの姿を見た私の黒い瞳は思わず潤んで、貴族たちの勝手な憶測をよぶことになってしまった。アーサーを突き放して、カインの下にいることを選んだのは私。
それでも、アーサーの姿を見るにつけ、彼が私と共に王宮から逃げようと差し出してくれたその手を振り切った自分の行動が、本当に正しかったのか分らなかった。
あのまま、彼と逃げて・・・・アーサーとセックスしていれば、この恋は成就しなくても元の世界に帰れたのかもしれないのに。蓮やモモを元の世界に還すきっかけを自分の手で壊してしまったのだから。
ううん。そんなのは、後付の言い訳。
ただ、アーサーのその手に自らの手を重ねてこの王宮から逃げ出したかった。彼の唇を私の唇で奪い、その素肌に自分の素肌を重ねたかった。彼のものを体内に埋め込み、アーサーの躍動と彼の精液を受け入れたかった。元男の私が・・・彼の体と心全てを欲しがっている。浅ましいほどに、貪欲に。
このパーティーで、アーサーが私と視線を合わせることは無かった。
それが悲しくて、いつの間にか傍にいた蓮に寄りかかりながら、この祝賀会が早く終わってくれることを私は願っていた。
◆◆◆◆◆◆
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる