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第31話
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◆◆◆◆◆◆
アーサーの分身は青く透き通り、美しく輝いていた。その彼が、私の前に立ちはだかり剣を構える。カインは苦々しげにアーサーの分身を見つめる。負傷したカインを守る為に、数人の兵士がアーサーの分身を取り囲み剣を抜く。緊迫した状況で、魔法使いのギルドが口を開いた。
「アーサー様の分身といえどもあの魔法使いが作り出したものだ。一介の兵士にかなうはずが無い!!」
その言葉の通り、早ってアーサーの分身に切りかかった兵士の一人が分身と剣を交わすまでも無く、胸から首にかけて斬られ血を噴出しながら床に倒れこんだ。ドロンとした目をした男の首から溢れ出た血が、床を赤く染めていく。壁に寄りかかるように立っている私の足元にも血が流れてきて、私は悲鳴を上げてしまった。
「ひぃ・・・!!」
アーサーの分身は血にひるむこともなく、剣を構えて次の攻撃を待つ。カインが歯軋りをしながら、ギルドに命じた。
「これが魔法使いの技なら、お前の範疇だろう。なんとかしろ、ギルド!!」
ギルドはカインに命じられると、抱きしめていたモモを背中に背負うとその手をアーサーの分身に向けてかざした。ギルドが何か呪文を唱えると一気に手のひらに炎が現れて、それがアーサーの分身に向かって放出された。燃え上がる炎がアーサの分身に直撃して、青い炎からできたアーサーの姿が歪む。
「やったか!?」
「アーサー!!」
私がアーサーの名を呼んだときには、すでにそれはアーサーではなくなっていた。ギルドが放った炎をその手に軽々と受け止めニヤニヤと笑っていたのは、青く透き通った蓮の分身だった。蓮の分身は、ギルドが放った炎にさらに電撃を加えて、海パンの魔法使いに向かってそれを投げ飛ばした。蓮の分身が作り出した魔法の炎は強力だった。でも、私は顔面蒼白になって蓮の分身に飛びついて叫んでいた。
「蓮、駄目よ!!ギルドを攻撃したら、モモが傷つく!!」
ギルドは直前で魔法の防壁を張ったのか、直撃は免れたが爆風を避ける為にモモを背負ったまま床にひれ伏した。防壁で二分された蓮の放った炎が王宮の見事な装飾の壁を吹き飛ばし、大きな壁の穴を二箇所作っていた。
「ひぃいい、にゃーーおにいちゃま、たすけてぇえーーーー!!」
モモがギルドの背にしがみ付いたまま、私に助けを求めた。
「蓮、お願いやめて!!」
そう叫んだのに、蓮の分身はモモの身を案ずることも無く、さらにギルドに攻撃を加えようとする。蓮が薔薇に込めた魔法は私を守る為だけに作られたものなのかもしれない。だから、蓮の分身はモモの身を危険に晒しても平気なんだ。私が無事ならば。このままじゃ、妹があの魔法使いと一緒に蓮の魔法で殺されてしまう。
私は、アーサーから護身用に渡されていた短剣をドレスの胸元から抜き出すと、私を守る蓮の分身を背後から刺していた。蓮の分身は痛みを感じないのか、ただ不思議そうな顔をして私の名を呼んだ。
『智也?』
「ごめんなさい、蓮。お願い、薔薇に戻って。戻りなさい。これ以上、モモを傷つけないで!!」
透き通る蓮の体内に短剣をぎりぎりまで突き込むと、その傷口から薔薇の花びらの形をした青い血がぽたぽたと流れ出し、やがてその体が青く輝くと青い炎となって床に飛び散っていった。残ったのは、床に散らばった薔薇の燃えカスだけだった。私は、短剣を握ったまま流れ出した涙を拭った。そんな私をあざ笑ったのは、カインだった。
「馬鹿な女だ!!自らの守り手を己の手で殺すとは、愚か者以外の何者でもないな。」
カインの言葉に、ギルドが補足を加える。
「カイン様、あの分身はトモヤ様を守るためだけに作られたもののようです。彼女は自らの不利を知りながら、妹のモモを守る為にあの分身を殺したのですよ。つまりは、それほどにこの少女がトモヤ様にとって大切なお方だということです。」
そう言うと、ギルドは幼いモモの首を手で鷲づかみにするとそのままモモの体を持ち上げた。モモが苦しげに床から離れた足をバタつかせ、唇からは泡交じりの唾液をぼたぼた零してうめいた。
「やめてっ!!」
私は蒼白になってギルドに突進した。その行く手を阻んだのは、カインだった。左腕を負傷したカインはそれでも、私の動きを制するのに十分な力を持っていた。カインは私から短剣を取り上げると、笑いを浮かべて口を開いた。
「形勢逆転だな、トモヤ。さあ、妹を救いたくば右手の指を差し出せ。側室の指輪を俺自ら嵌めてやるのだ、ありがたく思え。」
「モモ・・」
カインが、私にモモを見せ付けるように向きを変えた。男に首をつかまれ宙でぐったりとしているモモを見た私には、もう抵抗する気力も残っていなかった。私は自ら右手の指をカインに差し出していた。側室の契約の指輪はアーサーの分身との攻防で床に転がっていた。それを、部屋の隅で隠れるように身を潜めていたユリアスが拾い上げると、カインに手渡した。
カインは満足そうに笑うと、その指輪を私の右手の薬指に嵌めこんだ。指輪が嵌めこまれた瞬間、全身に電撃が走ったような気がした。私は全身に痺れを感じて立っていられない状態になってしまった。
「側室の指輪がお前の体を契約で縛ったのだ。痺れはすぐに取れる、安心しろ。」
「カイン・・・お願い、モモを助けて。」
私の懇願にカインが満面の笑みを浮かべた。
「お前に懇願されるのは、なかなかの快感だな。ギルド、トモヤの妹を解放してしてやれ。」
ギルドはカインに命じられたとおり、モモを解放して床に横たわらせた。妹の胸が上下している。モモは何とか無事なようだった。それに安堵したのもつかの間、私はカインに抱き上げられていた。
「お前は、今日から俺の側室となった。ユリアス、後の事は任せる。俺はこの女を自室に連れて行く。誰も部屋に近づけるな。」
「正妃となられるフレア様が、カイン様にお逢いになりたいとおっしゃられましたら、どう対処いたしましょう?」
「ああ、そうだな・・今は側室を抱いているので忙しいとでも言っておけ。」
私は指輪のせいで、脳まで痺れてしまったのか彼の言葉をただぼんやりと聞いているだけだった。
私は、カインに今から抱かれるらしい。
頬に流れた水滴で、痺れた脳が私が涙を流していることを理解した。
アーサー。
蓮。
私はカインに処女を奪われる。
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アーサーの分身は青く透き通り、美しく輝いていた。その彼が、私の前に立ちはだかり剣を構える。カインは苦々しげにアーサーの分身を見つめる。負傷したカインを守る為に、数人の兵士がアーサーの分身を取り囲み剣を抜く。緊迫した状況で、魔法使いのギルドが口を開いた。
「アーサー様の分身といえどもあの魔法使いが作り出したものだ。一介の兵士にかなうはずが無い!!」
その言葉の通り、早ってアーサーの分身に切りかかった兵士の一人が分身と剣を交わすまでも無く、胸から首にかけて斬られ血を噴出しながら床に倒れこんだ。ドロンとした目をした男の首から溢れ出た血が、床を赤く染めていく。壁に寄りかかるように立っている私の足元にも血が流れてきて、私は悲鳴を上げてしまった。
「ひぃ・・・!!」
アーサーの分身は血にひるむこともなく、剣を構えて次の攻撃を待つ。カインが歯軋りをしながら、ギルドに命じた。
「これが魔法使いの技なら、お前の範疇だろう。なんとかしろ、ギルド!!」
ギルドはカインに命じられると、抱きしめていたモモを背中に背負うとその手をアーサーの分身に向けてかざした。ギルドが何か呪文を唱えると一気に手のひらに炎が現れて、それがアーサーの分身に向かって放出された。燃え上がる炎がアーサの分身に直撃して、青い炎からできたアーサーの姿が歪む。
「やったか!?」
「アーサー!!」
私がアーサーの名を呼んだときには、すでにそれはアーサーではなくなっていた。ギルドが放った炎をその手に軽々と受け止めニヤニヤと笑っていたのは、青く透き通った蓮の分身だった。蓮の分身は、ギルドが放った炎にさらに電撃を加えて、海パンの魔法使いに向かってそれを投げ飛ばした。蓮の分身が作り出した魔法の炎は強力だった。でも、私は顔面蒼白になって蓮の分身に飛びついて叫んでいた。
「蓮、駄目よ!!ギルドを攻撃したら、モモが傷つく!!」
ギルドは直前で魔法の防壁を張ったのか、直撃は免れたが爆風を避ける為にモモを背負ったまま床にひれ伏した。防壁で二分された蓮の放った炎が王宮の見事な装飾の壁を吹き飛ばし、大きな壁の穴を二箇所作っていた。
「ひぃいい、にゃーーおにいちゃま、たすけてぇえーーーー!!」
モモがギルドの背にしがみ付いたまま、私に助けを求めた。
「蓮、お願いやめて!!」
そう叫んだのに、蓮の分身はモモの身を案ずることも無く、さらにギルドに攻撃を加えようとする。蓮が薔薇に込めた魔法は私を守る為だけに作られたものなのかもしれない。だから、蓮の分身はモモの身を危険に晒しても平気なんだ。私が無事ならば。このままじゃ、妹があの魔法使いと一緒に蓮の魔法で殺されてしまう。
私は、アーサーから護身用に渡されていた短剣をドレスの胸元から抜き出すと、私を守る蓮の分身を背後から刺していた。蓮の分身は痛みを感じないのか、ただ不思議そうな顔をして私の名を呼んだ。
『智也?』
「ごめんなさい、蓮。お願い、薔薇に戻って。戻りなさい。これ以上、モモを傷つけないで!!」
透き通る蓮の体内に短剣をぎりぎりまで突き込むと、その傷口から薔薇の花びらの形をした青い血がぽたぽたと流れ出し、やがてその体が青く輝くと青い炎となって床に飛び散っていった。残ったのは、床に散らばった薔薇の燃えカスだけだった。私は、短剣を握ったまま流れ出した涙を拭った。そんな私をあざ笑ったのは、カインだった。
「馬鹿な女だ!!自らの守り手を己の手で殺すとは、愚か者以外の何者でもないな。」
カインの言葉に、ギルドが補足を加える。
「カイン様、あの分身はトモヤ様を守るためだけに作られたもののようです。彼女は自らの不利を知りながら、妹のモモを守る為にあの分身を殺したのですよ。つまりは、それほどにこの少女がトモヤ様にとって大切なお方だということです。」
そう言うと、ギルドは幼いモモの首を手で鷲づかみにするとそのままモモの体を持ち上げた。モモが苦しげに床から離れた足をバタつかせ、唇からは泡交じりの唾液をぼたぼた零してうめいた。
「やめてっ!!」
私は蒼白になってギルドに突進した。その行く手を阻んだのは、カインだった。左腕を負傷したカインはそれでも、私の動きを制するのに十分な力を持っていた。カインは私から短剣を取り上げると、笑いを浮かべて口を開いた。
「形勢逆転だな、トモヤ。さあ、妹を救いたくば右手の指を差し出せ。側室の指輪を俺自ら嵌めてやるのだ、ありがたく思え。」
「モモ・・」
カインが、私にモモを見せ付けるように向きを変えた。男に首をつかまれ宙でぐったりとしているモモを見た私には、もう抵抗する気力も残っていなかった。私は自ら右手の指をカインに差し出していた。側室の契約の指輪はアーサーの分身との攻防で床に転がっていた。それを、部屋の隅で隠れるように身を潜めていたユリアスが拾い上げると、カインに手渡した。
カインは満足そうに笑うと、その指輪を私の右手の薬指に嵌めこんだ。指輪が嵌めこまれた瞬間、全身に電撃が走ったような気がした。私は全身に痺れを感じて立っていられない状態になってしまった。
「側室の指輪がお前の体を契約で縛ったのだ。痺れはすぐに取れる、安心しろ。」
「カイン・・・お願い、モモを助けて。」
私の懇願にカインが満面の笑みを浮かべた。
「お前に懇願されるのは、なかなかの快感だな。ギルド、トモヤの妹を解放してしてやれ。」
ギルドはカインに命じられたとおり、モモを解放して床に横たわらせた。妹の胸が上下している。モモは何とか無事なようだった。それに安堵したのもつかの間、私はカインに抱き上げられていた。
「お前は、今日から俺の側室となった。ユリアス、後の事は任せる。俺はこの女を自室に連れて行く。誰も部屋に近づけるな。」
「正妃となられるフレア様が、カイン様にお逢いになりたいとおっしゃられましたら、どう対処いたしましょう?」
「ああ、そうだな・・今は側室を抱いているので忙しいとでも言っておけ。」
私は指輪のせいで、脳まで痺れてしまったのか彼の言葉をただぼんやりと聞いているだけだった。
私は、カインに今から抱かれるらしい。
頬に流れた水滴で、痺れた脳が私が涙を流していることを理解した。
アーサー。
蓮。
私はカインに処女を奪われる。
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