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第23話

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語気を強めたアーサーに、私は静かに声を掛けた。アーサーは、はっとしたように私を見つめ何時もの冷静さを取り戻すと苦笑いを浮かべて口を開いた。

「負け犬の遠吠えとはこの事だな。・・・弟のカインが結婚することは祝うべきことだ。その相手が、王家の血を継ぐものなら、カインの地位も安定するだろう。あいつはいまだに魔法使いと契約を交わしていないらしいから、色々貴族から噂を立てられていてな。だが、カインの婚姻相手は強力な魔法使いと契約を交わしているらしい。カインは婚姻相手と同時に強力な魔法使いを手に入れたことになる。もう誰も、彼の王位継承を疑うものはいないだろう。」

カインが死なない限りは・・・
アーサーは、彼の死を望んでいるのだろうか?王位を手に入れる為に。あるいは、虚しく命を散らした少女の為にアーサーはカインの死で報いたいと望んでいるのだろうか?

「トモヤ、そんな顔をしないでくれ。・・・そんなに王宮に行きたいのか?」
私が表情を曇らせた理由をアーサーは誤解したようだった。私は、アーサーの事が気がかりでならなかった。少女の死に場所の王宮でアーサーが冷静さを失ってしまわないか不安だった。でも、その気持ちをアーサー本人に直接伝えることは私にはできなかった。
私は、できるだけ猫なで声で媚びながら、アーサーに王宮に連れて行ってくれるようにお願いしてみた。

「ねえ、アーサー。私も、素敵なドレスを着て、華やかな婚姻の席に出てみたいの。きっと、王宮ってすっごく綺麗なんでしょうね。街だって祝賀ムードで活気に溢れていそう!!ね、いいでよ。アーサー」

私は、アーサーの腕を掴むとそっと体を寄せて、その耳元で甘く囁いた。
「それに・・・祝いの雰囲気にのまれたら、私もアーサーに全てを奉げたくなっちゃうかもぉ。」
アーサーの目が情欲に滲み私を見つめるのが分った。私は、ふわりと微笑みながら彼から身を離す。アーサーが、名残惜しそうに身を離した私を見ていた。もう一押し!!

「アーサー、お願い。」

首をちょっと傾けながら、可愛らしく微笑んでみた。アーサーは、私を見ながら色々葛藤していたようだが最後には、私が王宮に付いて行く事に同意してくれた。蓮が私の決死のの媚が可笑しかったのか、くすくす笑っていたが、無視することにした。アーサーは、私を見ながら口を開いた。

「連れて行くのはいいが、そのままの姿ではまずいな。身分の高い人は、そんなに短い髪はしないからな。今のように髪が短いままだと、身分の低い娘と見縊られ笑われる。トモヤも笑われるのは嫌だろ?」
「そうなんだ。」
私は、髪の毛に触れながら呟いていた。男の中では長い部類だとは思うが、さすがに女のような髪の長さはない。私が髪の毛を弄っていると、蓮が私の髪に触れてきて口を開いた。
「それなら、俺の魔法で何とでもなる。金髪碧眼にもできるぞ。ちなみに下のヘアーも金髪にしてやるがどうだ?」
「蓮はいちいち発言が下品だな。いいよ、黒い髪のまま長くしてよ。瞳も黒いままでいいから」
「ちっ、」
「蓮、なんだよ。今の『ちっ』は?」
「金髪碧眼に憧れる日本男児の本音だ。」
「そんなに金髪が好きなら、メアリーの処女を奪ってあげたら」
私がそう言うと、蓮は両手を私にかざしながら口を開いた。
「メアリーは綺麗だが変態だからなぁ・・・まあ、処女を頂くのも悪くないが・・うーーん。悩む。あいつのペニス棒コレクションを見たら、自分のペニスに自信がなくなってきたしなぁ。」

おいっ。魔法をかけながら、俗なことを言ってんじゃねーーよ。
と思っているうちに、見る間に私の短かった髪がつやつやとしたロングヘアーに変貌していく。伸びていく毛先を手のひらにとりながら不思議な思いで見ていた。

「良し、できたぞ。鏡で自分を見てみろよ。」

そう言った蓮が、魔法で姿見の鏡を出してくれた。
「お前の魔法って、ドラえもんのポケットみたいだな。」
そういいながら、姿鏡に映った自分を見て私自身が驚いていしまった。艶やかな僅かにウエーブの掛かった黒髪が腰まで伸びて、不思議な雰囲気をかもし出す美女がその鏡に映っていた。蓮が魔法で出したのか黒髪には真紅の椿の花飾りが飾ってあって、自分でもよく似合うと思ってしまった。

「トモヤ、綺麗だよ。」
「アーサー、あ・・ありがとう。」

アーサーに褒められて、私は真っ赤になりながらもお礼を口にした。それを聞いた蓮が不服そうに口を開く。
「俺の魔法の賜物だぞ!少しは、感謝の言葉があってもいいんじゃねーの??下のヘアーも柔らかい触り心地のイイのに変えておいたからな。」
「蓮、殴られたいのか!」
私は、言葉の前に蓮にアッパーを放った。蓮は直撃を避けたものの痛そうに顎を摩っていた。アーサーは可笑しそうに私たちの会話を楽しみながら、口を開いた。

「それと、トモヤの名前なんだが女性には馴染まないからすこし変えてもいいか?」
あ、やっぱり。そうだよなぁ、智也って思いっきり男の名前だもんな。せめて、蓮とかのほうが、女でも通りそうな名前だ。

「トモヤ、そうだな・・・一文字減らして『トモ』でどうかな?これなら、女の名前として通る。」
「っ!!」
『トモ』って、それって死んじゃったアーサーの魔法使いじゃない。その名前を私に付けるの?
アーサーは・・・私が『トモ』になることを望んでいるの?
そんなの・・・

「嫌!!私は智也だよ。『トモ』なんて嫌だ。」
「トモヤ?一文字削るだけだぞ?まったく別の名前より憶えやすいだろ?」
「でも・・ねえ、智也のままじゃ駄目なの?」
私の言葉に蓮が助け舟を出す。
「智也のままでいいんじゃないの?ほら、あれだ。親が男の子を望んだが女の子しか授からなかったから、男の名前を付けられたとかなんとか、言い訳ならいくらでも思いつくだろ。とにかく、『トモ』はよせ、アーサー。」

「・・・そうだな。じゃあ、『トモヤ』のままでいくか。」

すこし残念そうにそう言ったアーサーの言葉が、私の胸を突き刺した。私はアーサーの傍にいるのが辛くて黙って部屋を出て行こうとした。その私の背中に、アーサーが声を掛ける。

「トモヤ・・・母上から、俺の過去の話を聞いたのか?だから・・『トモ』と呼ばれるのは嫌なのか?」
「・・・・・」
私は黙ってアーサーの部屋を後にした。蓮も私に付いて部屋を出ようとした時、私の心を読んだのか、気持ちを代弁して言ってくれた。

「アーサーは無神経なところがあるな。」

アーサーは言い返すことなく、黙って私たちの後姿を見送った。



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