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第17話
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◆◆◆◆◆◆
アーサーの母、マリアはローズティーを優雅に飲みながら口を開いた。
「アーサーは生まれた時から、暗殺の危機に晒される運命だったの。今は病床にある王・・私の夫ですが、元々異性との関係に淡白な方で、正妃を迎えても子供ができなかったの。子ができぬことを案じた、側近のものが王の興味を惹きそうな女性を身分かまわず集めたの。下級貴族の出自の私も、その一人だった。そして、王は私を寵愛してくださって、アーサーが生まれたの。側室で子供が生んだのは私だけだった」
マリアは過去を思い出しているのか、憂いを含んだ瞳をそっと閉じて言葉を切った。その言葉を引き継いだのが、蓮だった。
「なるほど、よくある話だな。それで、子供のない正妃が危機を感じてアーサーの暗殺を図ったか。ありきたりな、つまらない権力争いの話だ」
「蓮!」
私は、あけすけな蓮の言葉に名を呼んで制した。蓮は私をちらりと見ると、私の意を汲んで黙ってくれた。マリアは瞳を開くとそっと蓮に笑いかけた。
「いいのよ。魔法使いさんは、正直な方なのね。そう・・つまらない、権力争い。でも、息子を毒殺されかけては、母親として黙っていられなかった。でも、王は正妃がそんな事をすることはないと言って、私の言葉を取り上げてくださらなかった。正妃は、私と違って上級貴族の生まれですから下級貴族の生まれの私が、簡単に疑いを口にするなど許されないことだったのよ。」
マリアは、その冷静な語気とは裏腹に、瞳には涙が浮かんでいた。それは、身分の壁に何もできなかった自分への怒りなのか。それとも、何もしてくれなかった王への怒りなのか、あるいは正妃への恨みなのか。私は、物静かに見えるマリアの心の奥深くに、燃えるような怒りがあることに気が付いた。
「王へ進言した私とアーサーへの正妃の憎しみは激しくなるばかりで、酷い嫌がらせを受けたわ。そのうち体調を崩した私の静養の地として、王はこの城を造ってくださったの。あの当時の私には、王宮から離れる事のできるこの場所が、唯一安らぎの場所だった」
私はここで口を開いた。
「でも、マリア様。たしか、正妃には王との間には、カインという王子が生まれたのでしょ?」
私の問いにマリアが微笑を返して口を開いた。
「そうよ。正直、私は重い荷を降ろした気分だった。これで、私やアーサーへの嫌がらせ・・暗殺の危機も減ると思ったから。しばらくは、王宮は王家に血筋の濃い世継ぎが生まれたことで、とても穏やかな時が流れたの。でも、アーサーが12歳、カインが10歳の頃だったかしら、カインが王の血を引いてはいないのではないかと、貴族の中で噂が流れたの。」
それまで黙っていた蓮が、何か考え事をするように口を開いた。
「その噂の理由はなんですか?王と姿かたちが似てないとかそんなこと?」
蓮の言葉にマリアは首を振った。
「それなら、アーサーの方があまり王とは似ていないわ。でも、アーサーには王家の血を引く証である力を持っていたから、アーサーに関してはそんな噂は流されなかったの」
「ああ、なるほど。つまり、魔法使いと契約を結ぶ力の事ですね。ふうん、で・・・カインにはその力がないと?」
「今現在は、どうなのか分らないけれど・・あの当時は、力の兆しがみられなかったの。だから、そんな噂を流されたのね」
「魔法使いと契約する事って、そんなに王家にとっては重要なことなのですか?」
私がそうアーサーの母親に聞くと彼女は頷いた。
「今は争いはないけれど、完全にこの国を掌握したわけではないの。まだ、僻地には王に屈しない民族もいる。魔物を操る一族もいる。彼らへの歯止めとなるのが、魔法使いの存在なの。彼らは、魔法使いに一族を呪われることを最も恐れているの。だからこそ、その魔法使いと契約できる血を持つ、王家に簡単に手出しできないのよ」
魔法使いがそんなに重要だとは思わなかった。自称最強の魔法使いの蓮と契約したアーサーは、経緯はどうあれ結構ラッキーだったのかもしれない。ちらっと蓮を見ると、皿にのったクッキーを美味しそうに頬張り指に付いたクッキーの粉を舌で舐めていた。
とても、そんな重要人物には思えないのだが。そういえば。
「あの、アーサーが以前に魔法使いと契約したことがあると、マリア様はおっしゃいましたよね。でも、今はアーサーの傍にはいない。魔法使いは何人とでも、契約できるものなのですか?」
「いいえ、一度に何人とも契約はできないは。アーサーが今契約しているのは、レン一人だけよ。以前に契約していた、魔法使いの少女は・・・カインに殺されたの」
「えっ!!」
私は思わず大きな声をあげてしまった。蓮はそう驚く風もなく、淡々とした様子でアーサーの母親の話を聞いていた。
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アーサーの母、マリアはローズティーを優雅に飲みながら口を開いた。
「アーサーは生まれた時から、暗殺の危機に晒される運命だったの。今は病床にある王・・私の夫ですが、元々異性との関係に淡白な方で、正妃を迎えても子供ができなかったの。子ができぬことを案じた、側近のものが王の興味を惹きそうな女性を身分かまわず集めたの。下級貴族の出自の私も、その一人だった。そして、王は私を寵愛してくださって、アーサーが生まれたの。側室で子供が生んだのは私だけだった」
マリアは過去を思い出しているのか、憂いを含んだ瞳をそっと閉じて言葉を切った。その言葉を引き継いだのが、蓮だった。
「なるほど、よくある話だな。それで、子供のない正妃が危機を感じてアーサーの暗殺を図ったか。ありきたりな、つまらない権力争いの話だ」
「蓮!」
私は、あけすけな蓮の言葉に名を呼んで制した。蓮は私をちらりと見ると、私の意を汲んで黙ってくれた。マリアは瞳を開くとそっと蓮に笑いかけた。
「いいのよ。魔法使いさんは、正直な方なのね。そう・・つまらない、権力争い。でも、息子を毒殺されかけては、母親として黙っていられなかった。でも、王は正妃がそんな事をすることはないと言って、私の言葉を取り上げてくださらなかった。正妃は、私と違って上級貴族の生まれですから下級貴族の生まれの私が、簡単に疑いを口にするなど許されないことだったのよ。」
マリアは、その冷静な語気とは裏腹に、瞳には涙が浮かんでいた。それは、身分の壁に何もできなかった自分への怒りなのか。それとも、何もしてくれなかった王への怒りなのか、あるいは正妃への恨みなのか。私は、物静かに見えるマリアの心の奥深くに、燃えるような怒りがあることに気が付いた。
「王へ進言した私とアーサーへの正妃の憎しみは激しくなるばかりで、酷い嫌がらせを受けたわ。そのうち体調を崩した私の静養の地として、王はこの城を造ってくださったの。あの当時の私には、王宮から離れる事のできるこの場所が、唯一安らぎの場所だった」
私はここで口を開いた。
「でも、マリア様。たしか、正妃には王との間には、カインという王子が生まれたのでしょ?」
私の問いにマリアが微笑を返して口を開いた。
「そうよ。正直、私は重い荷を降ろした気分だった。これで、私やアーサーへの嫌がらせ・・暗殺の危機も減ると思ったから。しばらくは、王宮は王家に血筋の濃い世継ぎが生まれたことで、とても穏やかな時が流れたの。でも、アーサーが12歳、カインが10歳の頃だったかしら、カインが王の血を引いてはいないのではないかと、貴族の中で噂が流れたの。」
それまで黙っていた蓮が、何か考え事をするように口を開いた。
「その噂の理由はなんですか?王と姿かたちが似てないとかそんなこと?」
蓮の言葉にマリアは首を振った。
「それなら、アーサーの方があまり王とは似ていないわ。でも、アーサーには王家の血を引く証である力を持っていたから、アーサーに関してはそんな噂は流されなかったの」
「ああ、なるほど。つまり、魔法使いと契約を結ぶ力の事ですね。ふうん、で・・・カインにはその力がないと?」
「今現在は、どうなのか分らないけれど・・あの当時は、力の兆しがみられなかったの。だから、そんな噂を流されたのね」
「魔法使いと契約する事って、そんなに王家にとっては重要なことなのですか?」
私がそうアーサーの母親に聞くと彼女は頷いた。
「今は争いはないけれど、完全にこの国を掌握したわけではないの。まだ、僻地には王に屈しない民族もいる。魔物を操る一族もいる。彼らへの歯止めとなるのが、魔法使いの存在なの。彼らは、魔法使いに一族を呪われることを最も恐れているの。だからこそ、その魔法使いと契約できる血を持つ、王家に簡単に手出しできないのよ」
魔法使いがそんなに重要だとは思わなかった。自称最強の魔法使いの蓮と契約したアーサーは、経緯はどうあれ結構ラッキーだったのかもしれない。ちらっと蓮を見ると、皿にのったクッキーを美味しそうに頬張り指に付いたクッキーの粉を舌で舐めていた。
とても、そんな重要人物には思えないのだが。そういえば。
「あの、アーサーが以前に魔法使いと契約したことがあると、マリア様はおっしゃいましたよね。でも、今はアーサーの傍にはいない。魔法使いは何人とでも、契約できるものなのですか?」
「いいえ、一度に何人とも契約はできないは。アーサーが今契約しているのは、レン一人だけよ。以前に契約していた、魔法使いの少女は・・・カインに殺されたの」
「えっ!!」
私は思わず大きな声をあげてしまった。蓮はそう驚く風もなく、淡々とした様子でアーサーの母親の話を聞いていた。
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