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1-1 心願成就
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◆◆◆◆◆
30歳を迎えたオメガ性の僕(早川春馬)には、誰にも言えない悩みがあった。
悩み解消を願掛けして、デンボ神社で御百度参りをするつもりだったのだけど‥。何故か、雇い主兼友人の赤木蓮太郎に行動を見抜かれて、一緒に行く羽目になってしまった。
アルファ性の蓮太郎に悩みがあるとは思えないが、共にお百度参りをしたいと言われては断れない。
お百度参りとは、本殿前でお参りして入口に戻り再び本殿前でお参りすることを百回繰り返すこと。
デンボ神社に到着した僕と蓮太郎は、心願成就を祈ってお百度を踏む。
◇◇◇
『デンボの神様、デンボの神様、僕の願いを聞いてください。僕は尻処女のまま30歳を迎えた早川春馬と申します。どうか僕の尻処女喪失に協力してください、神様!』
「っ、尻処女‥‥喪失!?」
『おおっ、神様の声が聞こえる!』
「声がでかい。それと、神様はそんなエロいお願いを受け付けていから諦めろ」
『神様が塩対応しないで下さい!僕は本当に困ってるんです。オメガ性なのにアルファ男にうなじを噛まれても発情しなくて‥‥』
「えっ、うなじを噛ませたのか!」
『神様がそんなに驚かないで下さい。高校時代にアルファの先輩に迫られて‥‥ガブッと。でも、発情が来なくてその場で振られました!告白してきたのは先輩なのに、なんで僕が振られるんですか!?酷すぎるでしょ、神様!』
「確かに酷いな‥‥。まあ、アレだ。そんなつまらないアルファ男は忘れて新しい恋をしろ」
『無理です。その事が切っ掛けで男性不信に陥り、僕は尻処女のまま30歳に‥‥辛すぎて泣ける』
「諦めるな。意外と身近に運命の番がいるかも知れないぞ?」
『それです、神様!僕の身近過ぎる運命の番をこの世から消し去ってください。それこそ僕の心願です!』
「え!?」
『心願成就、心願成就!』
「待て待て!」
『はい?』
「お前‥‥運命の番がいるのか?」
『いますけど?』
「‥‥誰だ?」
『‥‥。』
「誰だ答えろ」
『甲状腺の良性腫瘍です』
「‥‥‥はぁ?」
『なんですか、その反応は?もういいです。デンボの神様とは話が通じないことがわかりました。でも、僕のお願いは聞いてもらいます。お賽銭に一万円も注ぎ込んだのだから、僕の心願を神様は聞くべきです!』
「勝手すぎるだろ!」
『デンボ神社は腫れ物の病気平癒にご利益があると聞きました。その力を僕に貸してください。僕の喉にはアルファ性の甲状腺腫瘍があります。良性腫瘍だけどコイツのせいで発情出来ません。ちょちょっと神気で運命の番を蹴散らして下さい、デンボの神様!』
「意味分からん!説明しろ!」
『神様なら察して下さい。甲状腺腫瘍が運命の番とか嫌すぎます!石を切る剣の如く僕の腫れ物を切って砕いて消滅させて!そして、僕の発情を呼び起こして尻処女を奪うアルファと出逢わせて下さいーーーー!』
「うるせーよ、春馬!」
コツンと頭を小突かれて僕はハッとして立ち止まった。僕を小突いた友人は、アルファ特有の美しくも冴えた眼差しで見つめてくる。
「もしかして、神様のフリをして返事してたの蓮だったりする?」
僕が気になった事を尋ねると、蓮太郎は頷きながらまた頭を小突いてきた。
「痛っ!?」
「俺に決まってるだろ、春馬。神様がそんなエロくて罰当たりな願い事に返事すると思ったのか?」
「え~、まじか。せっかくトランス状態で神様の声が聞こえたと思ったのに‥‥蓮だったとか詐欺だろ」
反論する僕を蓮太郎は引き寄せると耳元で囁いた。
「詐欺とはなんだ。お百度踏みながら『尻処女、尻処女』と呟くお前を見捨てなかった俺を褒めろ。それと、このままだと他の参拝者の邪魔になるから脇に避けるぞ」
「‥え?」
僕は慌てて周囲を伺うと、お百度石近くで立ち止まった僕達を避けながら、十人以上の参拝者が御百度参りを続けていた。
「うぁ、邪魔してる」
「その通りだな」
蓮太郎は僕の肩を抱くと強引に境内の端に歩き出した。体格の良いアルファに肩を抱かれると、オメガの僕はすっぽりとその胸に収まってしまう。
それが悔しい。
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30歳を迎えたオメガ性の僕(早川春馬)には、誰にも言えない悩みがあった。
悩み解消を願掛けして、デンボ神社で御百度参りをするつもりだったのだけど‥。何故か、雇い主兼友人の赤木蓮太郎に行動を見抜かれて、一緒に行く羽目になってしまった。
アルファ性の蓮太郎に悩みがあるとは思えないが、共にお百度参りをしたいと言われては断れない。
お百度参りとは、本殿前でお参りして入口に戻り再び本殿前でお参りすることを百回繰り返すこと。
デンボ神社に到着した僕と蓮太郎は、心願成就を祈ってお百度を踏む。
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『デンボの神様、デンボの神様、僕の願いを聞いてください。僕は尻処女のまま30歳を迎えた早川春馬と申します。どうか僕の尻処女喪失に協力してください、神様!』
「っ、尻処女‥‥喪失!?」
『おおっ、神様の声が聞こえる!』
「声がでかい。それと、神様はそんなエロいお願いを受け付けていから諦めろ」
『神様が塩対応しないで下さい!僕は本当に困ってるんです。オメガ性なのにアルファ男にうなじを噛まれても発情しなくて‥‥』
「えっ、うなじを噛ませたのか!」
『神様がそんなに驚かないで下さい。高校時代にアルファの先輩に迫られて‥‥ガブッと。でも、発情が来なくてその場で振られました!告白してきたのは先輩なのに、なんで僕が振られるんですか!?酷すぎるでしょ、神様!』
「確かに酷いな‥‥。まあ、アレだ。そんなつまらないアルファ男は忘れて新しい恋をしろ」
『無理です。その事が切っ掛けで男性不信に陥り、僕は尻処女のまま30歳に‥‥辛すぎて泣ける』
「諦めるな。意外と身近に運命の番がいるかも知れないぞ?」
『それです、神様!僕の身近過ぎる運命の番をこの世から消し去ってください。それこそ僕の心願です!』
「え!?」
『心願成就、心願成就!』
「待て待て!」
『はい?』
「お前‥‥運命の番がいるのか?」
『いますけど?』
「‥‥誰だ?」
『‥‥。』
「誰だ答えろ」
『甲状腺の良性腫瘍です』
「‥‥‥はぁ?」
『なんですか、その反応は?もういいです。デンボの神様とは話が通じないことがわかりました。でも、僕のお願いは聞いてもらいます。お賽銭に一万円も注ぎ込んだのだから、僕の心願を神様は聞くべきです!』
「勝手すぎるだろ!」
『デンボ神社は腫れ物の病気平癒にご利益があると聞きました。その力を僕に貸してください。僕の喉にはアルファ性の甲状腺腫瘍があります。良性腫瘍だけどコイツのせいで発情出来ません。ちょちょっと神気で運命の番を蹴散らして下さい、デンボの神様!』
「意味分からん!説明しろ!」
『神様なら察して下さい。甲状腺腫瘍が運命の番とか嫌すぎます!石を切る剣の如く僕の腫れ物を切って砕いて消滅させて!そして、僕の発情を呼び起こして尻処女を奪うアルファと出逢わせて下さいーーーー!』
「うるせーよ、春馬!」
コツンと頭を小突かれて僕はハッとして立ち止まった。僕を小突いた友人は、アルファ特有の美しくも冴えた眼差しで見つめてくる。
「もしかして、神様のフリをして返事してたの蓮だったりする?」
僕が気になった事を尋ねると、蓮太郎は頷きながらまた頭を小突いてきた。
「痛っ!?」
「俺に決まってるだろ、春馬。神様がそんなエロくて罰当たりな願い事に返事すると思ったのか?」
「え~、まじか。せっかくトランス状態で神様の声が聞こえたと思ったのに‥‥蓮だったとか詐欺だろ」
反論する僕を蓮太郎は引き寄せると耳元で囁いた。
「詐欺とはなんだ。お百度踏みながら『尻処女、尻処女』と呟くお前を見捨てなかった俺を褒めろ。それと、このままだと他の参拝者の邪魔になるから脇に避けるぞ」
「‥え?」
僕は慌てて周囲を伺うと、お百度石近くで立ち止まった僕達を避けながら、十人以上の参拝者が御百度参りを続けていた。
「うぁ、邪魔してる」
「その通りだな」
蓮太郎は僕の肩を抱くと強引に境内の端に歩き出した。体格の良いアルファに肩を抱かれると、オメガの僕はすっぽりとその胸に収まってしまう。
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