誘拐/監禁

月歌(ツキウタ)

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朝食

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◆◆◆◆◆


風呂から上がると山﨑が約束通り待っていた。誘拐犯に礼を言う必要はない。そうは思ったが、一応声を掛ける事にした。

「待たせて悪かった」

「気にしないで下さい。それより、湯加減はいかがでしたか?」

「熱めの湯が好きだからちょうど良かった。デイケアセンターの湯はぬるめだから‥‥」

世間話をしそうになり俺は口を閉じた。誘拐犯と湯加減の話をするなど間抜けすぎる。俺が黙ると山崎が会話を引き継いだ。

「ではこれからも熱めの温度設定にします。それにしても、大塚先生は作務衣姿が似合いますね。」

「‥‥‥どうも」

俺が戸惑いながらそう答えると、山崎は笑みを浮かべながら応じる。

「誘拐犯に褒められても困るって顔をしてますよ?」

「‥‥実際にそうだからな」

「手厳しいですね。ではこの話はここまでにして、朝食にしましょう。その後は執筆活動に専念してもらいます。」

執筆は無理だと言いたい。

だが、この男が受け入れるとは思えなかった。執筆できないとわかった時のこの男の反応が怖い。

「‥‥わかった。」
「では、朝食にしましょう。」

山崎が俺に杖を手渡してきた。俺はそれを受け取ると、男に続いて歩き出す。


朝食はリビングのテーブルで、誘拐犯と向き合って食べることになった。男に促され渋々向かいの席に座ると、山崎はキッチンから料理を運んでくる。

「ご飯と味噌汁以外は24Hスーパーで調達してきたものです。ここの惣菜は結構美味しいですよ。どうぞ召し上がって下さい、大塚先生」

「‥‥いただきます」

一応挨拶をしてから食事に手を付けた。味噌汁を口にすると何故か誘拐犯がクスクスと笑い出す。不審に思い視線を送ると、男は意地悪な笑みを浮かべて口を開いた。

「味噌汁は誘拐犯の私が作ったものですよ、先生?毒入りかもしれないのに、最初に手を付けるなんて警戒心がなさすぎます」

俺は味噌汁を今すぐに吐きたい気分になったが、なんとか飲み込んで返事をする。

「君の目的は俺に執筆をさせることだろ?毒を盛って殺すなら、執筆ができないとわかってからでも遅くない。だから、この味噌汁には毒は入ってない」

「確かに先生に執筆して貰いたくて誘拐しました。でも、気まぐれに人を殺す人間もいます。警戒を怠ると長生きできませんよ、先生」

味噌汁は美味しかった。毒が入っている様子はない。この男は誘拐犯ではあるが、考えなしに人を殺すタイプには思えない。

「君は気まぐれに人を殺すタイプではないだろ?」

「‥‥‥どうでしょうね」
「え?」

「小学生の時に同級生の首をカッターナイフで切りつけて殺しました。それ以来、犯罪は犯していませんが‥‥。」

味噌汁を吐きたい。
本物のヤバい奴だった。
最悪だ。



◆◆◆◆◆
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