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クロロホルム
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◆◆◆◆◆
山崎は割れた窓ガラスを確認しながら、俺に話しかけてきた。
「それにしても驚きました。誘拐犯を怒らせる行為は悪手ですよ。大塚先生の認知能力はそこまで落ちてしまっているのですか?」
「そうだな。だが、君は随分と楽しそうに笑っているぞ。現実と非現実の境目を楽しむタイプか?」
実際、山崎は楽しそうに笑い目を細めてこちらを見つめてくる。それに負けじと俺も笑い返す。本当は泣きたい‥‥。
「先生だって笑っているじゃないですか。しかし、窓ガラスを割れたまま放置する訳にもいかないので、修理を頼むしかないですね‥‥‥。」
雑事ならなんでも自分でやりこなしそうな男だが、流石に窓ガラスの修理は専門家に頼むらしい。
「でも、修理の際に先生に騒がれては困るので、眠ってもらいます」
「‥‥強制的に?」
「強制的にです」
俺が黙って山崎を観察していると、男は俺の横を通り過ぎリビング奥のキッチンに向かった。そして、俺に声を掛ける。
「睡眠薬とクロロホルム」
「え?」
「どちらを希望しますか、先生?」
俺はため息を付きながら答える。
「君は小説の読みすぎだ。クロロホルムで人を失神させる事は、現実には難しい。布に薬剤を染み込ませて口と鼻を塞いだとして、9回以上は深呼吸させないと肺の中で薬剤は充満しない‥‥おい、ちょっと待て」
男が薬瓶と白い布を持ってこちらに近づいてくる。俺が再び声をあけようとすると、山﨑が声を重ねてきた。
「仮にクロロホルムで意識を混濁させることに成功しても、血圧は低下し、呼吸が抑制され、低酸素状態を引き起こして生命の危機をもたらす‥‥ですよね、先生?」
俺は顔を引きつらせながらソファーの端に移動する。だが、男は素早く動いて俺の背後に周ると、口と鼻を布で覆った。
「んっ~ぐっ~」
薬剤を吸い込むまいと息を止めたが、耐えきれずにクロロホルムを吸い込む。強烈な刺激臭に目眩をかんじながら、俺は山崎の腕を掴んで爪を立てて引っ掻いた。
「っ、痛いですよ‥‥先生」
男が手を引いたことで布が顔から剥がれた。刺激臭に俺が咳き込んでいると、山﨑が俺の背中をさする。俺は咳き込んだまま、男の手を払い除けて深呼吸を繰り返した。
「大塚先生、大丈夫ですか?」
大丈夫な訳が無い。こいつ、本気で俺を殺すつもりなのか?冷や汗が背中に流れて恐怖に支配される。
「すみません、先生。悪戯が過ぎました。小説の中の様にクロロホルムを使ってみたくて。先生も喜んでくると思ったのですが‥‥。」
俺がクロロホルムを嗅がされて喜ぶと本気で思っているなら、こいつはマジでヤバい奴だ。これ以上会話をしたくない。
「‥‥‥‥睡眠薬」
「え?」
「睡眠薬を飲む。用意しろ‥‥」
「分かりました、先生」
俺は山﨑が用意した睡眠薬を素直に飲むことにする。どうなっても知るものかと、半ば投げやりな気分に陥っていた。
◆◆◆◆◆
山崎は割れた窓ガラスを確認しながら、俺に話しかけてきた。
「それにしても驚きました。誘拐犯を怒らせる行為は悪手ですよ。大塚先生の認知能力はそこまで落ちてしまっているのですか?」
「そうだな。だが、君は随分と楽しそうに笑っているぞ。現実と非現実の境目を楽しむタイプか?」
実際、山崎は楽しそうに笑い目を細めてこちらを見つめてくる。それに負けじと俺も笑い返す。本当は泣きたい‥‥。
「先生だって笑っているじゃないですか。しかし、窓ガラスを割れたまま放置する訳にもいかないので、修理を頼むしかないですね‥‥‥。」
雑事ならなんでも自分でやりこなしそうな男だが、流石に窓ガラスの修理は専門家に頼むらしい。
「でも、修理の際に先生に騒がれては困るので、眠ってもらいます」
「‥‥強制的に?」
「強制的にです」
俺が黙って山崎を観察していると、男は俺の横を通り過ぎリビング奥のキッチンに向かった。そして、俺に声を掛ける。
「睡眠薬とクロロホルム」
「え?」
「どちらを希望しますか、先生?」
俺はため息を付きながら答える。
「君は小説の読みすぎだ。クロロホルムで人を失神させる事は、現実には難しい。布に薬剤を染み込ませて口と鼻を塞いだとして、9回以上は深呼吸させないと肺の中で薬剤は充満しない‥‥おい、ちょっと待て」
男が薬瓶と白い布を持ってこちらに近づいてくる。俺が再び声をあけようとすると、山﨑が声を重ねてきた。
「仮にクロロホルムで意識を混濁させることに成功しても、血圧は低下し、呼吸が抑制され、低酸素状態を引き起こして生命の危機をもたらす‥‥ですよね、先生?」
俺は顔を引きつらせながらソファーの端に移動する。だが、男は素早く動いて俺の背後に周ると、口と鼻を布で覆った。
「んっ~ぐっ~」
薬剤を吸い込むまいと息を止めたが、耐えきれずにクロロホルムを吸い込む。強烈な刺激臭に目眩をかんじながら、俺は山崎の腕を掴んで爪を立てて引っ掻いた。
「っ、痛いですよ‥‥先生」
男が手を引いたことで布が顔から剥がれた。刺激臭に俺が咳き込んでいると、山﨑が俺の背中をさする。俺は咳き込んだまま、男の手を払い除けて深呼吸を繰り返した。
「大塚先生、大丈夫ですか?」
大丈夫な訳が無い。こいつ、本気で俺を殺すつもりなのか?冷や汗が背中に流れて恐怖に支配される。
「すみません、先生。悪戯が過ぎました。小説の中の様にクロロホルムを使ってみたくて。先生も喜んでくると思ったのですが‥‥。」
俺がクロロホルムを嗅がされて喜ぶと本気で思っているなら、こいつはマジでヤバい奴だ。これ以上会話をしたくない。
「‥‥‥‥睡眠薬」
「え?」
「睡眠薬を飲む。用意しろ‥‥」
「分かりました、先生」
俺は山﨑が用意した睡眠薬を素直に飲むことにする。どうなっても知るものかと、半ば投げやりな気分に陥っていた。
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