誘拐/監禁

月歌(ツキウタ)

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コート

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◆◆◆◆◆

介護用の下履きの履き心地を確認していると、山崎が声を掛けてきた。

「コートが濡れていますね」
「ああ、そうだな」
「脱がせますね」 

山崎が俺に触れようとしたので、その動きを制した。そして、少し強めに抗議する。

「このままでいい」
「風邪を引きます」
「構わない」

そう答えると山崎は無言で俺を見つめた。そして、ボソリと呟く。

「貴方が風邪を引いたなら、私が看病します。ですが、自分の体を粗末にするような行為は許しません。貴方は私の管理下にある事を自覚して行動して下さい」

男の言葉に俺は思わず鼻で笑った。

「体を粗末にするなだと?俺を騙して誘拐した人間がそれを言うのか。俺の体を粗末に扱っているのはお前だろ。俺は荷物じゃない。俺は‥」

山崎が俺の言葉を無視して近づくと、コートを脱がしに掛かる。俺は慌てて抵抗する。コートの隠しにはスマホや財布が入っている。奪われるわけにはいかない。

「やめろ!離せ!」
「離しません。」

山崎に抵抗してソファーから立ち上がった。だが、左足の感覚がなく体のバランスが崩れる。床に倒れる事を防ぐために、俺は山崎にしがみついた。

「くそ!」

思わず悪態をついた俺に、男はソファーに座るように促す。

「怪我をしてしまいます、先生」
「うるさい!」
「ソファーに座って下さい」
「黙れ!」

なおも抵抗する俺を山崎はソファーに無理やり座らせた。

「黙るのは先生の方です。大人しく私に従って下さい。そうでないと私が困ります‥‥‥」

男はいきなり俺の首に手のひらをあてがうと、喉仏をぐりっと指で弄った。俺は息を止めて目を見開き、いいえぬ恐怖に支配されて黙り込む。山崎は少し笑って頷く。

「そう、大人しくしていて下さい。」
「‥‥‥‥‥。」

山崎の手が首元から離れていく。俺は呼吸を取り戻し深呼吸をする。そんな俺の様子を確認しながら、山崎はコートを剥ぎ取った。

「ズボンも濡れていますが、少しですから入浴の際に着替えてもらいますね。ああ、やはり貴重品はコートの中でしたか。」

山崎は少し離れた場所でコートから貴重品を取り出した。そして、こちらを見て少し笑う。

「ソファーから転がり落ちそうになりながらも抵抗したのは、貴重品を守るためですね。」

「まあな」

男はスマホを操作し始める。事故で脳障害が現れて以来、スマホ画面はロックしていない。意識を失い倒れた際に、スマホから関係者に連絡を取ってもらう為に。

‥‥まさか誘拐犯に悪用されるとは思ってもいなかった。


◆◆◆◆◆
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