誘拐/監禁

月歌(ツキウタ)

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誘拐①

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◆◆◆◆◆

「え、誘拐?」
「はい。大塚先生を誘拐しました」
「その‥‥冗談は止めてくれるかな」

体の不自由な俺を見かけて、男が声を掛けてくれた。雨に降られて困っていた俺は、見知らぬ男の車に乗ってしまった。『家まで送りましょう』の言葉に騙されて。

「冗談ではないのでやめません。それにしても、こうも簡単に誘拐できるとは‥‥。知らない男の車に乗ってはいけませんよ、大塚先生」

「後悔しているところだ。」

車窓を眺めながらどうするべきか考える。当然、答えは出ない。

「これから、先生を私の別荘にご案内します。鄙びた場所ですが空気は美味しいです。きっと、執筆活動も捗ります」

『執筆活動』の言葉に俺は肩を震わせた。もしも、「ミザリー」のような展開なら勘弁して欲しい。俺はスランプ中でまったく執筆活動をしていない。

「大塚先生の出版された3冊のミステリー小説は全て読みました。私の性癖そのもので、新しい書籍が出版されるのを心待ちにしていたのです。でも、まったく出版される気配がない。なので、誘拐することにしました。」

「‥‥‥‥‥‥。」

「先生、犯罪を犯すというのは、ドキドキしますね。今は最高の気持ちです。大塚先生を誘拐して本当によかった。」

男が恍惚とした表情で赤信号に突っ込んだ。雨に濡れたフロントガラスに赤信号の光が滲む。

「おい!赤信号!」
 
叫んで制止したが、車は交差点を突き抜けていく。

「あぁ、赤信号でしたね。気が付きませんでした。事故らなくてよかった。警察に捕まったら誘拐劇が台無しですからね」

俺は運転席の男を見つめながら、後部座席に背を預ける。過去の事故を思い出した俺は、思わず目を閉じた。


◆◆◆◆◆
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