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第二部 シノ=アングル
第11話 飾り暖炉
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◆◆◆◆◆
公衆浴場に着いた俺は、受付のルートに声を掛けた。
「二階の個室を借りたい、ルート」
「え、二階の個室?二階はセックスする奴にしか貸し出してないぞ。お前ら何時からそういう関係になったんだ?」
ルートが受付から身を乗り出して俺とヤンを見やる。俺は眉を跳ね上げながら応じる。
「今日からそういう関係になる。だから‥‥できるだけいい部屋を借りたい。左端の部屋は空いてるか?」
「左端の部屋なら空いてるぞ。湯を運ばせるから楽しんでいってくれ」
ルートは湯おけにタオル2枚と石鹸を入れて手渡してきた。俺はそれを受け取るとヤンを促して二階に上がる階段に向かう。ガイズも当然の様についてきたが、俺は黙ってやり過ごす。
「パン工房の香りがする」
ヤンが二階にあがるとそう呟いたので、俺はギクリとした。
「まあ、裏がパン工房だからな」
「パン工房で出る熱を利用してお湯を沸かすって、いいアイデアだよね。僕も公衆浴場の仕事したかったな‥‥」
ヤンが詐欺に遭っていなければ、今頃は公衆浴場とパン工房のオーナーだったかもしれない。だが、このまま不幸な運命を受け入れる必要はない。
「この部屋か」
ガイズは俺たちに断ることなく左端の部屋に入ると、内部に視線を走らせた。男は壁に手を走らせながら呟く。
「まあ‥‥いい部屋だが窓がないのは圧迫感があって好かんな。」
「お前には関係ないだろ。さっさと出ていってくれ」
公衆浴場の下人が部屋に湯を運び込むと、ガイズはようやく部屋を後にした。一階で湯浴みしながらワインを飲んで俺たちを見張るらしい。いい商売をしてやがる‥‥。
部屋で二人きりになると、ヤンは少し俺から距離を取り立っていた。ヤンの顔は緊張していて、俺が動くたびにピクリと体を震わせる。
「別に襲わないから安心しろ」
「シノ」
「よし、鍵があった!」
「え?」
俺はルートから手渡された湯おけから小さな鍵を取り出す。
「それは?」
「この部屋には秘密の扉があってな。俺がこの部屋を指定する時は、ルートが桶に鍵を入れてくれるようになってる」
「ルートとシノは幼馴染だったね」
ヤンが鍵を見ようと近づいてきたので、俺は腕を掴んで部屋の端に連れて行く。
「奴を巻き込むのは申し訳ないが、まあ‥‥金を積んで許してもらうさ。ヤン、見てみろ。この飾り暖炉が秘密の扉だ」
「これが?」
「そうだ。」
飾り暖炉の端に鍵穴があり、そこに鍵を差し込むとカチリと音がした。僅かにできた隙間に指を差し込んで開くと、小さな空間が現れる。
「階段が‥‥」
「この階段の突き当りの扉を開くと、パン工房の倉庫に繋がってる。倉庫には窓があるから、そこから抜け出して色街を出ろ、ヤン」
「シノは?」
「俺はここでセックスの雄叫びを上げてガイズを騙す。だからお前は、」
突然、ヤンに抱きつかれた。俺は驚いてヤンの肩を掴む。
「どうした、ヤン?」
「僕が逃げたら‥‥シノはどうなるの?」
「どうもしない」
「嘘だ!僕が逃げたらシノのお母様が邸を追い出されるんでしょ?そんな事になったらシノはどうするの」
俺はヤンが落ち着くように髪を撫でながら話しかける。
「母はヤンを罠に嵌めたんだ。だから、邸を追い出されても仕方ない。まあ、親父に捨てられても俺が養うから大丈夫だ」
「カーラさんは病で高い薬が必要だって聞いたよ。それがないと生きていけないって、カーラさん自身が言ってた。シノはそれを用意できるの?」
「お前が気にする事じゃない」
「気にするよ!」
「ヤン」
「一人にしないで、シノ」
「え?」
「怖くて‥‥僕は一人ではもう生きていけないよ、シノ。一年前に行倒れた時、本当に苦しくって怖かった。人も怖い。またギルのように信じた人に騙されたら今度こそ‥‥」
「ヤン!」
涙をボロボロとこぼし始めたヤンに俺は狼狽える。
「男娼になってもシノのそばにいたい。シノ好きだよ。僕を一人にしないで」
◆◆◆◆◆
公衆浴場に着いた俺は、受付のルートに声を掛けた。
「二階の個室を借りたい、ルート」
「え、二階の個室?二階はセックスする奴にしか貸し出してないぞ。お前ら何時からそういう関係になったんだ?」
ルートが受付から身を乗り出して俺とヤンを見やる。俺は眉を跳ね上げながら応じる。
「今日からそういう関係になる。だから‥‥できるだけいい部屋を借りたい。左端の部屋は空いてるか?」
「左端の部屋なら空いてるぞ。湯を運ばせるから楽しんでいってくれ」
ルートは湯おけにタオル2枚と石鹸を入れて手渡してきた。俺はそれを受け取るとヤンを促して二階に上がる階段に向かう。ガイズも当然の様についてきたが、俺は黙ってやり過ごす。
「パン工房の香りがする」
ヤンが二階にあがるとそう呟いたので、俺はギクリとした。
「まあ、裏がパン工房だからな」
「パン工房で出る熱を利用してお湯を沸かすって、いいアイデアだよね。僕も公衆浴場の仕事したかったな‥‥」
ヤンが詐欺に遭っていなければ、今頃は公衆浴場とパン工房のオーナーだったかもしれない。だが、このまま不幸な運命を受け入れる必要はない。
「この部屋か」
ガイズは俺たちに断ることなく左端の部屋に入ると、内部に視線を走らせた。男は壁に手を走らせながら呟く。
「まあ‥‥いい部屋だが窓がないのは圧迫感があって好かんな。」
「お前には関係ないだろ。さっさと出ていってくれ」
公衆浴場の下人が部屋に湯を運び込むと、ガイズはようやく部屋を後にした。一階で湯浴みしながらワインを飲んで俺たちを見張るらしい。いい商売をしてやがる‥‥。
部屋で二人きりになると、ヤンは少し俺から距離を取り立っていた。ヤンの顔は緊張していて、俺が動くたびにピクリと体を震わせる。
「別に襲わないから安心しろ」
「シノ」
「よし、鍵があった!」
「え?」
俺はルートから手渡された湯おけから小さな鍵を取り出す。
「それは?」
「この部屋には秘密の扉があってな。俺がこの部屋を指定する時は、ルートが桶に鍵を入れてくれるようになってる」
「ルートとシノは幼馴染だったね」
ヤンが鍵を見ようと近づいてきたので、俺は腕を掴んで部屋の端に連れて行く。
「奴を巻き込むのは申し訳ないが、まあ‥‥金を積んで許してもらうさ。ヤン、見てみろ。この飾り暖炉が秘密の扉だ」
「これが?」
「そうだ。」
飾り暖炉の端に鍵穴があり、そこに鍵を差し込むとカチリと音がした。僅かにできた隙間に指を差し込んで開くと、小さな空間が現れる。
「階段が‥‥」
「この階段の突き当りの扉を開くと、パン工房の倉庫に繋がってる。倉庫には窓があるから、そこから抜け出して色街を出ろ、ヤン」
「シノは?」
「俺はここでセックスの雄叫びを上げてガイズを騙す。だからお前は、」
突然、ヤンに抱きつかれた。俺は驚いてヤンの肩を掴む。
「どうした、ヤン?」
「僕が逃げたら‥‥シノはどうなるの?」
「どうもしない」
「嘘だ!僕が逃げたらシノのお母様が邸を追い出されるんでしょ?そんな事になったらシノはどうするの」
俺はヤンが落ち着くように髪を撫でながら話しかける。
「母はヤンを罠に嵌めたんだ。だから、邸を追い出されても仕方ない。まあ、親父に捨てられても俺が養うから大丈夫だ」
「カーラさんは病で高い薬が必要だって聞いたよ。それがないと生きていけないって、カーラさん自身が言ってた。シノはそれを用意できるの?」
「お前が気にする事じゃない」
「気にするよ!」
「ヤン」
「一人にしないで、シノ」
「え?」
「怖くて‥‥僕は一人ではもう生きていけないよ、シノ。一年前に行倒れた時、本当に苦しくって怖かった。人も怖い。またギルのように信じた人に騙されたら今度こそ‥‥」
「ヤン!」
涙をボロボロとこぼし始めたヤンに俺は狼狽える。
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