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淫乱公爵令嬢が処女なんて聞いていない!

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◆◆◆◆◆◆


「君は処女なのか?」

初夜、淫乱と評判の公爵家の娘をベッドに誘ったヴァンサンは、戸惑いを隠せずに呟いた。

裸のセリーヌは瞳からポロリと涙を零すと俯いてしまう。

「セリーヌ」

セリーヌに声を掛けると彼女は小さな声で「全てが初めてです」と答えた。

「全てが…、そ、そうか………」

男狂いの妻を迎えたと腹立たしく思い、初夜であるにも関わらず乱暴に妻を扱ったヴァンサンは頭を抱えそうになる。

情を交えた後にシーツについた血液を見て、ヴァンサンはようやくセリーヌが処女である事に気がついた。

「では、旦那様」
「ん?」
「失礼いたします」
「え?」

「あの…終わりましたので失礼します。寝室は別々にとの約束を私は忘れてはおりません。ご安心ください」

セリーヌがベッドの脇に置いたローブを羽織ると、そそくさとベッドを降りようとしている。

「待ちなさい、セリーヌ!」

ヴァンサンは慌てて彼女の腕を掴み引き寄せた。セリーヌは目を見開き驚きの表情を浮かべる。

「あの…ヴァンサン様?」

「初めてとは知らず乱暴に扱った。申し訳ない、セリーヌ」

ヴァンサンがそう伝えると、セリーヌは恥ずかしそうに頰を染めて言葉を紡いだ。

「初めてのことで…全ての求めに応じられず申し訳なく思っております。夜の男性は雄雄しくおなりですのね…その、驚きました」

「雄雄しい?」
「その…起立するとは思わず…」

「私が勃起不全だと思っていたのか、セリーヌ?」

ヴァンサンがムッとして尖った言葉を向けると、セリーヌはポカンとした表情を浮かべた。そして、慌てて言い募る。

「申し訳ございません、旦那様!私は初夜を無事に迎えるために医学書を読み、男性の体を熟知しているつもりでした!ですが、事実は医学書を凌駕し…あまりに雄雄しい旦那様のそれを見て……その後の記憶がございません!申し訳ございません」

「記憶がない…?」

セリーヌは頰を染めながら涙目でヴァンサンを見つめると、小さな声で呟いた。

「きっととても愛情込めて抱いてくださったと思うのですが…その、痛すぎて………怖くてそれ以降の記憶がございません。次回は記憶を保てるように努力いたします」

ヴァンサンはジリジリとベッドから降りようとするセリーヌを見て己の失態を知る。

「セリーヌ」
「はい、旦那様」

「王城や王都で君がどのように噂されているか知っているかい?」

セリーヌはヴァンサンの言葉にコクリと頷くと、躊躇いもみせずに返事した。

「『公爵家の淫乱女』や『公爵家の売女』と噂されていることは知っています。旦那様もやはり噂をご存知だったのですね」

「ああ、知っていた」

「知っていながら、旦那様は私を妻に迎えて下さったのですね。感謝を申し上げねばなりませんが、侯爵家当主の妻となった身としては忠告させてください」

「忠告?」

「はい。旦那様、次からはこの様な冒険はおやめください。もしも側室をお迎えになる時には、必ず女性の身辺を調べ上げて召し上げて下さいませ。では、失礼します」

セリーヌがベッドから降りようとしたので、ヴァンサンは我慢ならずに強引に抱き寄せた。胸の中に引き寄せたセリーヌは「あっ」と呟きながらも、大人しく身を寄せる。

「セリーヌ…なぜそのような噂を立てられているのか説明しなさい」

「命令ですか?」
「命令だ、セリーヌ」

セリーヌはヴァンサンの胸に頰を押し当てたまま、少し黙った後に語りだした。

「ご存知だとは思いますが、私の元婚約者は第二王子のパルステール様です。ですが、義理の母と異母妹は私の悪質な噂を流して婚約破棄に追い込み…義妹は噂を信じたパルステール様の正妻の座を掴んだ。実に狡猾で見事な手口でした…以上です」

ヴァンサンは驚いてセリーヌを見つめて口を開く。

「『以上です』で終わらせる話ではないだろ、セリーヌ。そのような目にあって君はなぜ噂を否定しない?なぜ妹の悪事を告発しないでいるんだ?」

「パルステール様と婚約破棄するにはちょうどよかったのです。あの方と運命を共にするのは嫌でしたから」

セリーヌは不意に顔を上げるとヴァンサンの瞳を覗き込んできた。そして、僅かに目を細めて言葉を紡ぐ。

「旦那様に秘密を打ち明けます。私には未来が見えるのです。パルステール様は玉座を狙い第一王子を害するおつもりです」

「まさか!?」

ヴァンサンが驚いて問うと、セリーヌはそっと笑って囁く。

「これは私の先見の力です」
「先見の力など…ありはしない」

セリーヌは肩を竦めるとすぐに応じた。

「確かに、セックスについては予想できぬ事で慌てましたが、私には大きな流れが見えるのです。旦那様は第一王子のお味方のはずですよね?すでに第二王子の不審な行動を掴んでおいでなのではありませんか?」

そう問うたセリーヌをヴァンサンはベッドに押し倒していた。そして、女の細い首に手をあてがい、ヴァンサンは眼差し鋭く睨みつける。

「お前…何者だ?」
「……ただの女です」
「セリーヌ」
「寂しい女です」
「………」

セリーヌは切なく微笑むと瞳を閉じた。そして、ポツリと呟く。

「ただ、夫に優しいキスを貰いたいだけの…普通の女です」

「先見ができる普通の女か?そんな言葉を信じると思っているのか?」

「さぁ?」

セリーヌの心を読みかねたヴァンサンは、僅かに迷った後に女の首に手をあてがったまま唇にキスを落とした。セリーヌは驚いて目を見開き頰を淡く染める。

「お前を完全に信じたわけではない。だが、お前はすでに私のものだ、セリーヌ。先見の力があるなら、夫のために使え」

ヴァンサンの言葉にセリーヌは表情を崩さず頷いた。でも、次の瞬間には目を左右に彷徨わせ口を閉じたり開いたりする。不審に思ったヴァンサンが首にあてがった手を退けると、セリーヌに尋ねた。

「どうした、セリーヌ」
「もう一度…」
「もう一度?」
「……唇を重ねたいです」

そう呟くセリーヌは初な18の娘と変わりなく、ヴァンサンは謎めくその女の唇に再びキスを落とした。そして、少し言葉を和らげて囁く。

「初夜にベットを離れることはやめなさい、セリーヌ。医学書には載っていなかったようだけど、初夜は朝まで夫婦で過ごすものだよ…ベッドの上で」

「あ、あの…それは医学書には載っていなかったです。その…お側に」

下腹部に生じた疼きを感じたセリーヌは、躊躇いながらもヴァンサンに身を寄せる。セリーヌを抱き寄せたヴァンサンは厄介だが面白い女を妻にしたと、奇妙な満足感を得て笑みを深めた。

「このまま横で眠ればよろしいのですか、ヴァンサン様?」

「なにかしたいのか、セリーヌ?」
「旦那様は意地悪です」

「そうだな…初夜をやり直したい。良いだろうか、セリーヌ?」

「はい、旦那様」

セリーヌは頰を染めながら返事をして、ヴァンサンの背にそっと手を添えた。




End
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