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第47話 ピエロ看守の独白⑭
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◆◆◆◆◆◆
「佐々木、動けるか?」
佐々木が動けないなら‥‥このまま火を放って一緒に。
「一緒に行こう、佐々木。」
「‥‥‥っ、やだ」
「え?」
「嫌だぁ!どこにも行かない!ここで囚人の面倒見る!どこにも行かない!僕はここで仕事してる!」
佐々木は突然起き上がると、僕の腕を掴んだ。額から血をダラダラ流した佐々木は、僕に顔を近付けて喚いた。
「誰の命令もいらない。自分で判断する。自分で決める!僕に命令するな!ばーか!ばーか!ばーか!」
佐々木の額から飛んだ血が僕の目に入る。僕は痛みで男から離れようとした。
でも、佐々木は腕を離さない。
「佐々木」
「ばーか!ばーか!ばーか!」
「‥‥‥佐々木」
噛み合わぬ会話に、僕の心が一気に冷めていった。佐々木と一緒に死ぬのは‥‥虚しすぎる。
「佐々木がここにいたいならいいよ。その代わりちゃんと仕事をするんだ。聞いてるか、佐々木?」
佐々木の目を覗き込んでゆっくりと話しかけると、男と視線があった。
「‥‥‥仕事?」
「そう、仕事だ。やれるか?」
「やる!やれる!僕はできる!」
「なら、任せるよ。」
「何をするの?」
僕は二号監獄を指さして佐々木の問に応じた。二号監房にはピエロの人形が収監されている。
拉致に失敗して死んでしまった葉山の身代わりピエロ。
「二号監房にまだ囚人がいる。ピエロの囚人だよ、佐々木」
「ピエロの囚人、知ってる!」
「その囚人にガソリンをかけて火をつけるんだ。放火は得意だろ?」
「放火で少年院行ってた!」
佐々木はニコニコしながら答える。知的障害を抱えた佐々木は悪い仲間にいいように使われて、最後には自宅に放火して母親を死なせた。
「ガソリンはそこに転がってる携行缶に入っている。蓋を開けてピエロの体にガソリンをよくかけるんだ。それが終わったら‥‥スタンガンの電源を入れる。こうやってね」
佐々木の目の前でスタンガンの電源を入れる。バチバチと音を立てて光る電撃に、佐々木は目を丸くする。
「格好いいだろ?」
「かっこいい!」
「じゃあ、これは佐々木にあげる」
「欲しい!」
佐々木に手渡すと早速電源を入れる。どうやらスタンガンが気に入ったようだ。まるで子供みたいに遊んでいる。
「スタンガンの電源を入れるのは、人形にガソリンをかけた後だよ」
「わかった。行ってくる。仕事してくる。僕の仕事だ。僕だけの仕事」
「佐々木、鍵を忘れてる」
僕は佐々木に監房の鍵を渡した。さっきまで喚き散らしていた佐々木がニコニコと笑っている。鍵を受け取った佐々木は立ち上がると僕に向かって言葉を発した。
「ありがとう、金田さん」
僕は返事もできずに、佐々木が背を向け歩き出すのを見つめていた。床に座り込む僕の腕を誰かが掴み抱き起こす。
「‥‥‥秋山君」
「行こう、金田」
「僕は」
「うん」
「嫌になったんだ」
「うん」
「佐々木と死ぬのが嫌になった。」
「うん」
「もっと話したいと思った。」
「そうだな。」
「僕はまだ話したりない。」
「うん」
「死ぬ瞬間まで話していたい。」
「‥‥‥。」
「死刑だよね?」
「‥‥っ」
「僕は死刑だ。でも、死刑執行までは生きられる。裁判をして、死刑判決がくだって‥‥僕は拘置所で執行の瞬間まで生きる。」
「‥‥金田」
「拘置所では手紙のやり取りができるから‥‥お願いだから僕に手紙を送って、秋山君。手紙で話そうよ。死ぬ瞬間まで。一年後か十年後か‥‥死刑執行の時まで」
「手紙を送る」
「約束だよ」
「約束する」
「ありがとう、秋山君」
◆◆◆◆◆
「佐々木、動けるか?」
佐々木が動けないなら‥‥このまま火を放って一緒に。
「一緒に行こう、佐々木。」
「‥‥‥っ、やだ」
「え?」
「嫌だぁ!どこにも行かない!ここで囚人の面倒見る!どこにも行かない!僕はここで仕事してる!」
佐々木は突然起き上がると、僕の腕を掴んだ。額から血をダラダラ流した佐々木は、僕に顔を近付けて喚いた。
「誰の命令もいらない。自分で判断する。自分で決める!僕に命令するな!ばーか!ばーか!ばーか!」
佐々木の額から飛んだ血が僕の目に入る。僕は痛みで男から離れようとした。
でも、佐々木は腕を離さない。
「佐々木」
「ばーか!ばーか!ばーか!」
「‥‥‥佐々木」
噛み合わぬ会話に、僕の心が一気に冷めていった。佐々木と一緒に死ぬのは‥‥虚しすぎる。
「佐々木がここにいたいならいいよ。その代わりちゃんと仕事をするんだ。聞いてるか、佐々木?」
佐々木の目を覗き込んでゆっくりと話しかけると、男と視線があった。
「‥‥‥仕事?」
「そう、仕事だ。やれるか?」
「やる!やれる!僕はできる!」
「なら、任せるよ。」
「何をするの?」
僕は二号監獄を指さして佐々木の問に応じた。二号監房にはピエロの人形が収監されている。
拉致に失敗して死んでしまった葉山の身代わりピエロ。
「二号監房にまだ囚人がいる。ピエロの囚人だよ、佐々木」
「ピエロの囚人、知ってる!」
「その囚人にガソリンをかけて火をつけるんだ。放火は得意だろ?」
「放火で少年院行ってた!」
佐々木はニコニコしながら答える。知的障害を抱えた佐々木は悪い仲間にいいように使われて、最後には自宅に放火して母親を死なせた。
「ガソリンはそこに転がってる携行缶に入っている。蓋を開けてピエロの体にガソリンをよくかけるんだ。それが終わったら‥‥スタンガンの電源を入れる。こうやってね」
佐々木の目の前でスタンガンの電源を入れる。バチバチと音を立てて光る電撃に、佐々木は目を丸くする。
「格好いいだろ?」
「かっこいい!」
「じゃあ、これは佐々木にあげる」
「欲しい!」
佐々木に手渡すと早速電源を入れる。どうやらスタンガンが気に入ったようだ。まるで子供みたいに遊んでいる。
「スタンガンの電源を入れるのは、人形にガソリンをかけた後だよ」
「わかった。行ってくる。仕事してくる。僕の仕事だ。僕だけの仕事」
「佐々木、鍵を忘れてる」
僕は佐々木に監房の鍵を渡した。さっきまで喚き散らしていた佐々木がニコニコと笑っている。鍵を受け取った佐々木は立ち上がると僕に向かって言葉を発した。
「ありがとう、金田さん」
僕は返事もできずに、佐々木が背を向け歩き出すのを見つめていた。床に座り込む僕の腕を誰かが掴み抱き起こす。
「‥‥‥秋山君」
「行こう、金田」
「僕は」
「うん」
「嫌になったんだ」
「うん」
「佐々木と死ぬのが嫌になった。」
「うん」
「もっと話したいと思った。」
「そうだな。」
「僕はまだ話したりない。」
「うん」
「死ぬ瞬間まで話していたい。」
「‥‥‥。」
「死刑だよね?」
「‥‥っ」
「僕は死刑だ。でも、死刑執行までは生きられる。裁判をして、死刑判決がくだって‥‥僕は拘置所で執行の瞬間まで生きる。」
「‥‥金田」
「拘置所では手紙のやり取りができるから‥‥お願いだから僕に手紙を送って、秋山君。手紙で話そうよ。死ぬ瞬間まで。一年後か十年後か‥‥死刑執行の時まで」
「手紙を送る」
「約束だよ」
「約束する」
「ありがとう、秋山君」
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