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第37話 ピエロ看守の独白⑪
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◆◆◆◆◆
僕はチラリと秋山君を見た。彼はしばらく黙って八木の弟を見つめていたが、不意に言葉を発した。
「八木の過去はわかりました。だからといって、彼の行為を正当化する事はできない。俺も金田も八木には随分苦しめられた。」
秋山君の鋭い発言にも動じず、八木貴明は頷き返事をする。
「確かに貴方の仰る通りです。兄の暴力を私は正当化するつもりはありません。お二人には申し訳なく思っています。」
八木は再び僕たちに頭を下げた。その姿を見た秋山君は、気まずそうに言葉を紡ぐ。
「君を責めている訳じゃない。弟の君も八木に暴力を振るわれて苦労してきた‥‥そうだろ?だから、頭を上げてくれ。」
「‥‥‥分かりました」
八木が顔を上げると、秋山君は躊躇いながらも質問をした。
「君も家族も八木に散々迷惑を掛けられてきたんだよな?失踪したこの機会に、兄と縁を切りたいって思わなかったのか?」
「確かに思いました。このまま縁が切れるなら兄とは縁を切りたいと」
「でも、君は兄を探してる。それはやっぱり‥‥家族の情?」
「それは違います」
八木貴明がはっきりと秋山君の言葉を否定したので、僕は思わず言葉を発していた。
「家族の情でないなら、君はどうして僕の元にきたの?大麻のパケに書かれた住所を訪ねるなんて、普通はしないと思うけど?それだけ八木隼人に会いたいって事じゃないの?もしそうでないなら、何が目的だ?」
「金田」
秋山君に名を呼ばれてハッと我に返る。気がつけば僕は八木の弟を問い詰めていた。慌てて謝罪しようとしたが、その前に八木貴明が言葉を発する。
「義姉のためです」
「義理の姉?」
「離婚調停中に兄が失踪してしまったので、義姉は離婚できずに困っています。彼女は今は実家に戻っていますが、夫の行方がわからず余計に怯えていて引きこもりいる。私はそんな彼女を救いたい。だから、兄を探しています。」
義姉の離婚を成立させる為に、八木貴明は兄を探しているのか。『彼女を救いたい』か‥‥。
「義姉とはいえ貴方にとっては赤の他人ですよね?随分と肩入れをしてますね?」
僕の質問に八木は迷う事なくはっきりと応じる。
「義姉は私の元恋人です。」
「え?恋人?」
僕は思わず聞き返していた。秋山君も興味を惹かれたのか少し身を乗り出す。同僚の松村は初めてその話を聞いたのか、興味深そうに八木に視線を送る。
「実兄に恋人を奪われた間抜けな男ですが、今でも彼女を大事に思っています。私の兄が彼女を不幸にしてしまった。ならばせめて彼女の為に何かをしなければ気が済まない。」
八木貴明はそう言い切ると、おもむろにジャケットの懐から封筒を取り出した。彼は封筒から書類を取り出すと大麻パケの上で広げた。
「離婚届‥‥」
離婚届は『八木隼人』の署名欄以外はすべて書き込まれていた。八木の妻の署名や証人欄も全て埋められている。
僕が離婚届を見ていると、八木の弟がはっきりとした口調で言葉を発した。
「兄が仮に薬物中毒に陥っているなら、必ず薬を求めて貴方の元を訪れる筈。もしも、兄の隼人に会う機会があったらこの離婚届を渡して下さい。そして‥‥名前を書くように兄に促して欲しい。」
八木の弟の目的はこれか。
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僕はチラリと秋山君を見た。彼はしばらく黙って八木の弟を見つめていたが、不意に言葉を発した。
「八木の過去はわかりました。だからといって、彼の行為を正当化する事はできない。俺も金田も八木には随分苦しめられた。」
秋山君の鋭い発言にも動じず、八木貴明は頷き返事をする。
「確かに貴方の仰る通りです。兄の暴力を私は正当化するつもりはありません。お二人には申し訳なく思っています。」
八木は再び僕たちに頭を下げた。その姿を見た秋山君は、気まずそうに言葉を紡ぐ。
「君を責めている訳じゃない。弟の君も八木に暴力を振るわれて苦労してきた‥‥そうだろ?だから、頭を上げてくれ。」
「‥‥‥分かりました」
八木が顔を上げると、秋山君は躊躇いながらも質問をした。
「君も家族も八木に散々迷惑を掛けられてきたんだよな?失踪したこの機会に、兄と縁を切りたいって思わなかったのか?」
「確かに思いました。このまま縁が切れるなら兄とは縁を切りたいと」
「でも、君は兄を探してる。それはやっぱり‥‥家族の情?」
「それは違います」
八木貴明がはっきりと秋山君の言葉を否定したので、僕は思わず言葉を発していた。
「家族の情でないなら、君はどうして僕の元にきたの?大麻のパケに書かれた住所を訪ねるなんて、普通はしないと思うけど?それだけ八木隼人に会いたいって事じゃないの?もしそうでないなら、何が目的だ?」
「金田」
秋山君に名を呼ばれてハッと我に返る。気がつけば僕は八木の弟を問い詰めていた。慌てて謝罪しようとしたが、その前に八木貴明が言葉を発する。
「義姉のためです」
「義理の姉?」
「離婚調停中に兄が失踪してしまったので、義姉は離婚できずに困っています。彼女は今は実家に戻っていますが、夫の行方がわからず余計に怯えていて引きこもりいる。私はそんな彼女を救いたい。だから、兄を探しています。」
義姉の離婚を成立させる為に、八木貴明は兄を探しているのか。『彼女を救いたい』か‥‥。
「義姉とはいえ貴方にとっては赤の他人ですよね?随分と肩入れをしてますね?」
僕の質問に八木は迷う事なくはっきりと応じる。
「義姉は私の元恋人です。」
「え?恋人?」
僕は思わず聞き返していた。秋山君も興味を惹かれたのか少し身を乗り出す。同僚の松村は初めてその話を聞いたのか、興味深そうに八木に視線を送る。
「実兄に恋人を奪われた間抜けな男ですが、今でも彼女を大事に思っています。私の兄が彼女を不幸にしてしまった。ならばせめて彼女の為に何かをしなければ気が済まない。」
八木貴明はそう言い切ると、おもむろにジャケットの懐から封筒を取り出した。彼は封筒から書類を取り出すと大麻パケの上で広げた。
「離婚届‥‥」
離婚届は『八木隼人』の署名欄以外はすべて書き込まれていた。八木の妻の署名や証人欄も全て埋められている。
僕が離婚届を見ていると、八木の弟がはっきりとした口調で言葉を発した。
「兄が仮に薬物中毒に陥っているなら、必ず薬を求めて貴方の元を訪れる筈。もしも、兄の隼人に会う機会があったらこの離婚届を渡して下さい。そして‥‥名前を書くように兄に促して欲しい。」
八木の弟の目的はこれか。
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