牢獄/復讐

月歌(ツキウタ)

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第33話 本物の看守

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◆◆◆◆◆

「コーヒーどうぞ」

金田がトレイにカップを乗せて運び、俺が二人の訪問者にコーヒーを配る。

「突然訪れたのにお気遣いありがとうございます。えっと、秋山さんでしたね。金田さんの同僚の?」

コーヒーを受け取った八木の弟がお礼を口にしたので、俺をちょっと肩を竦めて返事した。

「同僚ではなく、金田は俺の上司です。無職の時期に声を掛けてもらって、彼の事業を手伝っています。」

俺はトレイからコーヒーを取り松村の前にも置いた。松村は黙って会釈する。二人の訪問者はコーヒーを口にする様子はない。

毒物は何も入っていないから飲めと勧めてみるか?そんなつまらないことを考えていると、金田から声が掛かった。

「秋山君、僕たちのコーヒーもテーブルに置いてくれる?」

「ああ、悪い」

俺は慌てて二つのコーヒーカップをテーブルに置くと、そのままソファーに座った。俺の前には松村が座っている。

俺の隣に金田は座ると八木の弟と対峙した。金田はコーヒーを一口飲んだあと、不意にこちらに顔を向けて話し掛けてきた。

「この作業服、着心地がいいから日常着としても使っているけど、他人からはペアルックに見えるらしいよ、秋山君。日常着に使うのはやめたほうがいいかもね。」

「確かに‥‥ペアルックと勘違いされるのは恥ずかしいな。」 

俺達がそんな会話を交わすと、八木が申し訳無さそうに口を挟んできた。

「申し訳ない。仲良くゴミ出しをしていたので‥‥てっきりそういう関係なのだと思い込んでしまって。同色の作業着もペアルックに見えてきてしまって、思わず金田さんに尋ねてしまったんだ‥‥申し訳ない」
 
俺はドキリとして八木を見る。こいつはゴミ出し作業を見ていたのか。

「っ‥‥‥。」

八木隼人の血がこびりついた作業着は確かにゴミステーションに捨てた。でも、ゴミ回収車が来るまで待たずに帰ってきてしまった。

殺人の証拠は確実に処分できただろうか?

「とにかく申し訳ない。私は思ったことをすぐに口にしてしまうので、いつも上司や同僚の松村に叱られていて‥‥なあ、松村?」

不安な気持ちが渦巻き、八木の会話を半分も聞いていなかった。八木が同僚の松村に会話を振った事で、俺は我に返り松村に視線を移す。

松村は顔を顰めながら口を開いた。

「確かに、お前は口が軽すぎる。刑務官向きの性格ではないな。」

「刑務官?」

不意に金田が言葉を発する。『刑務官』と言葉を乗せた金田の唇が僅かに震えていた。

刑務官って‥‥。

「ああ、私も松村も堺市にある大阪刑務所で刑務官をしています。私は夜勤明けだったので、今日休みの彼に和歌山まで車で送ってもらいました。お陰で車の中でぐっすり休む事ができて助かり‥‥っ?」

不意に金田が笑いだしたので、八木は言葉を切って不審な表情を浮かべる。俺は不気味な金田の笑いに気圧されて動けなかった。

「‥‥本物の看守が現れるとは」

金田はボソリとそう呟くと笑い声を上げたことなど無かったように沈黙する。何かを考えているようだが、その気持ちは推し量れない。

金田が押し黙ると八木はゆっくりと会話を再開した。その声は固い。

「‥‥できれば、早く主任看守になり、看守部長と上がって一番上の矯正監を目指したかった。でも、失踪した兄の部屋で『これ』を見つけてしまった以上、退職するしかないでしょうね」

八木貴明は真剣な声でそう発すると、懐から透明の袋を取り出した。

それをテーブルに置く。

透明の袋の中身は乾燥した草で、パッケージには何処かの住所が油性ペンで書き込まれている。

「これは‥‥」
「大麻のパケとここの住所だよ」

金田は静かな口調でそう答えた。俺は視線を大麻の入った袋に向けて、手を膝の上で握りしめた。

八木の弟は‥‥金田が兄の失踪に関わっていると確信してここに来た。

そういうことなのか?



◆◆◆◆◆◆
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