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第69話 モグラの正体
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俺は名前を問われるのは嫌いだ。
「笑うなよ・・本名は、西園寺兼光だ」
「さいおんじかねみつ・・高貴な生い立ちですか?」
「そう聞かれるから嫌なんだ。八尾の町工場の息子だ。毎日ネジを作る親父を見て、町工場は継がないと決めた」
「町工場を継いだ方が幸せな人生を送れたんじゃない?」
「どうだろうな?」
「じゃあ、僕は石井さんの弱みを握ったからね。忘れないでね、その事を」
「ああ分かってる」
俺はその言葉で会話を切ることにした。モグラが、扉の前に立って内部の様子を伺っている事が分かったからだ。しばらくして、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「速水さん、少しよろしいですか?」
「モグラさん、ちょっと待ってね」
速水は俺のベッドから離れると扉に向かった。俺は目を瞑り様子を伺う。寝室の扉が開く音がした。
「どうしたの、モグラさん?」
「はい、竜一さんの事です」
「あ、そっか。治療が終わったら竜一さんに報告する予定だったね。すっかり、忘れてた!モグラさん、教えに来てくれてありがとう。えーっと、じゃあ、僕が竜一さんを呼びに行こうかな。モグラさんも一緒に来る?」
「速水さん、申し訳ありません!!」
「ど、どうしたのモグラさん!?」
「先ほど、薬品管理をしていて気が付きました。石井さんへ投与した鎮静剤の量が少ないことが判明しました」
「ああ、それでだね。さっきまで彼は意識があったよ。今はまたうつらうつらしているみたいだけど」
「速水さん、申し訳ございません。怪我人の治療を一任されながらこの不始末。速水さんの気が済むまで、鞭で打ってください。今すぐに全裸になります。清一さんは鞭の柄を尻に突っ込むことを好まれましたが、速水さんはいかがでしょうか?もしお望みなら、清一さん愛用の鞭を持ってまいります!」
「いや、モグラさん。僕は、清一さんじゃないからそういう趣味は無いからね。それに誰だってミスはするよ。うーん。不足分の鎮静剤を打つことは可能?」
「勿論です!!」
会話の内容から、モグラに対して全く信頼感が湧かない。やめて欲しい。彼の治療を受けたくない。だが、速水には俺の心の声は通じなかったようだ。
「じゃあ、モグラさんは石井さんの事をよろしくね。僕は竜一さんに報告してくる。確か、丹野さんも一緒に廊下で待っていてくれているんだよね。後で、モグラさんの美味しいコーヒーを淹れてあげて。じゃ、よろしくね」
速水が寝室を出ていくと、急にモグラの雰囲気が変わったことがわかった。いきなりベッドに近づくと俺を蹴り飛ばす気配がした。俺は咄嗟にベッドから降りて身構えた。モグラは、無表情でこちらを見ていた。
「あんた、誰?」
「お前こそ、誰なんだ・・『モグラ』」
「元潜入捜査官って事になってるけど、ただの公安の犬」
「公安の協力者という事か。今もそうなのか?」
「まあ、今もそうだけど、たいした情報は流してないよ。実際流す情報もないしね。地下に堕とされた俺を見捨てたくせに、速水の世話係になった途端に公安の奴が接触して来た。そんな奴らに正確な情報流すと思う?」
「なぜ、公安が速水に興味をもつ?」
「公安の犬でしかない俺には詳しいことは分からないけど・・清一絡みじゃないの?」
「青山清一?」
「死んだ人間が今更だけど、この街でテロをおこすつもりらしいよ」
「何の為に!?」
「で、あんた誰?」
「・・『マトリ』だ」
「麻薬捜査官なの?なんで、そんな奴が速水の周りをうろついてんだよ。とにかく迷惑だから近づかないで欲しい」
「どういう意味だ?」
「あんた、速水をこの街から連れ出すつもりだろ?」
「悪いか?」
「速水をこの街から出すな。清一は、この街もこの街の住人も心底嫌っていた。その清一がこの街で唯一愛したのが速水だ。速水がこの街で生活する限りは何も起こらない。だが、速水がこの街に見切りを付け、ここを去ればテロがおこる。清一は長い年月を掛けて、地下にネットワークを完成させた。清一の子飼いが、この地下にはウヨウヨいるらしいぞ。速水がこの街を去ることで、そいつらが一斉に動き出す・・テロリストとしてな。つまりは、速水が引き金の役目を担っているって訳だ。公安としては無視できない情報だろ?」
「そんな荒唐無稽は話を・・俺に信じろというのか?」
「まあ、そうなるよな。青山清一は歪んだ性格の持ち主だった。清一は俺を公安の犬だと知った上で俺を拾った。公安の犬にテロ計画を聞かせる為だけにあいつは俺を生かしたんだ。俺はあいつに毎日調教されながら、このテロ計画をたっぷりと聞かされたよ。まあ、俺を調教したのは清一の只の趣味だろうけどな。そして、清一は死に、俺は地下から生還して、速水の世話係になった。地上に浮上して速水の世話係になった俺に、公安の奴らは当然のように接触してきた。俺の事を心配していたなんて嘘を吐きながら。まあ、それでも・・俺はこの街が好きだからな。俺は青山清一から聞いたテロ計画の全てを公安に報告した。公安も半信半疑の様子だったが、無視も出来ずに速水を見張っている状態だ」
「つまり・・清一の戯言という事もあるわけだな?」
「真実は分からない。だが、青山清一は確実に狂ってた。調教された俺も危うく清一の犬になって、テロに参加するところだったかもな。その前に、清一は死んでしまったが」
「ああ、そうだな。青山清一は昔から狂っていた」
モグラは僅かに息を吐き、言葉を続けた。
「『青山清一は昔から狂っていた』か?ああ、なるほどね。ひょっとして、青山清一に取入って麻薬ルートを潰した『マトリ』はあんたか。そのあんたが、どうして、この街に舞い戻ったのかは知らないが、速水を街の外に誘導するのはやめてくれ。あんたが『マトリ』なら自分の領分に戻れ。ここは公安の領域だ」
速水が厄介な事に巻き込まれている。あいつを街の外に出すことを公安が警戒しているのなら、そう容易には出られそうにない。清一、あんたは何を考えて生きていたんだ?テロだって?お前らしくもない。ただ、速水をこの街から出したくないだけじゃないのか?
速水をこの街で飼い殺しにするつもりなのか、清一?
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