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第33話 竜一さん、触れて

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◆◆◆◆◆◆


おそらく、伍代の電話の相手は叔父だったのだろう。廊下でスマホに向かって何やら言い訳をしていた伍代の脇腹に蹴りを入れるとあっさりと一撃が入った。俺は伍代の両足を掴むとそのまま玄関先に引き込み、急いで扉を閉めた。

伍代の脇腹にもう一撃蹴りを入れようとして、背後からか細い声が聞こえて俺は踏みとどまった。『幼馴染』の速水に、俺が暴力を振るっている姿など見られたくない。俺が振り返ると、速水が廊下に凭れかかるようにして立っていた。

「竜一さん、それ以上蹴っちゃ駄目だよ。伍代さんが気絶しちゃうよ・・」
「ああ・・そうだったな。こいつからは、薬を体内から抜く方法を聞き出さないといけないからな。それより、速水。俺の寝室から出ない様に言ったはずだぞ?」
「そうだけど・・心配で・・」

速水は、俺と伍代のどちらを心配したのだろう?ふと気になったが、それを聞き出してどうする。意味のない質問をしている時間はない。

俺は玄関に転がる伍代の手に、スマホが握られている事に気が付いた。まだ相手と通話が繋がっているかは不明だが、叔父に確認したかった。速水に薬を飲ませる指示を出したのは貴方なのかと。もしそうなら、あまりに酷いとそう言いたかった。俺は、伍代からスマホを奪う為に身を屈めた。

そこを伍代に狙われた。身を伏せていた伍代が突然起き上がると、前傾姿勢でスマホを奪おうとした俺のみぞおちに、奴の肘が食い込んだ。俺は吐き気に襲われその場に崩れ落ちた。完全に俺の負けだ。伍代の一撃で俺は動けなくなってしまった。

「酷いですよ、竜一さん。いきなり脇腹蹴って室内に連れ込むとか・・俺をレイプでもする気ですか?それは困ります。俺は男には興味ないので。では、速水さん。最上階まで護衛しますので、この部屋を出ましょう」
「速水・・寝室に逃げろ・・」
「いやいや、どうしてそうなります??俺は、速水さんの護衛として迎えに来ただけですから」
「・・悪いけど、伍代さんは・・やっぱり信用ならないよ。僕に、何を飲ませたの?」
「んー、ひょっとして、もう射精しちゃいました?」

軽い口調でそう言った伍代に、俺は怒りが爆発した。俺は渾身の力で立ち上がると、伍代の襟元を掴んで睨みつけた。伍代は抵抗しなかった。俺が睨んで脅したところで、彼にはどうという事ではないのだろう。それでも、構わなかった。元々、俺に暴力は向かない。

「これは、組長の指示か?速水にこんな酷い薬を飲ませて・・叔父はこいつを『性玩具』として扱っているのか!」
「・・いえ、組長はご存じありません。ただし、事後報告はしました。組長からは、お叱りを受けました。これ以上状況が悪化しますと、俺が海に沈められそうなので・・速水さん、俺の命を救ってくれませんか?」

伍代は俺を無視して、速水に話しかけた。速水は深いため息をつくと、俺に視線を向けてきた。

「竜一さん、伍代さんを離してあげて。清二さんの指示じゃない事は分かってる。彼は僕にそんな事はしない。僕の元の囲い主とは違うからね。でも、この薬には覚えがある・・『性奴隷』の間で流通してたよね。僕も、清一さんに飲まされたことが、何度もある。伍代さんも、飲んでたの?『性奴隷』時代に?」

「ええ、まあ。速水さんよりも、日常的に常用していたと思いますよ?俺は、毎日女の膣にペニスを突っ込むのが仕事でしたから。でも、日に何人も女を抱くのは、いくら若くても無理ってものでしょ?だから、薬で無理矢理勃起させて女に突っ込んでいました。組長に拾われるまで、『性奴隷』の俺にはこの薬が必要不可欠だった。まあ、『性奴隷』になったばかりの俺は、店の連中に薬を無理矢理飲まされていましたけどね。その内、自分で飲むようになっていましたね。『性奴隷』の速水さんなら分かるでしょ?諦めも肝心だって」

伍代はわざと自身の『性奴隷』時代の話を、速水に聞かせている。俺はそう感じた。速水もまたそれに気が付いているはずだが、それでも心が揺らいでいる事が分かった。俺は唇を噛みしめながら、伍代の襟から手を離した。

「とにかく、リビングで話を聞く。ついてこい、伍代」
「はい、竜一さん」
「・・速水はどうする?体が辛いなら、寝室で休んでいてくれ」
「大丈夫だよ、竜一さん。安易に薬を飲んでしまった僕にも責任はあるし・・伍代さんが僕に薬を盛った意図をちゃんと知りたいから。一緒に話を聞かせて」

速水はそっと笑ってリビングに向かった。俺も伍代を警戒しつつリビングに向かう。リビングに着くと、伍代は俺の許可もなくソファーに座ると、堂々と悪質で間抜けな計画を話し始めた。何故か、速水は熱心に伍代の嘘くさい話に耳を傾けている。伍代の話を実に馬鹿げていた。そして、速水の行動もかなり抜けていた。


◇◇◇◇


早朝、『かさぶらんか』の看板に卑猥な落書きがされていると連絡を受けた伍代は、様子を確認する為に店に向かうことにした。伍代は速水に報告すべきか迷ったが、速水が『かさぶらんか』のオーナーであることを重視し状況を報告。速水は伍代の制止を振り切って、自ら『かさぶらんか』に向かった。そして、二人は『かさぶらんか』の看板の卑猥な悪戯書きを目にすることになった。

その卑猥なイラストは『性奴隷』の速水を思わせるものだった。速水の動揺は激しく、伍代の前でさえ涙を流してしまった。伍代は護衛の役を超えているとは思ったが、元『性奴隷』の立場から、泣いている速水にアドバイスを与えた。それは、童貞を捨てて女を抱けという内容だった。伍代は経験則から、男に奉仕する『性奴隷』が女を抱くと『性奴隷』独特の匂いが確実に薄まると、速水に力説したようだ。

速水は、伍代の提案を一度は断った。だが、伍代から童貞であることをしつこく指摘されて、速水の男としてのプライドが傷ついた。いっそ童貞を捨て去ろうかと思考が傾いた速水に、伍代は即座にマムシドリンクを手渡した。速水は、怪しいとは思いつつも、伍代の勢いに押されてドリンクを飲んでしまった。そこに、俺が現れたという訳だ。


◇◇◇◇


「ねえ、聞いていい、伍代さん?」
「はい。何なりと、速水さん」
「どうして、あんなにもタイミングよく、伍代さんは薬入りのマムシドリンクを持っていた訳?」
「ああ、なるほど。確かにあのタイミングで、偶然マムシドリンクを持っているのは不自然ですよね?」
「不自然過ぎるだろ・・伍代」

軽い口調で話す伍代にいい加減イライラして、思わず低い声がでた。伍代は僅かに視線をこちらに向けたが、すぐに速水に視線を戻すと言い訳を始めた。

「疑われても仕方のないタイミングですよね。でも、本当に偶然なんですよ。実は・・今夜は別の人物に速水さんの護衛を任せて、夜中に風俗店に繰り出す計画を立てていました。俺も色々ストレスが溜まってまして・・マムシドリンクと薬の力を借りて、一晩中風俗女とヤリまくるつもりだったもので。明日まで組長不在で完全に気が緩んでいました。申し訳ございません、速水さん」
「え、それで・・マムシドリンクを持っていたの??」
「速水さんー。そうでなければ、薬入りのマムシドリンクなんて持ち歩きませんよ。常時そんなものを持ち歩いていたら、変態じゃないですか?」
「そ、そうですよね。マムシドリンクを即座に出した伍代さんが、少し変態に見えました」
「えー、酷いなぁ。ところで、こっち系の薬への耐性はありますか、速水さん?それによって、対策が変わってきますが?」
「うーん。まあ、飲まされた事はあるけど・・」

伍代の言動は怪しすぎる。そして、そんな伍代の言動にすっかり丸め込まれている速水には、まだまだ保護者が必要だと痛感した。その保護者が『幼馴染』の俺であっても問題はないだろう。俺は、二人の会話に割って入った。

「話は分かった、伍代。全てを信じるわけではないが、今はどうでもいい。薬を抜く解毒剤などはないのか?」
「あー、竜一さんは『性奴隷』の事を本当にご存じない。『性奴隷』なんて使い捨てに過ぎないんです。解毒剤なんて流通してませんよ。開発されているかも怪しい」
「なら、どうする?」
「女を一晩中抱けば万事解決なのですが、組長からはそれは止められましたので・・速水さんには、自力で射精を繰り返して貰うしかないですね。つまり、自慰行為です」
「ああ・・やっぱりか・・」

速水の嘆きに思わず同情してしまった。一日中、自慰行為をする羽目になるとは。だが、速水の次の言葉に、俺はぎょっとした。

「でも、まずいな。多分これ系の薬を元の囲い主に飲まされた時に、調教されたんだよね。囲い主の手で体に触られないと、射精が出来ないんだよ。自慰行為は、さっきトイレで試したけど・・駄目だった。多分、女の人に触れても射精できないと思う」
「え、まじですか?そんな調教が可能なのか・・興味深いな。因みにどのような方法で・・?」
「伍代さん!!」
「ああ・・失礼いたしました。ところで、速水さん。今、射精は何回目ですか?」
「一回だけ」
「一回目が出たのに、連続で射精できなかったってことですか?」
「射精感はあるのに勃起もしてない。つまり、出せないという最悪な状態。恨むよ、伍代さん・・こんな状態にしてさぁ。ああ、どうしよう・・この薬、体から抜けるの遅いんだよね」
「そうですね。元々は『性奴隷』を玩具として弄ぶための薬ですから。半減期が長いんですよね・・」
「うう・・とにかく、この射精感を何とかしたい・・」

何だこの会話は。ついていけない。いや、聞きたくない。

「でも、一回目は射精できたんですよね?切っ掛けは、何ですか?」
「ああ、竜一さんに額を触れられた時にね。ぴゅってきた」
「なるほど。ならば、簡単ですよ。つまりは男の人に触られると、いっちゃう訳ですね?速水さん、俺が体に触れても大丈夫ですか?」
「うん、いいよ」

「おい、ちょっと待て!!」

俺が『性奴隷』の会話にぼんやり耳を傾けていると、その隙を付かれた。伍代の手が速水の額に触れていた。俺はすぐさま、その手を弾き飛ばした。伍代は目を丸くして俺を見てくる。

「うおっと!!竜一さん、死んだ魚の目をして会話を聞いてたのに、何ですかその反応速度は!!」
「伍代、勝手に俺の速水に触れるな!!」
「『俺の速水』って。まあ、いいですけどね。どうですか、速水さん・・ぴってきました?」
「・・射精感はあるけど全く来なかった」
「うーん、なるほど。では、竜一さん・・速水さんに触れてください」
「はぁ??」
「いいから、触れてください」
「・・・」

何故か、俺は無言で伍代の命令に従ってしまった。というよりも、俺も速水に触れたかった。俺が触れた途端に、速水はびくりと体を震わせた。

「ひぁあーーーーんっ!!」

「!?」
「!!」

速水が大きな声を出してから、すぐに俯いた。顔を真っ赤にしている。しばらくして、涙を滲ませた速水が俺を見つめた後、テーブルに突っ伏して懇願してきた。

「ごめんなさい、竜一さん。竜一さんの手の形が、清一さんの手の形とそっくりだと判明しました。つまり・・その、お願いいします!!僕の自慰行為に、付き合ってください!!」

俺は愕然としながら速水を見ていた。速水は真っ赤な顔で下半身を抑えていたが、そのズボンに染み出す液体を凝視せずにはいられなかった。


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