上 下
15 / 124
日常に潜む不穏な動き

祝言本番

しおりを挟む

―――

「どうだ?お姫様になった気分は?」
「えぇ。最悪です。」

 信長のからかい半分の問いを、蝶子が笑顔でばっさり切り捨てる。さすがの信長もこれには苦笑して盛り上がっている家来達を見渡した。

 今は祝言の真っ最中。先程婚礼の儀が行われ、滞りなく終わったところだ。参列している面々は皆一様に蝶子に目を奪われ、突然開かれたこの祝言に不平・不満を抱いていた者達も大人しくなって、二人に祝福の拍手を送っている。

 そして次々とお膳が運ばれてきて、これから会食が始まるという訳だった。

「はぁ~……」
 蘭とはさっきお膳を置きに来た時に一回だけ目が合ったけど、あっちも忙しかったみたいですぐに出て行ってしまった。家来という立場上仕方ない事だと思うけれど、こんな所に一人残されて心細いやら何やらで、逆に憎い気持ちが芽生えてきた。

(まったく……何が悲しくて好きでもない人と……まぁ、偽装だけど。でもやっぱり複雑……)

 内々で済ますって言っていたが、思っていたよりも多い人数にちょっと気圧され気味の蝶子は、さっきからため息が止まらない。やはりこの隣にいる織田信長なる人物は相当な人物なのだと、歴史にまったく興味のない彼女は蘭が聞いたら『当たり前だろ!』と叫びそうな事を思っていた。

「あの~……」
「何だ。」
「私の事はどういう風に説明しているんですか?まさか突然現れた何処の馬の骨ともわからない女って言ってる訳じゃないでしょう?」
 前を向いたままそう言う蝶子の口調には刺があったが、信長は気にせず答えた。

「大丈夫だ。お前の事は斎藤道三の娘の濃姫として紹介してある。後で家来全員と一人ずつ顔を合わせて、お互いに自己紹介する場を設けるからお前も余計な事は言わず、ただ笑っとけばいい。」
「はぁ?笑っとけばいいって何よ?……っていうか、道三の娘って本物がいるんでしょ?それっていいの?バレたらまずくない?」
 思わず隣を見ると、信長は鼻で笑った。

「心配するな。ちゃんと対策はしてある。そうだな……明日にでも説明する。サルに案内させるから、蘭丸と一緒に市の部屋に来てくれ。」
「市様の?」
「あぁ。俺の部屋は家来はもちろん、妻でさえもそう簡単に入る事は許されない。誰であろうと寝首を斬られる危険があるからな。それともお前がどうしても来たいと言うなら、俺は大歓迎だがな。」
 前を向きながらそっと腰に手を伸ばしてくる信長を、蝶子は真っ赤な顔で睨んだ。

「寝首どころか真っ正面から堂々と刺してあげますよ。」

 市から護身用にと預かり、押し入れにしまっておいた短刀を思い浮かべながら、冷たく言い放った……



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?

三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい!  ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。 イラスト/ノーコピーライトガール

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

処理中です...