7 / 124
異能の力を持つ者達
黒づくめの何者か
しおりを挟む―――
タイムマシンの残骸を残して山を降り始めて数十分。
蘭と蝶子は絶体絶命のピンチに陥っていた。
「……ねぇ、蘭。これってどういう状況?」
「うん……見知らぬ土地で怪しげな輩に取り囲まれて万事休す!…的な?」
笑いながら言ってるがその顔はひきつっていて、声も震えている。右腕に蝶子の温もりを感じながら、蘭は何とか勇気を振り絞ろうと深呼吸した。
「お……お前達は何者だ!」
目の前の集団に問いかける。しかし誰も何の反応を示さない。まるで魔法にかけられて時間が止まったかのようだ。
そんな相手の様子にいくらか落ちついてきた蘭は、現状を冷静に判断しようと頭を働かせた。
足元の悪い道を蝶子と二人で慎重に歩いていた時、突然目の前に人影が現れて行く手を阻んだのだ。数えると六人。
全員が揃って黒ずくめで、よく見ると甲冑みたいな物を着ている。旗を持っている者もいた。
(甲冑って……本当に560年前に来たって事か!っていう事はえっと…戦国時代?うっわ!マジで!?)
甲冑とか戦国時代とか22世紀の世界ではもはや死語と言っても過言ではない言葉を知っていたのは蘭が大の歴史好きで、愛読しているマンガによく描かれているからなのだが、歴史にまったく興味のない蝶子は何が何だかわからない様子で必死に蘭の腕にしがみついている。
しかし浮かれている蘭はそんな彼女の様子に構う事なく、観察を続けた。
(あの旗…見覚えあるんだよな~どこのだっけ……?)
こめかみに指を当てて記憶を辿る。
(上杉……いや、違う。武田…でもない。う~ん……はっ!そうだ!!)
「織田信長だ!」
蘭がそう叫んだ瞬間、目の前の黒ずくめが全員同じ動きをした。左に差していた剣を鋭い音を立てて引き抜いたのだ。そしてその切っ先をこちらに向ける。
相変わらず無言を貫いているのが、却って不気味だった。
(ちょっと!何してんのよ!?)
(わ、悪い……つい…)
蝶子が肘でつつきながら小声で抗議してくる。蘭も小声で謝った。
だけど蘭が思わず大声を上げたのも無理はない。何を隠そう、歴史上の人物の中で織田信長が一番好きなのである。
だがこの明らかに命の危険が迫っているという状況で喜んでもいられない。蘭は一度腕から蝶子を引き剥がすと、一歩前に出た。
「蘭!」
蝶子の止める声も無視して両手を耳の辺りまで上げて敵意がない事をアピールする。そしてゆっくりとした口調で話しかけた。
「あの、僕達はただ道に迷っていただけなんです。武器も何も持ってないんで、その物騒な物はしまいましょう。ね?」
そう言うと、一番前にいた人物が初めて口を開いた。
「しかし、先程は殿の名を申したではないか。さてはお前らは末森からの密偵か?見慣れない身なりだが……」
「え?末森?って何の事っすか?」
頭にハテナマークを浮かべて惚けた声を出す蘭を、その男はじっと見つめてくる。
戦国時代が好きと言っても大学ではまだ詳しい事は学んでいないし、得ている知識はマンガと随分昔のテレビドラマ。『末森』と言われてもわからなかった。
しばらく硬直したまま見つめ合っていたが、先に目を逸らしたのは向こうだった。刀をさっとしまうとひかえていた他の面々に合図を送る。それを受けて不満そうな顔をしながらも全員が刀を収めた。
ホッとして力が抜けて今更ながら足が震えてきた蘭を、すかさず蝶子が支えた。
「とにかくお前達をこのままにしておく訳にはいかない。城に連れて帰って殿にお見せしよう。生かすも死なすも信長様のご機嫌次第だ。」
不機嫌そうに吐き捨てると、その男はさっさと来た道を戻っていった。慌てて二人が後を追い、残った三人は蘭と蝶子を囲んだ。
「え?え?」
「さぁ、行きましょう。」
急な展開にキョロキョロしていると、蘭の隣に来た男がボソッと呟く。すると後ろから背中を押されて無理矢理歩かされた。
「蘭……」
「だ、大丈夫だよ。たぶん……」
泣きそうな蝶子を励ます蘭だったが、自分も相当不安だった。
何故なら蘭が知ってる織田信長という人物は、独裁者で鬼畜ですぐ怒って歯向かう者はただちに葬るっていうイメージだから。
何処の誰かもわからぬ怪しい二人組を無事に帰すだろうか?……いや、望みは薄いだろう。
でもその前に蘭達には帰る当てがないのだ。必死で頼んだら戻る都合がつくまで面倒見てくれるかも知れない。
(ええい!こうなったら死ぬ気でいってやる!)
ぎゅっと拳を握り、そう決意した蘭だった。
.
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?
三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい! ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。
イラスト/ノーコピーライトガール
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?
サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに――
※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる