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序章

タイムスリップ

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―――

「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。親父はぐっすり寝てるよ。一度寝たら朝まで起きないタイプなんだ。」
「あ、そう……」
 蘭と蝶子は抜き足、差し足、忍び足で研究所に入り込んだ。電気を点けたらバレるかも知れないと、一応懐中電灯を持参して。ちなみにこの時代の懐中電灯とは、宙に浮きながら明るい所と暗い所をセンサーで判別して点いたり消えたりするという物である。

「ここだ。入るぞ。」
「あ、待ってよ……」
 研究所の一番奥の部屋の前で蘭が立ち止まる。焦った蝶子がその背中に激突した。

「いったぁ~い!急に止まらないでよ!」
「何だよ、ぶつかってきたのはそっちだろ?」
「何ですって!?」
 いつもの言い争いが始まりそうになったその時、灯りが二人を照らし出した。それは電灯の灯りだった。


「誰だ!そこにいるのは!?」
「やべっ!親父だ!蝶子、入るぞ。」
「え?え?」
 蝶子は何が何だかわからないまま、蘭に腕を引っ張られて目の前の部屋の中に連れて行かれた。

「ちょっと蘭!」
「しっ!静かにしろ……!」
 蘭が真面目な顔で鋭い声を出したから、蝶子は大人しく口をつぐんだ。

 ゆっくりと足音が近づいてくる。二人は息を潜めて吉光が気づかずに通り過ぎるのを待った。やがて足音は聞こえなくなり、静寂が辺りを包む。二人のため息だけが響いた。


「はぁ~……ビックリした……」
「ビックリしたじゃないよ。おじさん起きてたじゃないの。」
「おっかしいな……ちゃんと寝てるの確認したんだけど。」
「虫の知らせでもあったんじゃない?今夜息子が忍び込みますよ~って。」
「こぇ~事言うなよ……」
 ありそうな事を言われて若干震えが走る。それを見て蝶子が笑った。


「それで?噂のタイムマシンはどこ?」
 蝶子がキョロキョロと辺りを見回す。懐中電灯はさっきの騒ぎで何処かに行ってしまったらしい。するとパッと電気が点いた。

「まぶしっ……あぁ~!何これ!?」
 蝶子の目が輝く。そこには今世紀最大の発明品、タイムマシンがその巨大な姿を曝していた。

「親父が開発したタイムマシンだ。これがもし本当に未来にも過去にも行けるとしたら、あの親父とんでもない物作ったんだと思わねぇ?」
「凄い、凄い!吉光おじさん、うちの父さんより天才だったんだね。ただのポンコっ……じゃなくて、今まで力を出してなかっただけなんだね、きっと。」
 言い直した辺りから地味に酷い事を言う蝶子であった……

「ねぇ、ねぇ!乗ってみようよ!」
「え?おい、蝶子!」
 蘭が止める間もなく、蝶子はタイムマシンに近づいた。

「さすがにまずいだろ……まだ完成形じゃないかも知れねぇし。」
「うーん……そっか。そうだよね。さすがにダメだよね。」
 蝶子の残念そうな顔を見た蘭は、逡巡したあとこう言った。

「まぁ、乗るだけならいいんじゃねぇか?すぐ降りればいいんだし。」
「え!いいの?」
 再びキラキラし出す瞳を間近で見てしまった蘭は、一瞬息を飲んだ。


 この夜空に浮かんだ星のごとく輝く瞳に見つめられるのに昔から弱かった。じっと見ていると吸い込まれそうですぐに目を逸らしてしまう。
 本当はもう少しだけ見ていたいのに、なんて思ってる事など悟られないようにそっと視線を別の方に移した。


「ほら、早く乗るぞ。」
 照れ隠しに少し大きい声を出すと、自ら先頭をきってタイムマシンに乗り込んだ。
 蝶子を運転席に座らせ、自分は助手席に乗る。そして物珍しげにあちこち眺めている幼馴染を横目で見た。


『どちらに出発なさりますか?』


「……ん?今、何か言った?」
 何処からともなく声がして蝶子が蘭に聞く。蘭は無言で首を横に振った。


『どちらに出発なさりますか?未来ですか?それとも過去ですか?』


「え?うそ…何もしてないのに声が……」
「おいおい!マジかよ!」
「蘭!見て!!」
 蝶子がハンドルを指差す。それは誰も触ってないのに動いていた。
「げっ……くそっ!あのポンコツ親父!!」


『ご希望がないようですので、取り敢えず560年くらい前の日本へタイムスリップします。』


「ちょっ……ちょっと待っ……!おわーーー!!」

「きゃあぁぁぁーーー!」


 今世紀最大の発明のはずのタイムマシンの誤作動により、二人は見知らぬ世界へとタイプスリップしてしまうのであった……



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