4 / 124
序章
タイムスリップ
しおりを挟む―――
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。親父はぐっすり寝てるよ。一度寝たら朝まで起きないタイプなんだ。」
「あ、そう……」
蘭と蝶子は抜き足、差し足、忍び足で研究所に入り込んだ。電気を点けたらバレるかも知れないと、一応懐中電灯を持参して。ちなみにこの時代の懐中電灯とは、宙に浮きながら明るい所と暗い所をセンサーで判別して点いたり消えたりするという物である。
「ここだ。入るぞ。」
「あ、待ってよ……」
研究所の一番奥の部屋の前で蘭が立ち止まる。焦った蝶子がその背中に激突した。
「いったぁ~い!急に止まらないでよ!」
「何だよ、ぶつかってきたのはそっちだろ?」
「何ですって!?」
いつもの言い争いが始まりそうになったその時、灯りが二人を照らし出した。それは電灯の灯りだった。
「誰だ!そこにいるのは!?」
「やべっ!親父だ!蝶子、入るぞ。」
「え?え?」
蝶子は何が何だかわからないまま、蘭に腕を引っ張られて目の前の部屋の中に連れて行かれた。
「ちょっと蘭!」
「しっ!静かにしろ……!」
蘭が真面目な顔で鋭い声を出したから、蝶子は大人しく口をつぐんだ。
ゆっくりと足音が近づいてくる。二人は息を潜めて吉光が気づかずに通り過ぎるのを待った。やがて足音は聞こえなくなり、静寂が辺りを包む。二人のため息だけが響いた。
「はぁ~……ビックリした……」
「ビックリしたじゃないよ。おじさん起きてたじゃないの。」
「おっかしいな……ちゃんと寝てるの確認したんだけど。」
「虫の知らせでもあったんじゃない?今夜息子が忍び込みますよ~って。」
「こぇ~事言うなよ……」
ありそうな事を言われて若干震えが走る。それを見て蝶子が笑った。
「それで?噂のタイムマシンはどこ?」
蝶子がキョロキョロと辺りを見回す。懐中電灯はさっきの騒ぎで何処かに行ってしまったらしい。するとパッと電気が点いた。
「まぶしっ……あぁ~!何これ!?」
蝶子の目が輝く。そこには今世紀最大の発明品、タイムマシンがその巨大な姿を曝していた。
「親父が開発したタイムマシンだ。これがもし本当に未来にも過去にも行けるとしたら、あの親父とんでもない物作ったんだと思わねぇ?」
「凄い、凄い!吉光おじさん、うちの父さんより天才だったんだね。ただのポンコっ……じゃなくて、今まで力を出してなかっただけなんだね、きっと。」
言い直した辺りから地味に酷い事を言う蝶子であった……
「ねぇ、ねぇ!乗ってみようよ!」
「え?おい、蝶子!」
蘭が止める間もなく、蝶子はタイムマシンに近づいた。
「さすがにまずいだろ……まだ完成形じゃないかも知れねぇし。」
「うーん……そっか。そうだよね。さすがにダメだよね。」
蝶子の残念そうな顔を見た蘭は、逡巡したあとこう言った。
「まぁ、乗るだけならいいんじゃねぇか?すぐ降りればいいんだし。」
「え!いいの?」
再びキラキラし出す瞳を間近で見てしまった蘭は、一瞬息を飲んだ。
この夜空に浮かんだ星のごとく輝く瞳に見つめられるのに昔から弱かった。じっと見ていると吸い込まれそうですぐに目を逸らしてしまう。
本当はもう少しだけ見ていたいのに、なんて思ってる事など悟られないようにそっと視線を別の方に移した。
「ほら、早く乗るぞ。」
照れ隠しに少し大きい声を出すと、自ら先頭をきってタイムマシンに乗り込んだ。
蝶子を運転席に座らせ、自分は助手席に乗る。そして物珍しげにあちこち眺めている幼馴染を横目で見た。
『どちらに出発なさりますか?』
「……ん?今、何か言った?」
何処からともなく声がして蝶子が蘭に聞く。蘭は無言で首を横に振った。
『どちらに出発なさりますか?未来ですか?それとも過去ですか?』
「え?うそ…何もしてないのに声が……」
「おいおい!マジかよ!」
「蘭!見て!!」
蝶子がハンドルを指差す。それは誰も触ってないのに動いていた。
「げっ……くそっ!あのポンコツ親父!!」
『ご希望がないようですので、取り敢えず560年くらい前の日本へタイムスリップします。』
「ちょっ……ちょっと待っ……!おわーーー!!」
「きゃあぁぁぁーーー!」
今世紀最大の発明のはずのタイムマシンの誤作動により、二人は見知らぬ世界へとタイプスリップしてしまうのであった……
.
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
婚約破棄?貴方程度がわたくしと結婚出来ると本気で思ったの?
三条桜子
恋愛
王都に久しぶりにやって来た。楽しみにしていた舞踏会で突如、婚約破棄を突きつけられた。腕に女性を抱いてる。ん?その子、誰?わたくしがいじめたですって?わたくしなら、そんな平民殺しちゃうわ。ふふふ。ねえ?本気で貴方程度がわたくしと結婚出来ると思っていたの?可笑しい! ◎短いお話。文字数も少なく読みやすいかと思います。全6話。
イラスト/ノーコピーライトガール
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私の物を奪っていく妹がダメになる話
七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。
立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる