君を守る為、俺は強くなる

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最終章

隠された本音

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―――

「お、俺はお前が……!」
「もういいから!」

 我慢し切れなくて溢れた涙を見た瞬間、俺はその体を抱きしめていた。


「……もういいから…」
「仲本……」

 おずおずといった感じで辻村の腕が俺の背中にまわる。

 強くてたくさんのものを抱えていると思っていた背中は思ったより小さくて、その小ささに何故だか涙が出てきた。


「好き……」

 か細い声がそう告げる。俺はそっと目を閉じた。


「俺も好きだよ、辻村……」
「ありがと……」


 ずっと焦がれていたこのぬくもり。どんなに手を伸ばしても届かないと思っていたこの存在。

 まるで離れていた二つのものが、ピッタリと隙間なく合わさったようなこの感覚。


『あぁ、やっと出逢えた』なんて、普段の自分じゃ絶対出てこないような言葉が自然に出てくる程、俺の心は澄みきっていた。


『愛してるよ、辻村……』

 まだ恥ずかしくて声には出せないけれど、いつか目を見て飛びっきり格好つけて言ってやるから……

 どうか待っていて下さい。



―――

 人は好きな人、大切な人を守る為に強くなろうとする。だけどその人を深く愛するが故にちょっとした事で不安になって焦ったり、涙を流したりしてしまうのも人間なんだと思う。

 ただ、泣いてるだけじゃ立ち止まってるだけじゃ、いつまで経っても前に進めないから、だから自然に強くなろうとするんじゃないだろうか。

 誰かを守りたい、その気持ちこそが勇気に変わるんじゃないだろうか。


 俺は弱い人間だけど、愛する人の為に強い自分でいたい。そして守り守られてずっとずっと一緒にいたい。


 君の為に強くなる。

 いつ、どんな時でも君の側にいたいから……



―――

「なぁ~?」
「何?」
「キス、したいんだけど。いい?」
「ぶっ!!」
「きったねぇなぁ、おい……」

「は?あ、え……お…?」
「んな動揺すんなよ。初めてじゃあるまいし。」

 俺は苦笑しながら、ソファーからずり落ちた辻村に手を貸した。


 ここは俺の部屋。あの後二人で移動してきたのだ。ついさっきまでソファーに並んで座っていたが、不意に見た辻村の横顔が何だか綺麗に見えて、『キスしたい』という欲求が胸の奥から沸き上がってきた。そしてそれがそのまま口に出てしまったようだ。

 それにしても、こんなに自分の心に正直だとは思わなかった。俺は密かに苦笑した。


「サンキュー……まぁ初めてじゃねぇけど、お前ムードってもんが…あると……思いますけど……」
「は?何?聞こえねぇ。」
「くそっ!こいつ絶対確信犯だ……!」

 何やらぶつぶつ言ってたかと思いきや、急にこっちを向いた辻村に俺は首を傾げた。


「どうした、辻村?……んっ!」
「………」
「え、今何が起こった……?」
「へへん!バーカ」

 素早く離れていった辻村を見ると、昔のような悪戯げな顔をして舌を出していた。キスをされたと気付いた次の瞬間、俺は辻村をソファーに押し倒した。


「なっ!なか……」

 無理矢理唇を奪う。そしてゆっくりと離れた。


「仕返しだ。」

 ニヤッと笑って辻村の顔を見る。『STAR』のエースで男前の辻村が、男にキスされて顔を真っ赤にして息を荒げている。そしてその印象的な薄茶色の瞳が、男を誘っていた。


「巧海……いい?」
「……いいよ………」

 柔らかい髪を撫でながら囁きかける。小さい声で答えた後、辻村はゆっくり目を閉じた。


「愛してるよ、亘……」
「……俺もだよ……」

 ふっと微笑むと頭の上からも笑う気配がする。俺はただ深い深い誘惑の中に沈んでいった。



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