1 / 16
第一章
揺らぎ始めた居場所
しおりを挟む―――
俺、仲本亘は最近考えている事がある。俺にとって『STAR』という存在について。……いや、辻村巧海という存在が俺にとってどういうものであるかを……
『STAR』というのは俺が所属するバンドの事だ。俺は一応ボーカルを任せられていて、他に四人のメンバーがいる。そして辻村はギター担当で俺の幼馴染だ。
バンドを結成したのは今から十年前で四年間のインディーズ活動を経て、六年前にデビューを果たした。有り難い事にデビュー曲を始めとして今まで出したほとんどの曲がそれなりに売れて、大晦日の国民的歌番組に五年連続で出場。端から見れば順風満帆な日々を送っていると思われているだろうが、俺の心は灰色だ。
俺と辻村、そして他の三人のメンバーは出会ってからもう二十年は経つ。共に色んな事を感じ、色んな事を見て、聞いて、様々な感情や気持ちを共有してきた。
俺にとって『STAR』の存在は心底安心できるとても大切なものであり、自分の心の居場所だった。
しかし、最近その居場所が壊れ始めている。心安らぐ場所だったはずがいつからか心が落ち着かない場所になってしまった。
ずっと変わらないものだと思っていた。俺にとっての大切な場所。
いつからだったのだろう……?俺の気持ちが揺らぎ始めたのは……
―――
一番最初に異変を感じたのは、辻村に彼女が出来たというのを聞かされた時だった。俺が一人で控え室にいたところに息急き切って飛び込んできたマネージャーから、辻村に彼女がいてそれが一部のマスコミに漏れた、という話を聞いた時。冗談じゃなく目が飛び出しそうになった。
椅子を蹴る勢いで立ち上がってマネージャーに詰め寄った。
「どういう事だよ!」
「だから辻村さんに彼女がっ……」
「んな事わかってんだよ!あいつに彼女がいるなんて初めて聞いたぞ。しかもそれがマスコミに漏れた?ふざけんじゃねぇ!」
思わず掴みかかる。マネージャーは後ずさりながら、滅多に怒らない俺に驚いているようだった。
「……全員集めろ。」
「は……?」
「メンバー全員集めろっつってんだよ!」
「は、はい!」
マネージャーは飛び上がるように背筋を伸ばすとそのまま出ていった。
「……はぁ~……」
一人になった部屋で溜め息をつく。ついさっきまで座っていた椅子に逆戻りすると、頭を抱えた。
「くそっ……!」
何に対して怒っているのか、その時の俺は何もわかっていなかった。
そう、これから俺達がどうなっていくのか。俺には何もわからなかった……
.
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
ハッピーエンド
藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。
レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。
ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。
それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。
※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
記憶の欠片
藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。
過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。
輪廻転生。オメガバース。
フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。
kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。
残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。
フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。
表紙は 紅さん@xdkzw48
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる