高校生

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第二章 告白は唐突にやってくる

第九話 急展開

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―――

一夜明けて……


「ホントに感謝だわ~!千尋。あなたにこんなに感謝したのは初めて!」
「桜……嬉しいけどその台詞何度目?」
「今から夏休みが楽しみ~♪」
「はぁ~……」
夏休みの補習の話、こんなに喜ぶとは思ってなかった。どんだけ藤堂先生の事好きなのよ……

「でも自分が補習受ける身になったら意味ないんだよね。テスト勉強頑張らないと!」
私が言うと、桜も同意した。

「確かに!手伝いどころじゃないね。まぁでも私は余裕だけどね。」
「くっ……!」
余裕綽々な笑顔に軽い殺意を覚える。それでも机に突っ伏しながら恥を偲んで頼んだ。

「桜……一生のお願い。」
「なぁーに?」
「勉強教えて~~~!」
「ガッテン承知!」
頬が緩みっぱなしの桜と、必死な顔の私。期末テストまでのこの数日は史上最悪の日々になりそうである……



―――

昼休み、私は職員室に来ていた。補習の手伝いに桜が参加する事を高崎先生に伝える為にだ。

「高崎先生~」
「あ、風見さん。どうしたんですか?」
入口のドアの所で呼ぶと廊下まで出てきてくれる。私はニコニコしながら言った。

「夏休みの補習の手伝い、桜も来れるそうです。」
「そうですか!一人でも人手が欲しかったので助かります。大神さんにもお礼を言わなきゃですね。」
嬉しそうに微笑む先生を見て私も嬉しくなる。

「でも自分が赤点取ったら仕事どころじゃないですよね…。勉強頑張らなきゃ!」
「風見さんは心配しなくても大丈夫だと思いますよ。赤点取った事なんてないじゃないですか。」
「いや~…二年になって英語とか難しくなってて。中間テストもギリギリだったんでちょっと心配……」
「大丈夫ですよ。風見さんは頑張り屋さんだから。」
「せん……」
「おう!千尋!」
「え?」
誰かが後ろから肩をポンッと叩く。男子の声だ。誰だろう?男子で私を呼び捨てにする奴は……

「あ!雄太君。」
「よう。」
「どうしたの?あ、職員室に用事?それとも高崎先生に?」
「いや、お前にちょっと話があって。」
「私?」
「先生。ちょっと千尋借りるよ。」
「あ…はい……」
「え?ちょっと…引っ張らないでよ。」
雄太君は私の手を取り、半ば無理矢理連れていく。途中で先生の事を思い出して後ろを見たけど、もう既に職員室に入ったようで姿はなかった。


「ちょっと!何の用なの?無理矢理引っ張ってきて。先生に失礼じゃない。あんな態度……」
「俺はただ…先生と仲良くしているお前を見ていたくなかったから……」
「え…それって……」
「…そういう事。俺お前の事が好きなんだ。」
「………」
「さっきはつい名前で呼んじまったけど……千尋ってずっと呼んでみたかった。……付き合ってくれないか?」
「ご…ごめんなさい!」
私は勢いよく頭を下げて逃げた。

雄太君がまさか私の事を好きだなんて……思いもしなかった。雄太君とは冗談言い合ってたけどあの顔は本気だ。
でも彼とは喧嘩仲間というか気の合う友達って感じで。
そりゃ、ああ見えて優しい所あるし、運動神経もあって気さくで一緒にいて楽だけど……
少しだけ、ほんの少しだけ、雄太君に対してそういう気持ちになった事はあったけど……

今は違う。どういう訳で違うのかまだよくわからないけど、雄太君から告白された時頭に浮かんだのは……
どこまでも優しい、どこまでも柔らかい空気で私を包んでくれる――

先生の顔だった……



―――

雄太君に告白されてすぐ教室に戻った私は、桜にその事を報告した。

「桜、どうしよ……」
「どうしたの?息切らして。」
「雄太君に……」
「雄太君って、一組の?確か一年の時同じクラスだったよね?」
「うん…その雄太君に告白された……」
「え"え"!?」
「どうしよ……」
桜は『う~ん……』と唸ると私の方を向いた。

「告白された時、どう思った?」
「へ?ど、どうって……」
「嫌だった?」
「い、嫌じゃなかったよ。雄太君とは同じクラスだった時仲良かったし。話も合うしノリも合うし一緒にいて楽しかったけど…」
「けど?」
「好きって言われた時、何か違うなって思った。私なんかの事好きになってくれて純粋に嬉しいのに、それだけっていうか……」
「心がときめかないって事?」
「そ、そう!そんな感じ。」
「成る程ねぇ~……」
頬杖をついて何かを考えてる様子。私は桜が何かいいアドバイスをくれるのではと待っていた。

「千尋。」
「は、はい!」
「その時、誰の事を思い浮かべた?」
「ふぇっ!」
あまりの事に変な声が出た。笑って誤魔化そうとするが、桜の目は恐いくらい真剣だった。

「……高崎先生。」
「そう……」
絞り出すように白状すると、桜は組んでいた腕をほどいて満面の笑顔でこう言った。

「そうとわかったら千尋。今日から猛勉強だよ!」



―――

それからの日々は本当に地獄のようだった。
お陰様で世界史と地学は楽勝だったけど、英語と数学が絶望的にヤバくて、鬼の形相…いや般若に変化した我が親友に拷問に近いくらいの指導を受け続けた。

夜は悪夢で魘され、昼間は鞭でいたぶられる(嘘)事二週間……
ついに本番を迎えて、私は今の自分の精一杯を答案用紙にぶつけた。

そして結果は……


「……い、い…」
「千尋?どうだった?」
「いやったぁ~!!」
「きゃぁぁ!」
返ってきたテスト用紙を思いっ切り鷲づかみにすると、桜に抱きついた。
痴漢にあったみたいな声を上げてるけど気にしない。

「ありがとう、桜~!この恩は一生忘れないから!!」
「わかった!わかったから離して…苦しい……」
心底苦しそうな声を出す桜を慌てて離すと、息を整えながら軽く睨まれた。

「ごめんって……」
「まったく、もう……」
呆れた声を出しながらも嬉しそうに笑っている。自分が教えた手前、桜も密かに心配だったのだろう。本当に感謝、感謝だ。

「これで借りは返したわよ、千尋。」
「借り?何の事?」
「ほら、夏休みの補習の手伝い行けるのは千尋のお陰じゃない。千尋が委員長だったからどさくさに紛れて私も参加できるんだから。」
「そういう事か。じゃあそのお返しに私に勉強教えてたの?」
「まぁね。でも千尋がようやく自分の気持ちに素直になり始めたっていうのもあるかね。」
「え?」
「高崎先生の事。こんなに必死に頑張ったって事は、先生にもっと近づきたいって事でしょ?」
悪戯っぽい顔で言われて、顔が真っ赤になる。

確かに、こんなに頑張ったのはテストで赤点を取りたくなかったから。
その動機は、夏休みの補習を受ける訳にはいかなかったから。
何故なら私には先生のお手伝いという役目があるから。

そしてできれば一緒にいたいから……

「せっかくのその想い、無駄にしちゃダメだよ。千尋。」
「桜……」
「よーし!今年の夏休みは二人で頑張ろう!エイエイオー!!」
「オー……」
桜の勢いに若干気圧されながらも、右拳を振り上げたのだった……


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