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〈第3章 秋、変わる色〉

第28話

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 そして、文化祭当日。

 文芸部の部室はそれなりに人が入って人気があった。というのも、金住先輩の存在は割と大きく、彼女が書いたものが収録された文芸冊子は特に人気であり、冊子は割とすぐに無くなってしまった。

 僕は、金住先輩に言われて急遽文芸冊子を二十冊程印刷して持って行っていた。

「でも、これで足りるのかな……」

 金住先輩はそんなに多くは印刷できないからこの位で大丈夫とは言っていたものの、瞬殺で消える未来が見える……。

「おっ、カオルやっと来たね」
「はい、頼まれたもの持ってきましたよ」
 
 廊下で金住先輩と出会った僕は、手元に持っていた冊子二十冊分を金住先輩に渡す。

「OK、それじゃあすぐに元の位置に置いておくから」

 そう言うと、金住先輩はすぐに文芸部の部室へと入っていった。改めて思うが、このぐらいの部数で大丈夫なのだろうか。

 けれど、ここで僕がそんなことを気にしても金住先輩がこうして欲しいって言った以上は深くは突っ込めないし、そもそもたくさんの部数を刷ってしまったら結構な料金がかかる。

 ここは、金住先輩に任せておいておこう。



 その後、金住先輩から「好きに回っていい」と言われた事により、僕は校内を歩き回る事にした。

 まずは最初に僕の教室で行っている催しを見に行った。クラスが企画して実行された各種ミニゲーム群はどれも人がたくさん来る程好調で、皆喜んでいる様子だった。……所謂嬉しい悲鳴というやつだ。

「本当、皆で頑張ってやったかいがあったよ!」

 そう、いずみは嬉しそうに話していた。

「僕は部活の準備で忙しくて中々手伝いに参加できなかったのが申し訳ないよ……」
「もー! 学校側から部活で催しがある人はそちら優先って言っているようなもんだからいいじゃん! 後半の方はカオルも手伝い積極的に参加できる時間があったんだし」

 文化祭の準備も後半になっていくと5限、6限は授業から文化祭の準備をする時間へと変わっていくので、確かにいずみの言う通りではある。

「まあ、そうなんだけどさ」
「それでいいじゃん! あと、演劇部の劇の開始時間までどうするの?」

 いずみがそう聞き出してきた。確かに、演劇部の劇開始時間まで空いてしまっている。ちなみに、開始時間は午後2時頃であり、今は午前10時半だ。

「う~ん……午前中はスタッフの手伝いした方がいいかな?」
「それがいいんじゃない? 午後までやると忘れちゃうからね!」

 こうしてあっさりと話がまとまって僕はスタッフ手伝いをすることになった。決して楽な仕事ではないけれど、それでも結構やりごたえのある仕事だったと思う。


 そして、手伝いを終えた僕は昼食を挟んだ後に劇が開催される体育館へと向かっていた。体育館には大きなステージがあるため、そこで舞台や劇などをやるのが最適解であるのはわかる。

 それにしても、

「本当にたくさんの人が来ているなあ」

 本当に人が多い。廊下を歩いているだけでも小さい子どもや大人の人が横を通り過ぎていく。生徒はそういった人たちに対して案内をしたり、声掛けを行っている。

 文化祭というのはそういうものだとはわかっているが、いつもと違う光景をいつもの場所で眺めるとなんだかとても不思議な気持ちになってくるのが本音だった。心が躍ってくるというか、そんな感じの気持ちの昂ぶり方をしている。

 ……そんな道中を経て、僕は体育館に着いた。そのままほとんどがガラスで出来た扉を開けて中に入る。

「おー、神代。来てくれたか」
「はい、行村先輩」

 入るとすぐ近くの場所で立っていた行村先輩が小声で声を掛けてきてくれた。今はステージで演劇部ではない所が何かしらの舞台をしているようだった。

「もうすぐ、ですね」
「おう。努力の成果がここで発揮されるというんだ。緊張してくるよ」

 そんな軽口を行村先輩は言っているが、とても真剣な目をしている様に思えた。

 そして、僕は空いている席を見つけて行村先輩に隣座りますか、と聞く。行村先輩は問題なし、と答えたために僕は二つ分空いている席に座る。隣にはもちろん行村先輩が座る。

 こうすれば、問題なく話の続きができるだろう。

「それにしても、準備があっという間だったって思います」
「お? そうか?」

 行村先輩は意外そうな顔で答える。

「……なんていうか、本当に目の前にある開催までの壁を必死に越えようって思って無我夢中でやっていたという様な感覚で、あっという間だったなって」
「ああ……なるほどな。そういう経験、ありそうだ」

 納得したような感じで行村先輩は話す。

 本当に、文化祭の準備はあっという間に終わってしまったなって僕は思う。あれだけ色々あった筈なのに、気が付けばもう文化祭は始まっている。

 とてもあっという間だったな、って僕は思ったのだ。

「神代はこの半年間、すげえ頑張ってたと思うぞ?」
「そう、ですか?」
「ああ――あいつ……金住がきっかけでそうなれたんだとも俺は思う」

 それは――確かに、そうかもしれない。

「おっと。変われたのはお前の意志だと思うからな。金住はきっかけだ、きっかけ」
「はは、それはわかってます」

 僕は後付けで自分の発言に補足する行村先輩の言った事を聞きながら、そう思った。

 ――そうか、金住先輩がきっかけか。

 確かに、そうだ。

 金住先輩がすべてのきっかけだったんだ。あの日、金住先輩があんな感じで、

『君、文芸部に興味ある?』

 声を掛けてきたことから始まったんだ、と。

「お、そろそろ始まるぞ」

 行村先輩はスマートフォンを見てそう言った。どうやらもうすぐ14時表記になるそうだ。

「そう、なんですね」
「まあ、お前も頑張ってくれたからな。見届けようぜ、俺たちの話がどう広まっていくかをさ」

 そうだ、きっと僕は見つけられたかもしれない。

 ――『物語の意味』を知るための課題。

 自分なりの答えが見つかったかもしれない。

 そして、同時に始まる――僕が、頑張って手伝ったあの脚本。それを演劇部の人たちが演じる。それぞれの役割を、演じてくれる。

 とても、楽しみだと思った。




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