1 / 33
〈第1章 春、彼女と出会う〉
第1話
しおりを挟む
1
「君、文芸部に興味ない?」
不意に、声を掛けられた。それは、とてもはっきりとした少し高めの声で。
それを聞いて立ち止まった僕はすぐ、声を掛けてきた彼女にこう返したのだ。
「えっと……もしかして、僕?」
そこにあったのは、文芸部のブース。そして、そのブースの中に置かれたパイプ椅子には多分僕に声を掛けた女性が腰かけていた。
「うん。そうだよ? 君の付けている校章は今年の新入生が付けるものだから、声を掛けてみた」
なんだか、不思議な感じの女性だった。彼女の制服に付いてある校章は自分のものと色が違う。確か先生が挨拶の際に校章の色は学年によって色が違うという話をしていた。
つまり、彼女の年齢は多分僕より一つ上以上……つまり先輩だという事だ。彼女が言った事を考えると部活勧誘だろう。
何せ、今は部活歓迎会イベントを校舎の中で開催しているのだからそれしかない。
「……えっと、あなたは……先輩は文芸部で合ってます?」
「ん、そう。ちなみに三年生の人はいないから、私が部長」
へ、へえ、と相槌を返す。何だろうこの人は。常人とは何か雰囲気が違う。
更に、改めて彼女の顔を見るとはっきりとわかる事がある。美人だ。どちらかというと可愛い系というより、冷静な大人系だ。体つきもその顔立ちに似合う細身、体の凹凸は弱い方で長髪。
そのような容姿が余計に常人と雰囲気が違うと僕が感じる要因となった。
「えっと、文芸部ってあれですよね? 小説とか、そういうの」
「ええ。君のイメージ通りかもしれないけれど、とりあえず説明するとこのようなものになる」
すると、彼女はブースの机にあったパンフレットの様なモノを渡してくる。ちょっと押し付けがましい動作だったのは気のせいだと思う。
「これは……?」
「見た通り、文芸部の説明用パンフレット」
「ですよね……」
要は、これを開いてみたらどういうここの文芸部はどういった部活内容かわかる、という事だ。なんだろう、口で説明するのではないのか……と困惑する気持ちがある。
とりあえず、そんな事でくよくよしても話が進まないのでとりあえず渡されたパンフレットを開く。そこに書かれていたのは大まかに分けるとこんな内容だった。
一,毎月配る文芸冊子の作成
二,小説の内容やテーマに関する議論
三,自分達で小説や論文を書いて品評会に近い催しを行う
ざっと分ければ、この様なものらしい。
「あの、文芸冊子にはどんなものを掲載するんですか?」
「そりゃあもちろん、部員の書いた小説や面白い考えを書いた論文の様なものだよ」
三つめの催しというものを考えたら、まあ文芸冊子に使うためにする事なんだろうとは思った。
「とりあえず、君にはパンフレットを渡したからこれ以降は君の判断だ。イエスかノーか。どちらかはっきり言うまで時々様子見に行くから、新入生君」
「それ、ストーカーじゃないですか」
……この先輩、ちょっと変だ。というか、
「そういえば、お互い名前知らないんじゃないんですか?」
「……そういえば、名前言ってなかった。それじゃあ君から」
さらりと、僕から言う様促されている。
「ちょっと、それ何でですか」
「君から名前の事を話したなら、まず君から名乗った方が良いと思ってね」
「う……」
思わず唸りを上げたのはこの先輩の言ってる事に同意をしてしまったからだ。いつも、こういう時は大体名前の事を話した相手から名乗る事が相場なのだから。
この流れだったら、自分から名乗るしかないと諦めて自分の名前を言った。
「僕は、神代薫《こうしろかおる》って言います」
「へえ……カオルくんって言うのね。ちょっと可愛い名前ね」
「……先輩の感想はいいです。というか、先輩も名乗ってください」
そうだった、とうっかりしていたと目を僅かに見開かせる。……この先輩、ちょっと変わっているな。
「私は金住《かなずみ》やすみって言うわ。宜しくね、カオルくん」
「は、はあ……」
手を差し伸べられた。これは、つまり握手しようっていう事なのか……?
「……握手は?」
「……本当に、そうなら言ってくれないとわかりませんよ」
これはすまない、と笑いながら金住先輩は謝った。……僕は彼女の独特な言葉遣いや行動にやや困惑していたが、とりあえず先輩の差し伸べられた手を軽く握って握手をする。
先輩の手はとても綺麗で僕の手より、小さかった。その肌触りも女性のものなのだとはっきりわかるくらい柔らかかった。ただ、彼女の手は少し冷たかった。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
喧噪の中、金住先輩は僕の手から自分の手を離した。その動きが何だか目を離せない。
「君みたいな人、中々見つけられないからね」
離し際に、彼女はそんなことを呟いていた。僕はその時、彼女が何故そんな事を言ったのかを知るのは後々の事だ――
「君、文芸部に興味ない?」
不意に、声を掛けられた。それは、とてもはっきりとした少し高めの声で。
それを聞いて立ち止まった僕はすぐ、声を掛けてきた彼女にこう返したのだ。
「えっと……もしかして、僕?」
そこにあったのは、文芸部のブース。そして、そのブースの中に置かれたパイプ椅子には多分僕に声を掛けた女性が腰かけていた。
「うん。そうだよ? 君の付けている校章は今年の新入生が付けるものだから、声を掛けてみた」
なんだか、不思議な感じの女性だった。彼女の制服に付いてある校章は自分のものと色が違う。確か先生が挨拶の際に校章の色は学年によって色が違うという話をしていた。
つまり、彼女の年齢は多分僕より一つ上以上……つまり先輩だという事だ。彼女が言った事を考えると部活勧誘だろう。
何せ、今は部活歓迎会イベントを校舎の中で開催しているのだからそれしかない。
「……えっと、あなたは……先輩は文芸部で合ってます?」
「ん、そう。ちなみに三年生の人はいないから、私が部長」
へ、へえ、と相槌を返す。何だろうこの人は。常人とは何か雰囲気が違う。
更に、改めて彼女の顔を見るとはっきりとわかる事がある。美人だ。どちらかというと可愛い系というより、冷静な大人系だ。体つきもその顔立ちに似合う細身、体の凹凸は弱い方で長髪。
そのような容姿が余計に常人と雰囲気が違うと僕が感じる要因となった。
「えっと、文芸部ってあれですよね? 小説とか、そういうの」
「ええ。君のイメージ通りかもしれないけれど、とりあえず説明するとこのようなものになる」
すると、彼女はブースの机にあったパンフレットの様なモノを渡してくる。ちょっと押し付けがましい動作だったのは気のせいだと思う。
「これは……?」
「見た通り、文芸部の説明用パンフレット」
「ですよね……」
要は、これを開いてみたらどういうここの文芸部はどういった部活内容かわかる、という事だ。なんだろう、口で説明するのではないのか……と困惑する気持ちがある。
とりあえず、そんな事でくよくよしても話が進まないのでとりあえず渡されたパンフレットを開く。そこに書かれていたのは大まかに分けるとこんな内容だった。
一,毎月配る文芸冊子の作成
二,小説の内容やテーマに関する議論
三,自分達で小説や論文を書いて品評会に近い催しを行う
ざっと分ければ、この様なものらしい。
「あの、文芸冊子にはどんなものを掲載するんですか?」
「そりゃあもちろん、部員の書いた小説や面白い考えを書いた論文の様なものだよ」
三つめの催しというものを考えたら、まあ文芸冊子に使うためにする事なんだろうとは思った。
「とりあえず、君にはパンフレットを渡したからこれ以降は君の判断だ。イエスかノーか。どちらかはっきり言うまで時々様子見に行くから、新入生君」
「それ、ストーカーじゃないですか」
……この先輩、ちょっと変だ。というか、
「そういえば、お互い名前知らないんじゃないんですか?」
「……そういえば、名前言ってなかった。それじゃあ君から」
さらりと、僕から言う様促されている。
「ちょっと、それ何でですか」
「君から名前の事を話したなら、まず君から名乗った方が良いと思ってね」
「う……」
思わず唸りを上げたのはこの先輩の言ってる事に同意をしてしまったからだ。いつも、こういう時は大体名前の事を話した相手から名乗る事が相場なのだから。
この流れだったら、自分から名乗るしかないと諦めて自分の名前を言った。
「僕は、神代薫《こうしろかおる》って言います」
「へえ……カオルくんって言うのね。ちょっと可愛い名前ね」
「……先輩の感想はいいです。というか、先輩も名乗ってください」
そうだった、とうっかりしていたと目を僅かに見開かせる。……この先輩、ちょっと変わっているな。
「私は金住《かなずみ》やすみって言うわ。宜しくね、カオルくん」
「は、はあ……」
手を差し伸べられた。これは、つまり握手しようっていう事なのか……?
「……握手は?」
「……本当に、そうなら言ってくれないとわかりませんよ」
これはすまない、と笑いながら金住先輩は謝った。……僕は彼女の独特な言葉遣いや行動にやや困惑していたが、とりあえず先輩の差し伸べられた手を軽く握って握手をする。
先輩の手はとても綺麗で僕の手より、小さかった。その肌触りも女性のものなのだとはっきりわかるくらい柔らかかった。ただ、彼女の手は少し冷たかった。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
喧噪の中、金住先輩は僕の手から自分の手を離した。その動きが何だか目を離せない。
「君みたいな人、中々見つけられないからね」
離し際に、彼女はそんなことを呟いていた。僕はその時、彼女が何故そんな事を言ったのかを知るのは後々の事だ――
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる