13 / 38
第13話
しおりを挟む
*
「ブランコ、楽しい?」
呼びかけられる。少し高くて、穏やかで安らかな声だった。声のした方へ振り向くと、そこには女性がいた。自分より、ずっと大人だというのはわかった。
「うん」
知らない人だけど、そう呼びかけられて素直に頷くと、その女性は微笑んで。
「そうなんだ、良かった」
そう言った。
「お姉さんは、ブランコ好き?」
そう、聞いてみるとその女性は少し笑顔を見せると。
「好きだよ。小さい子がいっぱいブランコに乗る姿を見ていると、元気になれるから」
こう答えた。
「そうなんだ。じゃあボクのブランコにのってるすがたをみてもげんきになれる?」
自分はそれに対して、ワクワクとして答える。どうしてだろう。知らない人なのに、なんだか聞いてみたくて仕方ない。そんな好奇心が勝っていた。
「そうだね、君が楽しそうにブランコで遊んでいる姿を見てると、本当に元気になれるかも」
そうして、記憶の中の女性は微笑んでいた。
*
その次の瞬間、和也の見える景色はいつも起きる時に見る天井に変わった。
「……は、はは……」
あまりにもズキリと胸が重い。また、記憶が更新された。
あの時の続きを見た和也は、乾いた笑い声を出す事しかできなかった。もしかしたら昨日の話が引き金となって久々に見たのかもしれない、と思った。
「私のお姉ちゃん――十年前に亡くなったんだ、病気で」
凛から明かされたその事に、和也はどう答えればいいのかがわからなかった。凛には、姉がいた。けれど、その姉は十年前に病気で――
「あ……その……」
「えへへっ……いいの。結構前の話だし、別に気になる事があったら聞いてもらってもいいから」
彼女は、そうは言うものの和也から見ればどう接すればいいのかが困る話だった。その話をする上で、そんな質問みたいな事をするのはとてもはばかられた。
「いや……大丈夫。気にしないで良いよ」
後から考えたら、急過ぎる話で気が動転している和也を見て凛がフォローに回ろうとああいう事を言ってくれたのかとも思う。大分、強引気味な感じはするけれど。
あの後は、いくつか話をした後に解散という形になった。その中で凛はこんな事を言っていた。
「もうすぐ十月になるから、そろそろ本格的に方針を定めないと間に合わないと思うから皆が空いている日にどういう作品を作るか話し合う事になったの」
そうだ。
文化祭も、もうすぐだ。
「龍、今回は結構良いんじゃないか?」
「マジ?! どれくらい、どれくらい!?」
和也が褒めたのに反応して、龍は真っ先に食らいつく。顔が大分近いのが困る所だ。
「えーと……これなら赤点回避は間違いないってくらい」
「やった! じゃあこのまま……」
「まあ、油断した結果赤点回避できなかったら駄目だから続行だけどな」
だよな~、と少し龍は項垂れる。けれど、友人の話も加味するとここ最近の龍は勉強を相当頑張っている様子で実際、今日のやった問題を見て見るとちょっと前とは比較にならない……少し言い過ぎではあるが、それでも成績は改善傾向にあったのは間違いなかった。
和也としてはここまで付き合った以上、赤点回避のチャンスを逃したくはない。
だから、今日はいつも以上に龍の成績改善のための勉強会に気合が入っていた。
「それじゃあ次の問題も解いてくから」
「えぇ?! 立て続けにそんな解けねえよ!」
「泣き言は終わってからにしてくれ、じゃあ次……」
とにかく、密度を強くして早めに終わらせる。そんな調子で続けて今日は予定より少し多くの学習を龍に教え込む事が出来たと思う。
図書室を出て行く龍を見送った後、和也は次の勉強会の予習をしてから自分も図書室を出て行った。
今日は家庭科室に行く予定はないし時間的にも、もう部活動は終わりの方であるから行ってもしょうがないが……和也はなんとなく、家庭科室の前を通ってみようと考えた。
そして、家庭科室前が近づいてきた時廊下に人影がある事に気づく。
「はあ……」
その人、はため息をついて窓の外を眺めている様子だった。肘を付けて。
和也はそのまま歩いて、その人物のすぐ近くに来てそれが誰なのかに気づく。
「伊豆野さん……?」
「……あ、高野くん」
凛は和也に気づくとこちら側に振り向いて、笑顔を見せてはいるのだが……その顔は少し疲れがあったように見えた。
「ブランコ、楽しい?」
呼びかけられる。少し高くて、穏やかで安らかな声だった。声のした方へ振り向くと、そこには女性がいた。自分より、ずっと大人だというのはわかった。
「うん」
知らない人だけど、そう呼びかけられて素直に頷くと、その女性は微笑んで。
「そうなんだ、良かった」
そう言った。
「お姉さんは、ブランコ好き?」
そう、聞いてみるとその女性は少し笑顔を見せると。
「好きだよ。小さい子がいっぱいブランコに乗る姿を見ていると、元気になれるから」
こう答えた。
「そうなんだ。じゃあボクのブランコにのってるすがたをみてもげんきになれる?」
自分はそれに対して、ワクワクとして答える。どうしてだろう。知らない人なのに、なんだか聞いてみたくて仕方ない。そんな好奇心が勝っていた。
「そうだね、君が楽しそうにブランコで遊んでいる姿を見てると、本当に元気になれるかも」
そうして、記憶の中の女性は微笑んでいた。
*
その次の瞬間、和也の見える景色はいつも起きる時に見る天井に変わった。
「……は、はは……」
あまりにもズキリと胸が重い。また、記憶が更新された。
あの時の続きを見た和也は、乾いた笑い声を出す事しかできなかった。もしかしたら昨日の話が引き金となって久々に見たのかもしれない、と思った。
「私のお姉ちゃん――十年前に亡くなったんだ、病気で」
凛から明かされたその事に、和也はどう答えればいいのかがわからなかった。凛には、姉がいた。けれど、その姉は十年前に病気で――
「あ……その……」
「えへへっ……いいの。結構前の話だし、別に気になる事があったら聞いてもらってもいいから」
彼女は、そうは言うものの和也から見ればどう接すればいいのかが困る話だった。その話をする上で、そんな質問みたいな事をするのはとてもはばかられた。
「いや……大丈夫。気にしないで良いよ」
後から考えたら、急過ぎる話で気が動転している和也を見て凛がフォローに回ろうとああいう事を言ってくれたのかとも思う。大分、強引気味な感じはするけれど。
あの後は、いくつか話をした後に解散という形になった。その中で凛はこんな事を言っていた。
「もうすぐ十月になるから、そろそろ本格的に方針を定めないと間に合わないと思うから皆が空いている日にどういう作品を作るか話し合う事になったの」
そうだ。
文化祭も、もうすぐだ。
「龍、今回は結構良いんじゃないか?」
「マジ?! どれくらい、どれくらい!?」
和也が褒めたのに反応して、龍は真っ先に食らいつく。顔が大分近いのが困る所だ。
「えーと……これなら赤点回避は間違いないってくらい」
「やった! じゃあこのまま……」
「まあ、油断した結果赤点回避できなかったら駄目だから続行だけどな」
だよな~、と少し龍は項垂れる。けれど、友人の話も加味するとここ最近の龍は勉強を相当頑張っている様子で実際、今日のやった問題を見て見るとちょっと前とは比較にならない……少し言い過ぎではあるが、それでも成績は改善傾向にあったのは間違いなかった。
和也としてはここまで付き合った以上、赤点回避のチャンスを逃したくはない。
だから、今日はいつも以上に龍の成績改善のための勉強会に気合が入っていた。
「それじゃあ次の問題も解いてくから」
「えぇ?! 立て続けにそんな解けねえよ!」
「泣き言は終わってからにしてくれ、じゃあ次……」
とにかく、密度を強くして早めに終わらせる。そんな調子で続けて今日は予定より少し多くの学習を龍に教え込む事が出来たと思う。
図書室を出て行く龍を見送った後、和也は次の勉強会の予習をしてから自分も図書室を出て行った。
今日は家庭科室に行く予定はないし時間的にも、もう部活動は終わりの方であるから行ってもしょうがないが……和也はなんとなく、家庭科室の前を通ってみようと考えた。
そして、家庭科室前が近づいてきた時廊下に人影がある事に気づく。
「はあ……」
その人、はため息をついて窓の外を眺めている様子だった。肘を付けて。
和也はそのまま歩いて、その人物のすぐ近くに来てそれが誰なのかに気づく。
「伊豆野さん……?」
「……あ、高野くん」
凛は和也に気づくとこちら側に振り向いて、笑顔を見せてはいるのだが……その顔は少し疲れがあったように見えた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そらに光る星~誇り高きぼっちの青春譚~
もやしのひげ根
青春
【完結まで毎日投稿!】
高校2年生の神谷は『ぼっち』である。それは本人が1人が好きだからであり、周囲もそれを察している結果である。
しかし、そんな彼の平穏な日常は突如崩れ去ってしまう。
GW明け、クラスメイトの美少女から突如告白される......のだが、罰ゲームか何かだろうとあっさり断ってしまう。
それなのにその美少女はめげずに話しかけてくる。
更には過去にトラウマを抱える義妹が出来て快適な1人暮らしが脅かされ、やかましい後輩までまとわりついてきてどんどん騒がしくなっていく。
そして神谷が『ぼっち』を貫こうとする本当の理由とは——
坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】
S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。
物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。
曙光ーキミとまた会えたからー
桜花音
青春
高校生活はきっとキラキラ輝いていると思っていた。
夢に向かって突き進む未来しかみていなかった。
でも夢から覚める瞬間が訪れる。
子供の頃の夢が砕け散った時、私にはその先の光が何もなかった。
見かねたおじいちゃんに誘われて始めた喫茶店のバイト。
穏やかな空間で過ごす、静かな時間。
私はきっとこのままなにもなく、高校生活を終えるんだ。
そう思っていたところに、小学生時代のミニバス仲間である直哉と再会した。
会いたくなかった。今の私を知られたくなかった。
逃げたかったのに直哉はそれを許してくれない。
そうして少しずつ現実を直視する日々により、閉じた世界に光がさしこむ。
弱い自分は大嫌い。だけど、弱い自分だからこそ、気づくこともあるんだ。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜
赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。
これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。
友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!
草ww破滅部活動日記!
koll.
青春
千葉県にある谷武高校の部活。草ww破滅部。そのメンバーによる、草wwを滅するためにつくった、部活。そして、そのメンバーのゆるい、そして、時には友情、恋愛。草ww破滅部が贈る日常友情部活活動日記である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる