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第1章

第3話

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 しばらく経って、白熱していた練習試合が終わる。終わった途端、真っ先に追っかけの中にサッカー部の部員へ挨拶しに行く奴とかが出ている。ああいうのも、ルールとかで決まっているのだろうか……?
「……いやあ、白熱した試合だったわね」
「本当! 西城くんの決めたシュートとか凄かったし!」
「おぉ? 麻由美、もしかして西城に気があったり?」
「べ、別に~?」
 不味い、リリーにはあまり言いふらしたくない。リリーは半分可笑しく、半分疑わしい様に私をジロジロと見ている。もしかしたら、私の顔は真っ赤になっているかも……。
「そうだ、私たちも近くまで行きましょ?」
「えぇ?!」
 唐突な提案だった。
「近くまで、って迷惑じゃ」
「迷惑にならない様に一言ぐらい声掛けて去ればいいのよ。さ、行くわよ」
 リリーは私の腕を掴んでそのまま移動していく。その場で反論しようとしていた私は少し、転びかけてそして態勢を立て直しリリーにされるがままに動かされている。そんな急に声掛けに行こうとか、心の準備が……!
 そんな事を考える間も少しだけで、あっという間にグラウンドに到着してしまった。見ると、相変わらず追っかけの人らが割とサッカー部の面々に話に行っている。プロ選手でもないのにあそこまで熱心になれるのは凄いわ……。
「よっ、西城」
「ん? 南じゃないか」
 リリーはそんな様子をお構いなしに遠くからいきなり大声で西城くんを呼ぶ。しかも、西城はすぐに気づいて返事をしてきた! 周囲に追っかけの人たちがいるから注目の的になっている。
 ひと悶着が起きそうな状況の様にも思えるが、西城は気にするまでもなく私たちの方へと歩いてくる……歩いてくる?
「南たちも見ていたんだね」
「そうよ? 西城ホントサッカー上手いじゃん」
「いやあ、俺はまだまだだよ」
 私は仲良く掛け合う二人を見て完全にあわあわとしていた。なにこの状況!? そういえばリリーと西城はクラスでも気軽に話す仲だったあわわどうしようどうしよう……! そんな様子を知ってか知らずかなのか。
「そんな事ないでしょ。ほら、麻由美もそう思うでしょ」
「えっ!?」
 リリーが私に話を振ってきた。ここで西城くんにサッカーの試合の感想を?! き、緊張して震える。
「ほら、麻由美さっさと言いなさいって」
「はっ……あ、ええと……私も、本当に西城くんサッカー上手いなって」
 我ながら大分下手な感想だと思う。
 けれど、西城は気にした様子もなかった。
「そっか。二人がそう言ってくれるなら嬉しいよ」
 ニカッと笑顔で応対してくる。
 その笑顔は、私にはとても眩しいものだった。本当に眩しい。直視できないくらい輝いている。ここまで素敵な笑顔、直視できない……でも直視したい……! 本当に、それぐらい綺麗な、綺麗な笑顔だった。
「西城くーん! 先生が呼んでいるわよー!」
「あ、マジですか?! すまん、俺ちょっと行くわ」
「ううん、別に良いわよこっちがおじゃましたくらいだし」
 そう言って西城くんは私たちの元を離れてしまった。
 そのまま西城くんは先生と、隣にいる女子……? の元へと向かってしまった。多分、西城くんを呼んだのは隣の女子だ。
「あ、あの人御伽(おとぎ)先輩じゃない」
「御伽先輩?」
 知っている素振りを見せるリリーに私は反射的にそう答える。
「そう。御伽先輩ってサッカー部のマネージャーとかしている訳じゃないんだけど……半公認って感じでサッカー部の活動の手伝いをしてるのよ」
「へえ、それにしてもどうして?」
 そんな立ち位置になれたのか、不思議なんだけど。
 残念ながらリリーには、私の疑問を解決してくれるような答えを知っている訳ではなく。
「さあ。よくわかんないけど、サッカー部のマネージャーと知り合いじゃないかな? マネージャーの人って御伽先輩と同じ二年生の人だし」
 そう返答したのだった。
「ふ~ん」
 それにしても、遠くから見てもなんとなく伝わるんだけど御伽先輩と西城くんの距離がなんか近く見えるんだけど……! 御伽先輩は遠くてちょっとどんな容姿かとかわからないけど、何だか大人しそうに見える雰囲気なのだけは遠くからでもわかる。
 癖のないヘアー……、大室撫子という言葉が似合いそうなぐらいストレートロングヘアーに見える……!
「うー……なんか、気になるな……」
「そう? でもそろそろグラウンド出ない? いる理由ないし」
 リリーの言い分もわからなくはない。既に追っかけの人たちは知らぬ間に消えているし、サッカー部も他の部活も別の活動が始まりそうだし、私たちもいる理由がない。
「……そうね」
 釈然としない気持ちのまま、私はリリーと一緒にグラウンドを離れる事となった。

「それにしても、相変わらず熱の注ぎ方が尋常じゃないわね……」
 グラウンドの方を向くと、相変わらず追っかけの女子たちが黄色い悲鳴を上げている様子が見える。多分、誰かが上手い事シュートとか、そういうのを決めたのだろう。何かがある毎にその黄色い悲鳴は聞こえてくる。
 それを見たリリーは、そんな事を呟いたのだ。
「ホント、あそこまで熱中できるのは凄いよね。それも、グループ作ってまで」
「私ああいう輪の中入れないわー、色々ルール厳しそうだもん」
 あっけからんと言うリリーにそうだね、と思いながらも私は別の事を考えている。あれだけの熱量を持って何かしらの活動をするのも青春と言えば、青春だよね……と言う風に。
 確かに、私にとっても誰かを応援する行為をグループとか、チームとかで行うのは正直リリー同様とてもではないができない。変にルールに厳しいとか、そういったものは私の目指す青春とは別ベクトルの話。
 けど、あの人達はその様な形で自分たちの青春を過ごしているという事。それは、他人がどうこう言える立場ではないものの、私にとってはある意味、凄く輝いている青春とも言えるのだった。
 私にとって、青春というのは高校とかの期間を何かしらの熱意を持って何かの活動に勤しむ……その様なイメージがある。
 そういう私が目指す青春は、漠然としている。
 一番は私の青春を過ごすというのが目標だ。中学を卒業する直前、あの河川で出会った誰かもわからない人があそこまで熱意を持って励ましている姿を見た時、まだチャンスはあるのだと考えた。
 こんな私でも、何かを変えられる――!
 だからこそ、私の高校生活の最大の目標というのは青春を送るというものになっている。我ながら曖昧な目標ではあるが、それでもがむしゃらにこういう事をやっていきたいという行動は基本的には上手くいっているだろう。
「麻由美、どうしたの?」
「え、あぁ……ちょっとね……」
 リリーに心配されてしまった。
 もしかして、立ち止まって考え込んでいた? 相手を不安にさせてしまうのは良くない。これは私でも理解できる事だ。
「君たち、どうしたのかな?」
 私は声が聞こえた……真正面の方を向く。
 突如、声を掛けてきた第三者の正体に私は、
「なんだ東谷か」
 そう答えたのだった。
「なんだ、とは失礼だね」
「急に話しかけるのが悪いのよ」
「そうかい」
 相変わらずアッサリとした反応だ。何だか、こっちが相手にしているというより、東谷に相手されているって感じがするのが少し小癪な気分にさせる。
「そういう東谷はこれから帰るとこなの?」
「まあ、そんな所だね」
 少し逆立った髪をいじりながら、東谷はリリーの質問に答えていた。東谷は、別に藍春の様に嫌な気持ちになる訳じゃないんだけど何だか噛み合わなくて……私は少し苦手な印象がある。
 こう……飄々とした態度が苦手と言えばいいのだろうか。本当に東谷は掴み所がない。
「それにしても中途半端な時間じゃない? あんた部活とか生徒会とか入ってないじゃん」
「そういう北野さんも入ってないじゃないか」
 うっ、と痛い所を突かれる。
「まあちょっとした用事でね。それじゃあ僕はもう行くから」
 東谷はそう言うなり、その場から歩き去っていたのだった。その姿を見て、私はやっぱりこいつは話しづらい、という結論に至った。
 その様子をリリーはずっと眺めていた。
「東谷って毎度の様に変なスケジュールしてるよね」
「……それが、あれの過ごし方って事でしょ?」
 リリーが言う変なスケジュールっていうのは、東谷は本当によくわからない行動をしているのが由来だ。簡単に言えば時間にルーズ。
 一限目の途中で急に遅刻して現れれば、昼の授業は一時的にサボる、もしくは全部サボる。ある時は先生に注意されるくらい夜遅くまで高校に居座っていたとか。そうした変な過ごし方をしているのがさっき嵐の様に現れて消えた東谷樹(とうやいつき)という人間なのだ。
「まあ、いいか。それじゃ行くわよ」
「うん」
 とにかく、こうした様な人間が周囲にいる私の高校生活は、割といくつかトラブルが起きながらも順調に進んでいっていた。けど、私は完全に満足している訳ではない。
 まだ一年生だけど……けど、もう少し華やかにしていく方向へと行きたい、と私は考えている。今の高校生活は少し閉塞気味だ。
 例えば、劇的な恋愛とか……何かしらに打ち込んでいくとか……そうした、大きな活動をしていきたい、と考えている。
 けど私はそれを漠然と考えた結果なのか、上手くいっている事はあっても考えている通りに行けているとは言えなかった。

 
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