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 彼をBL嫌いにさせた、出来事もあるもの。
 
 それは私達が学園に入学した頃、巷の本屋に旦那様と側近アーゴス様のBL本が発売された。
 本は人気になり、貴族の間でも流行るほどになっていた。

 名前は少し変えてあるのだけど、旦那様と側近でお二人を連想させ、お二人はお付き合いをなさっていると、彼らの知らないところで噂が立ちはじめる。
 
 本を鵜呑みにして、王子と関係したい貴族の矛先は私に向く。
 旦那様と私の婚約はフェイクだと「エンリス様から離れて!」と、可愛らしい女性ではなく、男性によく言われたものだ。


 あれっ? これって乙女ゲームじゃなくて、登場人物が同じのBLゲーム⁉︎ と(腐女子脳が勝手に変換を始める)


 現にヒロインは学園には通っているはずなのに、未だ誰一人攻略対象を攻略していない。休み時間に一人で書庫にいる姿を何度か見かけた。

(やはり、BLの世界⁉︎)

 考えれば考えるほど腐女子脳は加速した。

 私って悪役令嬢ではなくただの婚約者で、エンリス様と側近アーゴス様とのお付き合いがバレない様にする隠れ蓑? 

 旦那様の婚約者に選ばれたのは7歳。
 いつも屋敷で、王城でお会いするとき、彼は見習い側近のアーゴス様を連れて来て一緒に遊んでいた。
 

(その頃から、二人は隠れて愛し合っていたの?)


 ひょえーー⁉︎ 私っておじゃま虫じゃん?


 腐女子たる者。愛し合う者同士の邪魔はしない、離れて茂みの中からお二人を温かく見守るのが正解。

 それっきゃない! 

 まだエンリス様のことは好きかな? と、悩むくらいだから平気。

 お二人は私がいないところで、愛しあってくださいませ。
 実行して数日、彼は黙っていなかった。


『シルビア嬢はなぜ? 僕を避けるんだ!』


 傷ついた表情のエンリス様に、彼の部屋まで連れて行かれてベッドに押し倒された。


『さ、避けてなどおりませんわ』

『はぁ? 目を逸らさず、僕の目を見て言いなさい。さもないと今からシルビアを抱く』

『ま……っ、んんっ、ふっ、や、やめてください』

 初めてのキスを強引に奪われて、彼の手がドレスにかかる。

『わけを言えよ、シルビア!』

 エンリス様の低い声と、鬼気迫る迫力にすべて話してしまった。


 私の話をお聞きになり、エンリス様は驚きを隠せないでいた。


『僕とアーゴスが恋仲だと?』


 彼はすぐに巷からその本を取り寄せて読み、なんだこれは! と頭を抱えた。

 この世界に初めて沸いたBL本。
 それも自分と側近もの。


『アーゴス! 即刻その本の販売を中止しさせろ、本を全て燃やしてしまえ』

『かしこまりました』


 残っていた本は全て、燃やされてしまった。

 まだ残る噂も。


『『私が愛しているのはシルビアだ!』』


 公の場で貴族達に宣言した。



 *



『シルビアもアレを読んだの?』

 聞かれても私は首を横に振る。私は空想、妄想、現実にはないBL小説、漫画、ゲーム、アニメを好む二次元が好きな腐女子。


 夜型で、ひとたび妄想が始まればもう止められない。専属メイドのアリーがいなければ、朝も起きれないほどだと。


『お嬢様はいくつになっても、朝がお嫌いですね』

 いくつになっても……生まれた時から腐女子?

『日中はお静かでしたが夜になると元気になり、なかなか眠ってはくれず絵本を何冊も読んだのですよ』

 アリーの話は続く。

 ドレスが嫌いで、いつも同じワンピースをお選びになり、絵本や本を読むことが好き。

 一人で知らない歌をうたい(当時好きなアニメの歌かも)
 わからないことを叫んでいたらしい(必殺技でも出していたのかな?)


 あはははっ、前世のわたしのままやないかーい!

 もはや美人のシルビア(私)は残念美人⁉︎


 本だって前世だったら、乙女ゲームのキャラとして読めたのかもしれない。

 三次元、男性同士の世界に私はちゅうちょする。
 同じじゃない? という人もいるだろうけど、腐女子の私が簡単に入ってはいけない世界。

 そう考えているのは、私だけかもしれないげど。
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