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ルーチェがさらわれた後(ウルラ、子犬、ガット、ラエル)

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 しばらく、子犬様と草むらに身を潜めていた。馬車が立ち去る音が聞こえて、辺りには暗闇と静けさが戻った。

 隣にいる子犬様が辺りを気にしながら、話しかけてくる。

「ウルラ、こんなピンチにシエルは何で来ない?」

「子犬様、先ほどから呼びかけているのですが、主人からの返事がありません」

「シエルがか?」  

「はい、そうです」

 何処で何をしている、お主の大切なお嬢が連れて行かれたのだぞ。

 近くの茂みが揺れてカサカサと音を立てて、黒猫がひょっこり顔を覗かせた。黒猫は二本の尻尾を揺らして、我らを見つけて駆け寄ってきた。

「ウルラ先輩、子犬様お怪我はないですか~?」

 今頃か来たのか……ラエルの使い魔ガット。お前の事だから一部始終、隠れて震えながら見ていたのだろうな――この弱虫ガットめ。

「ガット、主人(あるじ)に連絡はしたのか?」

「あっ、多くの人族に驚いて震えてたから、忘れてたぁ~」

 テヘッと笑う。

 こ、こやつ、前から思っていたがじつに頼りない使い魔だ。前のご主人との相性が悪かったらしく、痛めつけられたせいか人族がかなりの苦手。
 
 ラエルは主人と同じく、実力のある魔法使いのはず、なぜ? こんな、ぽんこつ使い魔を使うのだ?

「先輩、せんぱーい、いま主人を呼んだよ。その前にこの邪魔な網を取るね……うギャァ、痛い、何ですかそれ?」

「これは……使い魔捕獲網だ」

「うぇっ、そう言うことは先に言ってくださいよ。痛い、痛い」

「聞かずに触ったのはお前だ」

 痛い、痛いと、泣くな、驚き、騒ぐな、転がるな……こっちはそれを我慢しているんだ……鬱陶しい。


 足音? ザッ、ザッ……近くで草を踏む足音が近付いてきた。

「ライト!」

 現れた男が唱えた魔法で、辺りが明るくなる。黒いローブと、その男の前髪から青い瞳が我たちを見下ろした。

「ウルラ……これは酷い、使い魔捕獲網だね。……何で、高価な物がこの国にあるのだろうね?」

「あるじ!」
「ラエル、来たのか!」

 ガットは嬉しそうに「あるじ、あるじ」と体をすりすりするなか、ラエルはしゃがんで捕獲編みの分析をしだした。

「この国は魔法国だけど、使い魔を使う魔法使いはいないはずなんだだよね」

 いまから外すねと、先端に青い魔石がはめ込まれた、一メートル位の杖を出し網に当てながら「【解除】」と唱えた。先端の青い魔石に魔法陣が現れて、我を取包む網を消しさった。

「助かった主人の弟君、ありがとう」

「どういたしまして。ところでウルラ――兄貴は? 連絡してないの?」

「しておるが……主人とは先ほどから連絡が取れません」

 ラエルは"そう"とだけいい。口元に手を当てて何かを考えて、

「まあ、兄貴は大丈夫かな? それで、子犬とウルラは怪我をしていない?」  

「右側の羽に擦り傷ができ、た……っ! ない? ここにあった擦り傷が消えている」

「え、ウルラの怪我が消えたの?」

 ラエルに怪我をしてはずの羽を見せると、それを見てラエルは目元と口元を緩めた――それは楽しそうに。

「子犬は?」

「俺はルーチェちゃんが守ってくれたから……怪我はしてないよ」

 しゅんとしている、子犬様――ご自身がお嬢を守りたかったのか……珍しく落ち込んでいるようだ。

「みんなに怪我がなくてよかったよ、僕もいま兄貴に念話したけど反応は無しか……そうなると兄貴は珍しく熟睡しているか、珍しく気絶してるのかな?」   
 
「シエルが気絶?」

「あの、主人がか?」

「ひぇぇ、そんなことがあるなんて~ぇ、逆に怖い!」

 いつも冷静なシエルが? ……いや、最近は小娘といる時だけ、普通に恋する年相応な男性に見えていた。

 可愛いお嬢『また、太ったって酷い!』がお気に入りだ。
 主人同様、我も彼女は気に入っている。 

 頭をナデナデして貰える、子犬様が少々羨ましい。
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