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「せ、先輩?」

「シーッ、ヤツに見つかりたくなかったら、少し黙っていて」

「ヤツ?」
「ルーが会いたくない、カロール殿下だ」

 ヤツーーカロール殿下! シエル先輩にうなずき口を手で押さえた。その直後にノック無しで勢いよく扉が開き、どかどかと数人の足音が聞こえて、私たちのいるソファーの前で止まった。

「おい、シエル。貴様の部屋からなにやら親しげな、女性の声が聞こえたといましがた報告があったが? 誰を連れ込んのだ?」
  
 声を荒げるカロールに対して、先輩は慌てず寝起きの演技を始める。

「ふわぁっ、なんですかいきなり……この女性は私の大切な人です。だから、親しげに話もするでしょう? ……フウッ、こんなに大勢引き連れて、ノックもなしに私の部屋に入って来るのは、いくら殿下でも失礼ではありませんか?」

「それは、そうだが……いいや、貴様、その胸の上にいる女性はルーチェ嬢ではあるまいな?」


(ドキッ!)

 ーーな、なんで、いま私の名前が出るの? 

 ほんとうにシエル先輩の上にいますけど……先輩は胸を揺らし"クックク"と低く喉で笑い。

「カロール殿下は何を言ってるのですか? ルーチェ様はまだ見つかってはおりませんよ。どうして、その方が私の胸の中などいるのでしょうか?」

「……貴様と仲がよかった、と報告を開けている」

「ただの、友達だったと伝えましたが?」

 平然とカロールと話す先輩だけど、それとは裏腹にシエル先輩の指先は私の髪を撫でて、クルクルと指に髪を絡めて遊ぶ。それがくすぐったくて、笑いそうで……ドキドキと緊張が混ざる。


「「ドクン!」」


 いきなり"ドクン"と体全体が脈を撃ち、体がピキピキと音が鳴るくらいに痛くなる。その痛みに我慢出来ず(くっ)と声に出さないようにうめいた。それに気付いた先輩は声を上げ。

「カロール殿下、私の大切な人が目を覚ましてしまう、お帰りください……それとも殿下はルーチェ様ではなく、彼女の肌を見たいのですか?」

 腕の中の女性が騒ぎに気付き起きてしまう、と、先輩に強めに言われて。ことが、ことだけにカロールは引き下がった。

「すまなかった、シエルと女性……失礼した。戻るぞ!」

「「はっ!」」


 大勢を連れて部屋を出て行き、静かになる先輩の部屋。その部屋の中でシエル先輩は"指をパチン"と鳴らしてローブを剥ぎ取った。

「ルーが来て驚いていたから、見張られていることを忘れていた。ルー、遮音の魔法を使った話しても外に聞こえないぞ。……はあ、それにしてもビックリしたな」

「はい、びっくりしました」


 ムクっと起き上がって、シエル先輩を見上げたら、先輩の瞳がひらいて。

「はあ? え、ええ? ル、ルー? お前、自分の体を見てみろ」


「え、自分の体? あれ? 先輩の姿がやけに、大きく……見えるけど?」

 コテンと首を傾げる。

「そうだろうな……お前、この部屋で魔法陣を描いた紙に触らなかったか?」

「魔法陣の紙? あ、それなら拾って、そこの研究机に置きましたけど……?」

「まじか……触ったのか。そうか……それが原因だ、ルーお前、ネズミの姿になっているぞ」

 ネズミ? 自分の体を見ると白銀色の髪と、同じ色のふさふさな毛が見えた。

「ほんとうだ。でも、これってネズミじゃなくて、ハムスターかな? それともチンチラ?」

「チンチラより小さいから、ハムスターの方だろうな」

「そっか……ハムスターか」

 私はシエル先輩が描いた、魔法陣の紙を触ってしまい、ハムスターの姿になっていた。
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