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(魔法屋さん?)

 そっと近付き覗くと、ソファーで寝ている男性は、どこかシエル先輩に雰囲気が似ていた。双子だと言っていたし、それもそうかと声を掛けてみた。

「ま、魔法屋さん?」

 声をかけると男性は目を覚ましたのか、眉をひそめる。

「ん? ルー、どうした?」

 ――ルー? 弟さんが私をあだ名で呼んだ?

 この呼び方をするのって、シエル先輩だけなのに……先輩は弟さんにも伝えたのかな。音を立てずに近付くと、男性の手が伸びて"ガシッ"と手首を掴まれた。

「えっ」

 急に掴まれた驚きでつまずき、男性の胸の上に乗っかってしまう。

「魔法屋さん、ご、ごめんなさい」

(私、なんてことを……)

 あやまって退こうとしたのだけど、魔法屋さんはなんと私を両腕でホールドした。

「………!」
「……ルー」

 優しく私の名を呼び瞳が薄ら開いた。
 この色、先輩と同じ赤い瞳の色だ。少し前に魔法屋さんを訪れたとき、フードを深くかぶっていたから、瞳の色まではみていなかった。

「あ、あの魔法屋さん、手を離してください」
「嫌だ……」

 そういって弟さんは目を細め、私を優しく見つめ……

「また、会えて嬉しい。一週間前に会えて、すぐ会えるなんて。……そうか、これは夢か? なんて、幸せな夢なんだ」

 小さく、クッククと笑った。
 一週間前って……先輩が、ガリタ食堂に来た日だ。

(嘘っ、こ、この人、先輩の弟さんじゃない、ホンモノのシエル先輩?)

 ドキンと、私の胸の鼓動が早くなるのがわかった。
 

「先輩、シエル先輩起きて!」


 いくら呼びかけても、先輩はなかなか目を覚まさない。それとは反対にギュッと腕の力が強まり、近付いた先輩との距離、先輩の吐息が首筋にかかる。

「ンッ……先輩」

「いやだ、離さない。もう少し……ん、あれ? ルーから俺と同じ香りがする」

 同じ香り? ……先輩も、魔法屋さんの石鹸を使ってるんだ。同じ……あわわ。なんだか恥ずかしい? 離してと、先輩の胸を押しても力強い腕で身動きが取れない。

「もう、シエル先輩のえっち……」

「えっち? 男はみんなそんなもんだろ? ん? んん、柔らかくて温かい……ルー? えっ、ルー!」

 先輩はサワサワと両手で私の背中を触り、パチっと目を見開き、胸の上にいる私を見て更に目を見開いた。

「はぁ? えっ、ルー? 夢じゃなくて、ホンモノ?」

「そうだよ、シエル先輩……おはよう」

 夢ではなく、ほんものの私だとわかり。
 困り、焦りだした先輩に微笑んで挨拶をすると「まじかぁ」と、呟きあいた片手で頭を抱えた。

 しばらくの沈黙の後。

「なんで、ルーが、俺の研究室にいるんだ?」

 シエル先輩の研究所?

「え、ここって、先輩の研究室なの? 何でいるかって私にもわかんない。魔法屋さんに行こうとして、貰った鍵を使ったら、先輩の研究室に繋がったんだもの」

 正直にそう告げると、先輩は眉をひそめた。

「ここに繋がった? ……まさか、俺の術が失敗したのか? いいや、その鍵と魔法屋を繋げたはずだ……昨夜、ラエルとの確認も取ったのにどうしてだ?」

 先輩は、私を胸に乗せたままブツブツ物言い、考えだす。

「それでね。一緒に来たはずの、子犬ちゃんがどこにもいないの」

「子犬が……いないだと?」


 ソファーに寝転ぶ先輩は起きることと、胸に乗る私を離す気はないらしく、そのまま何かを唱えて目を瞑った。
 
 しばらくして一息つき、私を見て。

「いま、弟に聞いてきた、子犬は魔法屋にいるってさ」

「えぇ、子犬ちゃん魔法屋さんにいるの? よかった……でも、どうして? 私だけここに来ちゃったの?」

 ――まさか、先輩のことを思いながら鍵を使ったから?

 先輩は首を傾げ。

「さーなぁ……ん? ……チッ、嫌な奴が来る。ルー、俺の上から動くなよ」

 と言うと、着ていたシャツを脱ぎ捨て裸になり、ソファーにかけてあった黒いローブを私ごとかけた。先輩の指先が髪に触れて、着けてきた髪飾りを取ってしまった。
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