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 私は久しぶりに学園の夢をみた。その夢はシエル先輩と魔法の話をする幸せだけど、むしょうに先輩に会いたくなった。

 ーーいつか会えるといいなぁ。



「ふわぁっ」

 ベッドの中で背伸びをすると、目線の端にもふもふの影が見える。何気なしに横を向けば、気持ちよさそうにへそ天で眠る子犬ちゃんがいた。

(そうか、一緒に寝たんだった)

 眠る子犬を起こさないように、ベッドを抜け出し、いつもの海側の窓を開けると、すぐさま近くの枝に福ちゃんが止まった。

「おはよう、いい朝だね」

「ホーホー」

 福ちゃんと何気ない会話をして、彼が空が飛び去る姿を見て、子犬の朝食をキッチンで準備し始めた。

 桃とバナナを食べやすい大きさに切りながら「今日の定食は何?」と、近くの壁に貼った定食表を確認すると。今日は生姜焼き定食の日……大将さんが作る生姜焼きのタレは生姜が効いて絶品。
  
 トントン、トントン、キッチンからする物音で起きたのか、子犬ちゃんが足元に駆け寄りキュンと鳴いた。

「目が覚めたのおはよう。朝食すぐに出来るからね」

「キュン、キュン」

 子犬用に食べやすく切った桃を皿に移して、出すと、子犬ちゃんはキュンとひと鳴きして食べだした。

 食べ始めた姿を眺めて、仕事着に着替えを始めた。子犬ちゃんは小さくてもふもふ可愛いのだけど、ガツガツ、カラン、ガツガツ……子犬の食べる勢いは凄い。
 
 ものの数秒で桃とバナナが乗ったお皿は空っぽになり、着替える私の近くに寝そべった。
 
「もう、食べたの?」

「キュン!」

 仕事着に着替えて髪をセットしてエプロンを着ける。脇に子犬ちゃんを抱えて階段をおりる、店の裏で女将さんが仕込みの準備を始めていた。

「おはようございます、女将さん」

「キュンキュン」

「おはよう、ルーチェちゃんと……子犬?」

 仕込みを始めるまえに子犬の説明を女将さんにした。内容は――昨日、港街で可愛い子犬ちゃんを見つけて、勝手に連れてきしまったと伝えた。

「あらあら、いくら子犬ちゃんが可愛いからって、連れてきゃダメよ」

「はい、反省しています……女将さん、この子の飼い主さんを見つけたいので。午後、店を早めに上がらせてください」

 その私の願いに女将さんは微笑んだ。

「いいよ。ちゃんとこの子の飼い主をみつけて謝っておいで。……あ、それと、一つ頼み事をしてもいいかい?」

 頼みごと?

「なんですか?」

「港街の裏路地にある"魔法屋さん"で魔氷を2キロ。明後日、店に届くように頼んできてくれるかい?」

「魔法屋さんで魔氷を2キロですね、わかりました」

 港街の路地裏の奥の奥に魔法屋という、魔法使いが経営するお店がある。その店で売られている魔氷は氷属性魔法で作られていて、3日は解けないという代物。

 この魔氷は人気で商店街全部のお店と、ガリタ食堂でも使用している。話には聞いていたのだけど、裏路地裏には酒場と大人のお店が多く立ち並び、一人で行くのを躊躇していた。

 いくのはお昼過ぎだから、まだ酒場とかはあいていないよね。



「さて、話は終わりにして生姜焼きの仕込みを始めるよ!」

「はい!」

「ルーチェちゃん、今日は特にいい豚肉が手に入ったからね。旦那とニックが張り切ってるよ!」

 いいお肉! それは絶対に食べたい……柔らかい豚肉に絡む生姜ダレと千切りのキャベツ。付け合わせの白菜の漬物とお味噌汁は最高。

「そうだ、ルーチェちゃん。ちょっと待っててね」

 女将さんは裏口から店に戻り中から、椅子を持ってくると、私たちが作業をする前に置き子犬をその椅子の上に乗せた。

「君の場所はここね、いい子にしてるんだよ」

「キュン!」

 子犬ちゃんは大人しく椅子に座った。
 私と女将さんで大きな空樽を二つ用意して、その上に特注まな板を置き、並んで作業を始めた。

 まず、初めに。

 生姜を下味用のしぼり汁と、生姜ダレ用の生姜を大量にすり下ろして、変色しない様にレモン汁を混ぜるのがコツ。

「生姜は終わり。ルーチェちゃんこれから大変だ」

 女将さんがそう言い、準備したのはカゴ一杯のキャベツ。

「いまから、キャベツの千切り始めるよ!」

「はい!」

 女将さんはひと玉をそのままで、千切りするけど、私は一枚一枚剥がして芯を取り丸めて千切りにする。

 店裏にトントントントントンと、リズム良く千切りの音が響いた。できた千切りは井戸水の冷水にさらしてザルで水分をきる。その作業中、女将さんが何か思い出したのか話しかけてきた。

「そうだ、今日の朝食にニックがね。ルーチェちゃんに教わった味付けで、卵焼きを焼くって言ってた」

「ほんとうですか」

「たまに家にきてね、何度かニックが作ってくれたんだよ、甘めの味付けがいいね」 

「気に入ってもらえて嬉しいです。……だったら、今日の朝食は卵焼きと塩おむすび、きゅうりの塩もみが食べたいなぁ」

「あら、いいわね。そうなると、汁物と焼き魚も欲しくなるね」

「焼き魚、いいですね」

 その私たちの会話に。

「じゃー、お袋とルーチェの朝食はそれでいい? 焼き魚はないから生姜焼きに変わるけど……」

 裏口からニックが顔を出していた。
 朝食に何を食べるのか、聞きに来たのだろう。

「それで、お願いします!」

「ニック、よろしく頼むよ」

「キュ」

 まるで、それでお願いしますという様に、子犬ちゃんも返事をニックに返事をした。

 私たちの他の返事にニックは驚いた。

「おっ、なんだ? 子犬?」

 ニックにも子犬の説明をした。

「ルーチェ、ちゃんと子犬を飼い主に返せよ。今頃、子犬が居ないって泣いてるぞ」

「わかってる、ちゃんと返すし、謝るよ」

「そうしろよ。じゃ、俺は朝食作りに戻るな」

 ニックは仕込み終わった野菜を厨房に持っていき。私たちはキャベツの千切りの作業に戻った。



 その作業が終わる頃に厨房から「朝食ができたよ」とニックに呼ばれて店に入ると。大皿に塩おむすびが並び、椎茸のお吸い物ときゅうりの塩もみ、生姜焼きがテーブルの上にドーンと用意されていた。

 蒸したサツマイモは子犬用らしい。

「「いただきます」」

「キューン」

 みんなとの楽しい朝食を終えたあとは、戦場とかしたガリタ食堂。子犬は蒸したサツマイモをペロリと食べたて、使わなくなった桶のベッドでお昼寝中だ。

「ルーチェ、16、17.18番さんの生姜焼きが上がったぞ」

「はーい、生姜焼き定食お待たせしました!」

 満席になった店の中で声が飛んだ。
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