上 下
57 / 59

54

しおりを挟む
 お昼過ぎ、王城にある訓練場。騎士団長の開始の指示を待ち、ルテとフォックス王子が木刀を握り見合っている。

 ブワッと、フォルテから燃えるような赤い闘志が見えるけど、フォックスからは黒いオーラの様なものが見えた。

 初めての事でオレは目を擦り、もう一度確認した。
 やはりフォルテの赤に対して、フォックスはドス黒いオーラが見えて、彼は何処か余裕ありげのように感じた。

 ちょうど決闘が始まろうとした時、オレは自分を呼ぶ声に振り向くと、そこにロッサお嬢がいた。

「ロッサお嬢?」
 
「フフ、ごきげんよう。フォルテ殿下とフォックス殿下が戦うと聞いて我慢できず、殿下の許可をもらって、黒猫を使い来てしまいましたわ」

 ――女性って、こういうの好きだよなぁ。まあ、いつも異常に元気そうで何より。

 ロッサお嬢が空いている隣に座り。

「ねえ、タヤ。2人を見てどう思います?」
「え、ルテとフォックス王子?」

 頷くロッサお嬢に、オレは今見えている現状を素直に伝えた。

「ルテは真っ赤な闘士に加え、フォックス殿下はドス黒いオーラの様なものが見える。ほら、ロッサお嬢も見えるだろう? ルテの燃え上がる炎のような闘志と、フォックス殿下のドロドロで真っ黒なオーラかな?」

 オレはそう説明したが、ロッサお嬢は首を傾げる。

「真っ赤な闘志と真っ黒なオーラですか? ……さすが、ヒロインね。私には何にも見えなくて」

「ええ、そうなのか? あんなにはっきり見えているのにな」

「タヤ、始まるわ」

 談話していた騎士達も息を飲み、訓練場の全体が静かになる。オレもみんなと同じように息を飲み、フォルテだけを見つめた。

 

 ♱♱♱
 
 

 静かな訓練場、騎士団長の合図で決闘が始まった。
 しかし、勝負がついたのは『ほんの一瞬』だった。

 騎士団長の始まりの合図と同時に仕掛けたルテが、フォックスの木刀と自分の木刀を飛ばし。フォックスの鳩尾(みぞおち)に強烈な右ストレートをめり込ませた。王子は驚く間もなく、訓練場の壁まで飛ばされ決着はついた。

 壁と共に崩れ落ちる、フォックスに声を上げた。

「たるんでいるぞ、フォックス! 数年前の君はこんなものじゃなかった……どうして、しまったんだぁ!」

 そのフォルテの声に体の埃を叩き、フォックスは懐から何か取り出して口に含むみ、フラフラ立ち上がった。その姿は先程より、まとうドス黒いオーラが濃くなっていた。

 ――嫌な感じがする。

 オレは隣のロッサお嬢の前に出て、フォルテに向けて呼んだ。

「ルテ、何か変だ! そこから逃げろ!」
「タヤ?」
 

「殺す、フォルテ!」
 
 
 フォックスはフォルテを襲おうとしたが、危険だと判断した騎士が素早く動き、フォックスを捕らえた。

「グッ……離せ! フォルテ……お前ら、離しやがれぇ!!」

 先程とは打って変わり、騎士を投げ飛ばした。
 訓練場が騒然とする、騎士団長が剣を抜く。

「フォックス殿下……勝負はすでについております。フォックス殿下の負けです……諦めください!」

「嫌だ、嫌だ……嫌ダァ――!!」

 待機していた、城の魔導師達が訓練場に呼ばれ、フォックスは魔法で拘束された。騎士たちの話が聞こえた、フォックスはどうやら、禁止薬を使用したようだ。

 それはただの噂だと思っていたが……フォックスの今の様子を見て、騎士団は確信したらしい。

「フォックス……禁止薬を使用するなんて情けない! 薬についての出所を調べが終わり次第、貴様は国へ送還され、二度とこのルーズベルト国への入国は許されぬ!」

 フォルテの悲しみを含んだ声が、訓練場に響き渡った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夏の扉を開けるとき

萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」  アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。  僕の心はきみには見えない――。  やっと通じ合えたと思ったのに――。 思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。 不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。 夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。 アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。  *****  コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。  注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。 (番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)  

【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。 (あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?) なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。 甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。 二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。 《人物紹介》 柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。 女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。 ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。 顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。 ※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。

コレは流行りの転生ですか?〜どうやら輪廻転生の方でした〜

誉雨
BL
知っている様で知らない世界。 異世界転生かと思ったが、前世どころか今世の記憶も無い。 気付けば幼児になって森に1人。 そんな主人公が周りにめちゃくちゃ可愛がられながら、ほのぼのまったり遊びます! CPは固定ですが、まだまだ先です。 初作品で見切り発車しました。 更新はのろのろです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

黒豹拾いました

おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。 大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが… 「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」 そう迫ってくる。おかしいな…? 育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。

鬼に成る者

なぁ恋
BL
赤鬼と青鬼、 二人は生まれ落ちたその時からずっと共に居た。 青鬼は無念のうちに死ぬ。 赤鬼に残酷な願いを遺し、来世で再び出逢う約束をして、 数千年、赤鬼は青鬼を待ち続け、再会を果たす。 そこから始まる二人を取り巻く優しくも残酷な鬼退治の物語―――― 基本がBLです。 はじめは精神的なあれやこれです。 鬼退治故の残酷な描写があります。 Eエブリスタにて、2008/11/10から始まり2015/3/11完結した作品です。 加筆したり、直したりしながらの投稿になります。

俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい

綾里 ハスミ
BL
騎士のジオ = マイズナー(主人公)は、前世の記憶を思い出す。自分は、どうやら大好きな乙女ゲーム『白百合の騎士』の世界に転生してしまったらしい。そして思い出したと同時に、衝動的に最推しのルーク団長に告白してしまい……!?  ルーク団長の事が大好きな主人公と、戦争から帰って来て心に傷を抱えた年上の男の恋愛です。

処理中です...