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 固まった笑顔とロッサお嬢の顔が青い……。前回、2人が出会ったとき、フォルテはロッサお嬢を見ても、自分の婚約者だとは気づかなかった。それは子供の頃に一回だけあったからだとロッサお嬢が言っていたが。

 二度目とも、なればどうなるのかわからない。ロッサお嬢はあの事があるから、自分がフォルテに婚約者だとバレるのが怖いんだな。

 色々終わった後で自分が転生したと気付いたんだ。それも、ベータ性をオメガ性だと偽り、フォルテの婚約者になっていた。それだけだったらよかったが。

 ロッサお嬢の両親は王家から贈られたものを売っぱらい旅行と買い物三昧。もし、バレたらロッサお嬢に罪を押し付け逃走すると。

 そして、ロッサお嬢も。

『バレた後――婚約破棄をされて国外追放か娼館行き、または城の牢屋に入れられたりするのよ……考えただけで怖い』

 と、前に来たとき話していた。ロッサお嬢はすんなり婚約破棄したいらしい。だからといって――フォルテとオレが浮気したと言うのも、なんだか、ちがう気がするともいっていた。

『なんとか穏便に解決したいわ……そうできないかもしれないけど』

 フォルテの運命の番だと。オレの名前、全てを公表しなくてはならない。

「ロッサ嬢、前にどこかで会ったことがあると思い出してね。君のことは調べたよ――君は私の婚約者だったんだね」

 あちゃ、バレてた。

「……ええ、そうですわ。バレてしまったのなら、フォルテ殿下に話すことがあります」

「ロッサお嬢、いいのか」
 
「いいわ。バレてしまったのだもの……仕方ない。こんなこと、隠し通せるものでもないし」

「そうだけどよ……」

 フォルテは目の前で見つめ合い、自分にはわからないことを話すオレとロッサお嬢に苛立ちを覚え、テーブルを力強く叩いた。

 ダン!!

「ヒッ」
「ルテ?」

 互いに手を取り合い、驚いた。
 
「私は自惚れてはいないが。普通は強いアルファを巡って仲たがいをするものだろう? タヤとロッサ嬢はそれをするわけでもない。――なにやら、私の知らない秘密を共有しているな」

 鋭い! ――しかし、フォルテに話すとなったらどこから話せばいい。オレとロッサお嬢が転生者と、転移者だということからか? それとも……ロッサお嬢がベータだという話からか?

 いや、いや。フォルテにすべてを話すには問題が大きすぎる。それに話すとなったら慎重に言葉を選んで、話さなくてはならない。だって、相手はこの国の第一王子で王族だ。その王子の一言でロッサお嬢の未来は決まる。
 
 そう考えているオレの隣で、ロッサお嬢は両手を強く握り、ふるえる口を開いた。
 
「フォルテ殿下、わ、私――オメガ性ではなく、ベータ性なんです」
 
「なに? ロッサ嬢がオメガではなくベータ性だと? ……貴様、性別を偽っていたのか!」

 フォルテの低音の声、ブワッと耳と尻尾の毛が逆立ったかのようにみえ。オレはとっさに隣のロッサお嬢を腕の中に抱きしめた。

「タヤ……」
「タヤ!」
 
 ロッサお嬢はフォルテの威圧に、オレの腕の中でカタカタ震えて、長い耳を後ろに倒してしまっている。

「それは誠なのか?」
 
「ま、待て! お、落ち着け、ルテ。ロッサお嬢はこうなることが分かりながら……お前に話したんだ! 彼女を怯えさせるなぁ!」

「しかしな」

 彼女を抱きしめ、フォルテを見つめながら震えるオレに、フォルテはギリっと牙を鳴らし、テーブルの上で手を強く握った。

「……クソッ! わ、わかった、落ち着く――それで? ほんとうにロッサ嬢はベータなのか? 私とタヤの仲を知り、嘘をついているとかはないのか?」

「は、はい、嘘ではありません」

 それを聞いた、フォルテは深いため息をついた。

「そうか……性別を偽ったことに対して、なんらかの罰を与えなくてはならないが……よかった。私に運命のつがいが見つかり、婚約者のロッサ嬢を傷付けてしまうのではないのかと考えていた。私と婚約破棄してもロッサ嬢は傷付かないのだな」

「ええ、傷付きません。むしろ、お2人の出会いに祝福をしますわ」

 ロッサお嬢はオレの腕の中でホッとしたようだ。
 これでロッサお嬢の国外追放、娼館、牢屋は回避できたのか。

「性別の偽りと、婚約破棄についてはゆっくり話を進めよう……それで、2人はいつまで私の前で抱きついているのかな?」

「え?」
「あっ!」
 
 ロッサお嬢がベータだと知って、毛が坂だったときより、フォルテのいまの雰囲気の方が怖かった。
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