26 / 59
25
しおりを挟む
お風呂上がり、部屋でまったりしている。フォルテの探していると言っていた、オレと同じ黒ウサギが気になると話した。
「いまから、3年前になるんだけど。シンガリアの森で魔物に襲われている、私と仲間を助けてくれた冒険者がいたんだ」
「冒険者?」
「その冒険者に珍しい回復魔法で傷を治してもらい。色々冒険者についても教えてもらった。次の日、お礼を言いに冒険者ギルドに行ったがその人は見つからなかった。それからも、何度か探しにギルドへは行ったが見つかない」
残念そうなフォルテ。
いま、フォルテの言った黒ウサギはまさしくオレだな。
嬉しくって、口元がゆるむ。
「へぇ。その黒ウサギはオメガで、その後ヒートがきて、しばらく外に出られなかったじゃないかな? フフ、フォルテはオレを探してくれたんだな」
微笑んで伝えれば。
フォルテの瞳が開く。
「そうなのか? あのとき、仲間と私を助けてくれた……冒険者はタヤだったのか」
「そうだよ。前髪は今よりも伸ばしていたし、首にマフラーを巻いて顔とか首を隠していたんだ……そうやってオメガだと、気付かれないようにしていたんだ」
「タヤ……」
フォルテとはオレは3年前に出会っていた。まさか、シンガリアの森でニャッチから助けた、あの子達がフォルテと側近達だとはな。
「ありがとう、タヤ。仲間と私を助けてくれて」
「いいや、オレがやれることをしたまでって、ちょっと待て……そのときのフォルテはオレと身長がほぼ変わらない子供だった。何? この、いまの体格の差は?」
頭ひとつ分以上ちがう身長差。
体格もずいぶんと男らしい。
「私達は成人したし、アルファだ。それに毎朝、騎士団と共に鍛えている。タヤはあの頃より可愛くなった」
「オレが可愛い? 違う……ルテが男らしくなったんだ!」
「いや、食べてしまいたいくらいに可愛くなった」
「食べっ?」
サラリといわれて照れる。何度もフォルテとキスをして……それ以上のことも。オレはフォルテに全てを奪われて、首を噛まれたいと思う自分がいると気付いた。
(フォルテというオスが欲しい)
この状態で次の"ヒート"が来たとき、オレはどうなってしまうのだろう。側にいないフォルテの指先を、声を、息遣いを思いだして欲を吐き出すんだろうか。
ヒートの日、フォルテに"そばにいて欲しい"とお願いしてもいいのかな? ……それは、オレのわがままなんだろうか。
時期は夏の手前。店が終わりモップ掛けながら……もうすぐ、ヒートが来るか? そんなことを考えていた。
「よっ、タヤ! 掃除が終わったら一緒に冒険へ行こう」
裏口から、フォルテがいつもの冒険の格好で入ってくる。あの日以来、フォルテに会うのは1週間ぶりだ。
「急ぎの仕事はもう、いいのか?」
「ああ、タヤに会いたくて速攻で終わらせた。……ハァ、1週間長かった……タヤ、会いたかった」
「オレも、ルテに会いたかったよ」
頬を寄せてスリスリするフォルテに、オレもスリスリを返す。
「おお、今日はやけに素直だな。この後、どうする? 上の部屋でまったりする? それとも隣街の冒険者ギルドで依頼を受けるか?」
この後か、どうするかな。
フォルテと上の部屋で、まったりするのもいいな。
「そうだ。抑制剤を作るときに使う、ロテッカという薬草を採取したい」
「ロテッカか、わかった。その前に腹ごしらえ。シンギさん、シュリンサンド3人前よろしく」
「フォルテ殿下、かしこまりました」
オレは店の仕事を終えて、フォルテと向かい合わせに座り、シュリンサンドが出来上がるのを話しながら待っていた。
(久しぶりに会ったフォルテが、さらに素敵に見える……これは、フォルテにオレが恋をしているからなのか?)
フォルテに見つめられて胸が高鳴り。長い指先、低い声に俺の心臓はもたない。でも、それを隠しながら学園の話、城での仕事の話をしていた。
閉店した店の入り口が空き「タヤいる?」と、ロッサお嬢がにこやかに顔を出した。前にロッサお嬢と出会ってから、彼女も熊クマ食堂へたまに来る様になって、前よりも仲良くなっている。
(まぁロッサお嬢とは、前世のゲームの話ばかりしているよな)
「こんにちは、ロッサお嬢」
「タヤ、昨日も来たのに……また来ちゃった」
「はあ? 昨日も来た?」
「え?」
にこやかに笑っていたロッサお嬢は、フォルテを見て固まり、カクカクしながらスカートを掴みカーテシをした。
「ル、ルーズベルト国の若き太陽、フォルテ殿下ごきげんよう」
なんとか、ひきつった笑顔で挨拶をしたあと。キッと、オレを見て"なんでいるのを教えないの?"と目で訴えてくる。それにオレは無理、無理と首を振った。
「ふーん、私が仕事でこられないあいだ、さらに2人は仲良くなったみたいだね、ロッサ嬢も隣に座る?」
「そ、そ、そんな恐れ多いですわ」
「遠慮なく座ったら?」
フォルテの圧力に負けて、オレの隣に座ったロッサお嬢だった。
「いまから、3年前になるんだけど。シンガリアの森で魔物に襲われている、私と仲間を助けてくれた冒険者がいたんだ」
「冒険者?」
「その冒険者に珍しい回復魔法で傷を治してもらい。色々冒険者についても教えてもらった。次の日、お礼を言いに冒険者ギルドに行ったがその人は見つからなかった。それからも、何度か探しにギルドへは行ったが見つかない」
残念そうなフォルテ。
いま、フォルテの言った黒ウサギはまさしくオレだな。
嬉しくって、口元がゆるむ。
「へぇ。その黒ウサギはオメガで、その後ヒートがきて、しばらく外に出られなかったじゃないかな? フフ、フォルテはオレを探してくれたんだな」
微笑んで伝えれば。
フォルテの瞳が開く。
「そうなのか? あのとき、仲間と私を助けてくれた……冒険者はタヤだったのか」
「そうだよ。前髪は今よりも伸ばしていたし、首にマフラーを巻いて顔とか首を隠していたんだ……そうやってオメガだと、気付かれないようにしていたんだ」
「タヤ……」
フォルテとはオレは3年前に出会っていた。まさか、シンガリアの森でニャッチから助けた、あの子達がフォルテと側近達だとはな。
「ありがとう、タヤ。仲間と私を助けてくれて」
「いいや、オレがやれることをしたまでって、ちょっと待て……そのときのフォルテはオレと身長がほぼ変わらない子供だった。何? この、いまの体格の差は?」
頭ひとつ分以上ちがう身長差。
体格もずいぶんと男らしい。
「私達は成人したし、アルファだ。それに毎朝、騎士団と共に鍛えている。タヤはあの頃より可愛くなった」
「オレが可愛い? 違う……ルテが男らしくなったんだ!」
「いや、食べてしまいたいくらいに可愛くなった」
「食べっ?」
サラリといわれて照れる。何度もフォルテとキスをして……それ以上のことも。オレはフォルテに全てを奪われて、首を噛まれたいと思う自分がいると気付いた。
(フォルテというオスが欲しい)
この状態で次の"ヒート"が来たとき、オレはどうなってしまうのだろう。側にいないフォルテの指先を、声を、息遣いを思いだして欲を吐き出すんだろうか。
ヒートの日、フォルテに"そばにいて欲しい"とお願いしてもいいのかな? ……それは、オレのわがままなんだろうか。
時期は夏の手前。店が終わりモップ掛けながら……もうすぐ、ヒートが来るか? そんなことを考えていた。
「よっ、タヤ! 掃除が終わったら一緒に冒険へ行こう」
裏口から、フォルテがいつもの冒険の格好で入ってくる。あの日以来、フォルテに会うのは1週間ぶりだ。
「急ぎの仕事はもう、いいのか?」
「ああ、タヤに会いたくて速攻で終わらせた。……ハァ、1週間長かった……タヤ、会いたかった」
「オレも、ルテに会いたかったよ」
頬を寄せてスリスリするフォルテに、オレもスリスリを返す。
「おお、今日はやけに素直だな。この後、どうする? 上の部屋でまったりする? それとも隣街の冒険者ギルドで依頼を受けるか?」
この後か、どうするかな。
フォルテと上の部屋で、まったりするのもいいな。
「そうだ。抑制剤を作るときに使う、ロテッカという薬草を採取したい」
「ロテッカか、わかった。その前に腹ごしらえ。シンギさん、シュリンサンド3人前よろしく」
「フォルテ殿下、かしこまりました」
オレは店の仕事を終えて、フォルテと向かい合わせに座り、シュリンサンドが出来上がるのを話しながら待っていた。
(久しぶりに会ったフォルテが、さらに素敵に見える……これは、フォルテにオレが恋をしているからなのか?)
フォルテに見つめられて胸が高鳴り。長い指先、低い声に俺の心臓はもたない。でも、それを隠しながら学園の話、城での仕事の話をしていた。
閉店した店の入り口が空き「タヤいる?」と、ロッサお嬢がにこやかに顔を出した。前にロッサお嬢と出会ってから、彼女も熊クマ食堂へたまに来る様になって、前よりも仲良くなっている。
(まぁロッサお嬢とは、前世のゲームの話ばかりしているよな)
「こんにちは、ロッサお嬢」
「タヤ、昨日も来たのに……また来ちゃった」
「はあ? 昨日も来た?」
「え?」
にこやかに笑っていたロッサお嬢は、フォルテを見て固まり、カクカクしながらスカートを掴みカーテシをした。
「ル、ルーズベルト国の若き太陽、フォルテ殿下ごきげんよう」
なんとか、ひきつった笑顔で挨拶をしたあと。キッと、オレを見て"なんでいるのを教えないの?"と目で訴えてくる。それにオレは無理、無理と首を振った。
「ふーん、私が仕事でこられないあいだ、さらに2人は仲良くなったみたいだね、ロッサ嬢も隣に座る?」
「そ、そ、そんな恐れ多いですわ」
「遠慮なく座ったら?」
フォルテの圧力に負けて、オレの隣に座ったロッサお嬢だった。
2
お気に入りに追加
438
あなたにおすすめの小説
夏の扉を開けるとき
萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」
アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。
僕の心はきみには見えない――。
やっと通じ合えたと思ったのに――。
思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。
不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。
夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。
アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。
*****
コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。
注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。
(番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)
【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
うずみどり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
黒豹拾いました
おーか
BL
森で暮らし始めたオレは、ボロボロになった子猫を拾った。逞しく育ったその子は、どうやら黒豹の獣人だったようだ。
大人になって独り立ちしていくんだなぁ、と父親のような気持ちで送り出そうとしたのだが…
「大好きだよ。だから、俺の側にずっと居てくれるよね?」
そう迫ってくる。おかしいな…?
育て方間違ったか…。でも、美形に育ったし、可愛い息子だ。拒否も出来ないままに流される。
俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい
綾里 ハスミ
BL
騎士のジオ = マイズナー(主人公)は、前世の記憶を思い出す。自分は、どうやら大好きな乙女ゲーム『白百合の騎士』の世界に転生してしまったらしい。そして思い出したと同時に、衝動的に最推しのルーク団長に告白してしまい……!?
ルーク団長の事が大好きな主人公と、戦争から帰って来て心に傷を抱えた年上の男の恋愛です。
鬼に成る者
なぁ恋
BL
赤鬼と青鬼、
二人は生まれ落ちたその時からずっと共に居た。
青鬼は無念のうちに死ぬ。
赤鬼に残酷な願いを遺し、来世で再び出逢う約束をして、
数千年、赤鬼は青鬼を待ち続け、再会を果たす。
そこから始まる二人を取り巻く優しくも残酷な鬼退治の物語――――
基本がBLです。
はじめは精神的なあれやこれです。
鬼退治故の残酷な描写があります。
Eエブリスタにて、2008/11/10から始まり2015/3/11完結した作品です。
加筆したり、直したりしながらの投稿になります。
スノードロップ
さくら
BL
上手くかけるか分かりませんが、呼んでくれると叫びながら喜びます
一応書いてはいますが、ちょっとずつしか書いてないので更新遅いです
王道学園に入学した凛くんのお話です。もし良ければ読んでってください
転校生が出てくるまで時間かかります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる