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二十九

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 ――カイザー様のすべてが欲しい。
 
 そう、願うリリはなんてはしたないの……でも、熱くて、好きなカイザーのことしか考えれない。

「欲しい――カイザー様が欲しいの」

 吐息を吐くようにつぶやかれたリリの言葉は、カイザーの理性をこわす。小さなくちびるを奪い、おのれの熱をねじり込み、小さな熱いリリの舌を……クッ。

(リリの熱と、熱い瞳に理性がとぎれるとこだった)

「屋敷に戻ったら、すぐに医師を呼ぼう」

 ――医者?

「もう、カイザー様はこんなに頼んだも、くれないの?」

「…………リリ」

 拗ねたような甘えた声と、涙目で見つめられて。
 気付けばカイザーは、リリの唇を乱暴に奪っていた。

「ンッ、ふわぁっ…………カイザーさぁ、ま」

 甘い、蜜なようなリリの唇と、柔らかな体。
 その体をくっけられて、どう足掻けばいい? 抱かずにはいられないが……リリのようすがきになる。

「……カイザー様。もっと、して」

 いつもと違う、リリのこの様子は。

 ――まさか、発情?

 リリが先祖返りをした後に調べた。
 オオカミは十月から三月あたりだと書いてあったな……冬の間に子を宿して春に生むとも。

(時期はあっているが……先祖返りしたばかりの、リリは何に触発されて発情したのか?)

 まさか、リリの元婚約者――ルーズベルトではあるまいな、嫉妬に似た気持ちで激しくリリにキスをした。

(カイザー様との熱いキス、ああ……っ、あぁあ!)
 
「…………」

「……ハァハァ、リリ?」

 キスのあとカイザーの胸に頬を染めたまま、リリは倒れこんだ。

 しまった、やりすぎた。

  


 屋敷に着くとすぐ、カイザーは自分の専属の医者を屋敷に呼んだ。一時間後――訪れた医師はリリを診察して、こうカイザーにこうのべた。

「バルムンク公爵。奥様は強いオスに触発されて、発情期に入られました」

 やはり発情か……しかし。

「強いオス? ――それは誰のことだ?」

「おわかりにならない? あなた様です――バルムンク公爵様です。奥様はあなた様を求めていらっしゃいます」

 ――リリが、俺を求めている?

「そうですか……」

 危なかった――ここで違う名前がでたら、そいつを闇に葬るところだった。

「これ以上の診察は無意味。夫婦のことは夫婦で。バルムンク公爵、奥様を愛してあげてください」

「――リリを愛するか、わかった。忙しいところ来ていただき、ありがとうございました」

「いいえ、今度呼ばれるときは懐妊のときですな。フオッホホ」

 専属の医師は「バルムンク公爵にいい人がみつかって、よかった」と帰っていった。

 
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