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十九

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「いくら政略結婚だからといって愛人にのぼせ上がり、血の繋がった実の娘すら大切にできないのか……器の小さいな男だな……」

 執事、メイド達との話が終わり、カイザーは皮肉めいた言葉を残した。その後、執務に戻ったカイザーだが、その日一日は機嫌が悪かったと執事のロバートは語った。

 しかし、夕食のとき愛しいリリと過ごし、寝室でもお酒を飲みながらリリと過ごしたカイザーの機嫌は、直ぐになおったそうだ。


 リリがカイザーの元に来て一週間が立つ。
 辺境地の新たな領主となったカイザーは領地について覚えること、執務に追われていて、なかなかリリと話す時間をとれずにいた。

(大切な話だ――サッと話すのではなく、リリの様子を見ながら話したい)

 リリもまた結婚式の衣装決めや、バラの商品の開発にたずさわり、日々を忙しく過ごしている。

 ――今日の午後。

 カイザーはリリを執務室に呼んだ。仕事と、バラのこと――そして、リリに話すためである。







 ――カイザー様の執務室に呼ばれるなんて、緊張するわ。
 
 カイザーと会うのはもっぱら朝の庭園の手入れと、三度の食事、お茶の時間と夜である。――リリは入る前に深呼吸をしてカイザーの執務室の扉をノックした。

 コンコンコン「リリアムです」というと、すぐに入るように言われた。

「失礼します、カイザー様」

 ロバートに扉を開けてもらい、礼をして中に入ると執務室の真ん中の奥――執務机で書類に目を通すカイザーを見た。彼は、いつもはしないメガネをかけている。

(ステキ、カッコいい……)

 一週間の間、時間があればカイザーと過ごして、主人の気持ちを汲み取りブンブン揺れてしまう尻尾。――それをどうにか緩やかにゆれる程度まで、リリの気持ちは落ち着いていたのに。

「いらっしゃい、リリ。最近忙しくてすまんな……ソファーに座ってくれ」

「……はい」

 ――流れる仕草と、シャツを盛り上げる鍛えられた筋肉、お似合いのメガネ……

(……クッ)

 リリの尻尾は全力で揺れた。
 もう止まらないくらい、ブンブンとソファーに座る前に盛大にゆれる尻尾が恥ずかしくて、顔を真っ赤にさせてリリは俯いてしまった。


 ――そんなリリの姿を見て、書類から目を離したカイザーは驚いたものの。リリが自分を見て何か喜ぶことがあったのだなと、顔にはだはず、心の中で喜びを噛み締めた。

(リリは僕のことを好きなんだな……と、自惚れてしまうよ、いや、自惚れているな)

 カイザーは書類を置きロバートにお茶を頼んで、盛大に照れるリリのもとにいき、彼女の手を引いた。

「きゃっ」

 カイザーのいきなりの行動に驚くリリと、口角をあげるカイザー。

 なんとカイザーはリリを横抱きにして、自分の膝の上にリリを乗せてソファーに座ったのだった。 
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