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 十歳の時に病弱のラローラお母様が病気で他界してすぐ、マーベラスお父様が迎え入れた後妻とその娘。お父様は病気のお母様を心配するふりをして、社交界で美人と噂の、未亡人カルランと浮気をしていた。

(ラローラお母様が亡くなって悲しむのはリリと、お母様のお世話をしていた使用人たちだけ……)


 彼女らが屋敷に来て数日後。
 リリは生前お母様が使用していた部屋によく訪れていた。お父様はラローラお母様が亡くなってから変わった。元々愛情の少ないお父様はリリではなく、新しく来た義妹ばかりを可愛がる。

 リリはひとりが寂しくて、この部屋でお母様の肖像画に話し掛けていた。

『ラローラお母様、リリがお父様をエントランスでお出迎えしても知らんふりで、妹のミサエラばかり可愛がって見向きもしないの』

『食事だってリリは離れた席で、三人が仲良く食事をする姿を眺めているだけ』

(ラローラお母様……私、寂しい)

 リリはここでお母様が愛用していたドレス、アクセサリーケースを眺めるのが好きだった。亡くなる前に『この部屋にある物すべて、リリにあげるわね。この銀の髪飾りも……』と、お母様から譲り受けていた。

(ここは私だけの大切な部屋)

 お母様に庭の花達を見せようと窓を開けた。

 開けたすぐ庭園の花の香りが部屋を満たした。リリは大好きだったお母様との散歩を思い出して、あのとき着ていた花柄のドレスを、クローゼットから取り出そうと開けた。

 え、

(う、嘘……大好きなお母様の花柄のドレスがない? ううん、他のドレスもなくなっているわ)

 少し前までたくさんかけてあったお母様のドレスが、ごっそり無くなっている。ジュエリーケースを確認すると中のアクセサリーも減っていた。

『どういうことなの?』
 
 リリがアクセサリーケース前で驚きを隠せないでいると、いきなりお母様の部屋の扉が開き。陽気な鼻歌混じりで『今日はどれを売ろうかしら?』と義妹のミサエラが入ってきた。

 彼女はこの部屋にリリがいることを見て、驚いた表情をした。

『あら、部屋を間違えたわ』

『待ちなさい、ミサエラ。"いまどれを売ろうか"と言っていたわよね。ここにあるお母様が遺したものを勝手に売っていたの?』

 リリが問い詰めると、開き直るミサエラ。

『そうよ、使わない物をいつまでも置いておくのは勿体無いじゃない。売ってお金にして新しい物を買った方がいいわ』

 笑って話すミサエラにリリは。

『待って、この部屋にある物はすべてお母様から譲り受けた私の物よ。返して!』

『ええ、お父様もお母様もこの部屋の物は私の好きにしていいと言ってくれたわ。お母様もよく売っていたし、ここにある物すべて、私とお母様の物のだわ』

『酷い……ラローラお母様の思い出の品ばかりなのに』

 カルラン義母様とミサエラ義妹はーーリリがお母様から譲り受けた品を勝手に売ってお金に変えていた。リリはすぐにその事を書斎にいるお父様に涙ながら告げた。

『お父様、聞いてください。カルランお義母様と義妹が……勝手に私の大事なお母様の品を売ってしまったわ』

 書斎で執務中のお父様は、目を通していた書類を置き、ため息をついた。

『そんな、使わない物、別にいいだろ? リリアム、私は今忙しい、こんな用事で書斎に来るな。屋敷の事は全てカルランに任せているのだ、リリアムは母親の言う事を聞きなさい』

 と、冷たい言葉でリリは追い出された。

(こんな用事で来るなって、マーベラスお父様はラローラお母様をもう愛していないの?)

『お父様、酷い……何を言っても話を聞いてくれないのは、カルランお義母様の方なのに!』   

 書斎室の前で泣き叫んだ。


 お父様は美人と評判のカルランお義母様と、フワフワなピンクゴールド髪の可愛い義妹のミサエラに夢中で、リリの話は聞いてくれない。

 いつしかあの部屋の家具も、ベッド、あらゆる家具、お母様との思い出の品はすべてなくなってしまった、そして部屋を改装してカルランは自分の部屋にした。


 ――私の唯一の、心の拠り所がなくなってしまったわ。
 
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