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3話

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 マリーナの記憶で書庫は屋敷の西側だ。そこに向かう途中、屋敷で働くメイド、使用人とすれ違うことはなかった。

 その理由も私は知っている。この屋敷で働いているのはお父様の執事、専属のメイド。お母様の専属のメイド、私のメイドと料理人しかいない。乱暴者の私が気に食わないと言って、何人ものメイドを辞めさせたせいだ。

 だからといっても屋敷の中は汚れていない、埃もなく綺麗だ。それは3日に一度、屋敷の掃除、洗濯に来る雇われのメイド達が数名いるから。

(お父様が考えたこの方法でなら、引きこもりのマリーナに会わなくて済む。忙しい両親にとってはありがたいだろうけど……マリーナがどうしてこうなったのか、考えて欲しかったな)

 私としては、マリーナばかり悪くないと思う。
 ケガをさせてしまうのは、いけないことだけどね。


 ここが書庫か、木製の扉を開けた。

(うわぁ!!)

 開けてすぐ、シャンデリアに火が灯ったのにも驚いたけど――書庫の中は古い本の香りがして、部屋の壁に沿って、天井まで本棚がコの字に並んでいた。
 ほぉ。上の手が届かない本は、あの階段をかけて登り取るのか。

 すごい……難しそうな本ばかり並んでる。

 はたして、ここに私にも読める本はあるのだろうか? 本棚を見回すと下の段に子供用の絵本が並んでいた。

 これマリーナが読んでいた絵本だ、その中に【良い子の魔法】【良いこの冒険】と書いてあった本があった。

(記憶にないから、マリーナはどっちの本も読んでないのか)

 それを本棚から取り出し、近くに置いてあった木製の椅子に腰掛けた。

 うーん。魔法の本も気になるけど"冒険の本"からみようかな?

 本を開くと鎧を身に付けた男の子のイラストが書いてあった。あれ、これ手書きの絵本だ――もしかして、お父様かお母様が書いたのかな?


 私は冒険の本をめくった。

『ボクは冒険者になりたい! まずは冒険者ギルドに行って登録だ。ギルドの受付のお姉さんに伝えて登録しなくてはならない。この時、水晶を触り冒険者ランクを調べるんだ』

 おお!

『登録完了、ボクは冒険者になったぞ! ボクの冒険者のランクはFランク! 次に、ボクのランクにあった依頼を受けてダンジョンでモンスターを倒して、魔石を手に入れるぞ!』

(ダンジョンに魔石! ファンタジーの世界!)

『ダンジョンで、モンスターを倒して魔石をゲットしたぞ。この魔石には2種類あるんだ。『魔結石』はモンスターから入手ができ、火や風や雷など特定の魔力を秘めていて、魔法が使えない者でも魔法が使える。だが、使用できる魔法は魔結石が持つ力の領分を越えない。魔力石は単に魔力が詰まった石。魔法使いが自作して魔力の枯渇の時に使用する』

 モンスターから手に入る魔結石と、自分で作る魔力石があるのかーー面白い。

『ボクが冒険者として、モンスターを倒して集めた魔石(魔結石)はね。一旦シュタイン国にある一番大きなハンターギルドが回収するんだ』 

 シュタイン国は――私が住むロベルト国の東側の国境を超えた先にある隣国。

『シュタイン国から、魔法大国クエルノ国に魔石は集められて。クエルノ国の国家許可のある錬金術師が魔導具を作るときに使用する』

 へぇ、東側の隣国シュタイン国に集められた魔石は、魔法大国クエルノに集まって、錬金術師によって魔導具が作られているのか。

 魔法大国クエルノは確か、ロベルト国の南側にある大国だったかな? 冒険の本の最後のページをめくった。

「ん、あれっ? ここに何か書いてある」

 そこを読むと、クエルノ大国では魔法の家財道具が作られていて、各諸国の貴族の間では大人気。調理場やお風呂など、あらゆる所で使用されている。

 となると、ウチにもあるんじゃない!
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