上 下
62 / 75

61話

しおりを挟む
 宿屋前に呼んだ馬車に乗り込み、王城へと向かう。また王城の中へと繋がる石造りの門の前で、多くの貴族達の馬車が順番待ちで渋滞する。

 これも毎度のこと。

「アオ君、シュシュ、まったり行きましょう」
「はい、王都の入都門で嫌ほどわかりました」
「俺もだ」

 入都門でのことを思い出した、アオ、シュシュ。そんな2人に、カサンドラは笑い。

「フフ、覚悟しているところ悪いのだけど……ここから先、王城に入ったら私達の味方はいないわ。でも億劫にならない、私達は何も悪いことをする為に、来たのではないのだから――堂々と胸を張りましょう」

 カサンドラの表情と言葉に納得したのか、アオとシュシュは頷いた。貴族は気持ちで左右されたら、或ることないないことで踊らされて……おとされる。

 巻き戻る前の私は感情を表してしまい、シャリィの手の上で簡単に踊ってしまった……2度とそうならない自信がある。カサンドラが大切にしたい、カサンドラを大切にしてくれる、シュシュとアオが居るから。

(それが――今の、私の心の全部を占めているわ)

 シャリィ、あなたに伝えたい。毒を盛らなくても、カサンドラはあなたの邪魔はしない。あなたはあなたの道を進んで欲しいと、カサンドラは強く願う。

「ドラ、馬車が動く」
「ええ、私達の戦場へ向かうわよ!」

「おう!」
「はい」

 カサンドラ達が乗った馬車は門を通り過ぎて、王城の入り口で止まった。先に降りたアオの手を借りて、馬車を降りたカサンドラは、届いた招待状を案内係のメイドに見せる。

 案内係のメイドは招待状に記された「カサンドラ・マドレーヌ」の名を確認して、メイドはカサンドラを再び見た。
 その態度に、カサンドラは心の中でため息をつく。
 
 メイド達の間で噂していたのか。はたまた……メイド達の間で。カサンドラが賭けの対象にでも、されていたのだろう。今宵の舞踏会へ、アサルト皇太子殿下の元婚約者が本当に来たと、メイドの瞳は好奇心と喜びに満ちていた。

(賭けの対象にされることは良くある事、怒るほどではないわ)

「どうされました? 私達を案内してくださらないの?」

「し、失礼いたしました、舞踏会の会場までご案内いたします」

「よろしく」

 頭を下げて、メイドは舞踏会の会場までカサンドラ達を案内する。その後を――カサンドラはアオの腕に手を乗せて、エスコートされて歩こうとした。そのとき香ったかおりに、カサンドラの体が反応して、手が熱くなるのを感じた。

(あぁ、アオ君から私と同じ香りがして……鼓動が跳ねたわ)

 宿屋を出る前、アオの髪を整えた整髪料はカサンドラの物だから、同じ香りがするのはあたりまえだった。気を張っていたカサンドラに、これは不意打ちだった。

 それをカサンドラの緊張だと感じ取った、アオが心配して足を止めた。
 
「カサンドラ様?」

 彼の瞳が平気かと聞いてくる、それに口元だけで笑い。

「何もなくてよ、アオ、シュシュ行きしよう」
「……はい」
「かしこまりました」

 メイドの案内で、舞踏会への会場へと向かった。




 ♱♱♱;




 カサンドラ達は舞踏会の会場横に用意された、待合室へと案内される。そこは一部屋ではなくて、数名の貴族達と同じ待合室のようだ。

 ――家族と一緒よりはいいわね。

「マドレーヌ様、しばらくここでお待ちください」
「ええ案内、ありがとう」

 メイドは頭を下げると、カサンドラの招待状を呼び出し係に渡して下がっていった。

 この場で、名前を呼ばれるまで待っている他の貴族達は、現れたカサンドラをチラチラ見てくる。好奇心の視線に慣れてはいるが、あまり気分のいいものではない。それに気付きアオとシュシュが壁になり、カサンドラが他の貴族に見えないよう隠した。

 なんて、頼もしい2人なのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか。お好きにどうぞ

神崎葵
恋愛
シェリル・アンダーソンは侯爵家の一人娘として育った。だが十歳のある日、病弱だった母が息を引き取り――その一年後、父親が新しい妻と、そしてシェリルと一歳しか違わない娘を家に連れてきた。 これまで苦労させたから、と継母と妹を甘やかす父。これまで贅沢してきたのでしょう、とシェリルのものを妹に与える継母。あれが欲しいこれが欲しい、と我侭ばかりの妹。 シェリルが十六を迎える頃には、自分の訴えが通らないことに慣れ切ってしまっていた。 そうしたある日、婚約者である公爵令息サイラスが婚約を破棄したいとシェリルに訴えた。 シェリルの頭に浮かんだのは、数日前に見た――二人で歩く妹とサイラスの姿。 またか、と思ったシェリルはサイラスの訴えに応じることにした。 ――はずなのに、何故かそれ以来サイラスがよく絡んでくるようになった。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

陰謀は、婚約破棄のその後で

秋津冴
恋愛
 王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。  いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。  しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。  いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。  彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。  それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。  相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。  一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。  いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。  聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。  無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。  他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。  この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。  宜しくお願い致します。  

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

令嬢は魅了魔法を強請る

基本二度寝
恋愛
「お願いします!私に魅了魔法をかけてください」 今にも泣きそうな声で取り縋る令嬢に、魔法師団の師長を務める父を持つ子爵家の子息、アトラクトは慌てた。 魅了魔法などと叫ばれ周囲を見回した。 大昔、王室を巻き込んで事件の元となった『魅了魔法』は禁術となり、すでに廃術扱いの代物だった。 「もう、あの方の心には私が居ないのです。だから…」 「待て待て、話をすすめるな」 もう失われている魔法なのだと、何度説明しても令嬢は理解しない。 「私の恋を終わらせてください」 顔を上げた令嬢に、アトラクトは瞳を奪われた。

処理中です...