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61話
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宿屋前に呼んだ馬車に乗り込み、王城へと向かう。また王城の中へと繋がる石造りの門の前で、多くの貴族達の馬車が順番待ちで渋滞する。
これも毎度のこと。
「アオ君、シュシュ、まったり行きましょう」
「はい、王都の入都門で嫌ほどわかりました」
「俺もだ」
入都門でのことを思い出した、アオ、シュシュ。そんな2人に、カサンドラは笑い。
「フフ、覚悟しているところ悪いのだけど……ここから先、王城に入ったら私達の味方はいないわ。でも億劫にならない、私達は何も悪いことをする為に、来たのではないのだから――堂々と胸を張りましょう」
カサンドラの表情と言葉に納得したのか、アオとシュシュは頷いた。貴族は気持ちで左右されたら、或ることないないことで踊らされて……おとされる。
巻き戻る前の私は感情を表してしまい、シャリィの手の上で簡単に踊ってしまった……2度とそうならない自信がある。カサンドラが大切にしたい、カサンドラを大切にしてくれる、シュシュとアオが居るから。
(それが――今の、私の心の全部を占めているわ)
シャリィ、あなたに伝えたい。毒を盛らなくても、カサンドラはあなたの邪魔はしない。あなたはあなたの道を進んで欲しいと、カサンドラは強く願う。
「ドラ、馬車が動く」
「ええ、私達の戦場へ向かうわよ!」
「おう!」
「はい」
カサンドラ達が乗った馬車は門を通り過ぎて、王城の入り口で止まった。先に降りたアオの手を借りて、馬車を降りたカサンドラは、届いた招待状を案内係のメイドに見せる。
案内係のメイドは招待状に記された「カサンドラ・マドレーヌ」の名を確認して、メイドはカサンドラを再び見た。
その態度に、カサンドラは心の中でため息をつく。
メイド達の間で噂していたのか。はたまた……メイド達の間で。カサンドラが賭けの対象にでも、されていたのだろう。今宵の舞踏会へ、アサルト皇太子殿下の元婚約者が本当に来たと、メイドの瞳は好奇心と喜びに満ちていた。
(賭けの対象にされることは良くある事、怒るほどではないわ)
「どうされました? 私達を案内してくださらないの?」
「し、失礼いたしました、舞踏会の会場までご案内いたします」
「よろしく」
頭を下げて、メイドは舞踏会の会場までカサンドラ達を案内する。その後を――カサンドラはアオの腕に手を乗せて、エスコートされて歩こうとした。そのとき香ったかおりに、カサンドラの体が反応して、手が熱くなるのを感じた。
(あぁ、アオ君から私と同じ香りがして……鼓動が跳ねたわ)
宿屋を出る前、アオの髪を整えた整髪料はカサンドラの物だから、同じ香りがするのはあたりまえだった。気を張っていたカサンドラに、これは不意打ちだった。
それをカサンドラの緊張だと感じ取った、アオが心配して足を止めた。
「カサンドラ様?」
彼の瞳が平気かと聞いてくる、それに口元だけで笑い。
「何もなくてよ、アオ、シュシュ行きしよう」
「……はい」
「かしこまりました」
メイドの案内で、舞踏会への会場へと向かった。
♱♱♱;
カサンドラ達は舞踏会の会場横に用意された、待合室へと案内される。そこは一部屋ではなくて、数名の貴族達と同じ待合室のようだ。
――家族と一緒よりはいいわね。
「マドレーヌ様、しばらくここでお待ちください」
「ええ案内、ありがとう」
メイドは頭を下げると、カサンドラの招待状を呼び出し係に渡して下がっていった。
この場で、名前を呼ばれるまで待っている他の貴族達は、現れたカサンドラをチラチラ見てくる。好奇心の視線に慣れてはいるが、あまり気分のいいものではない。それに気付きアオとシュシュが壁になり、カサンドラが他の貴族に見えないよう隠した。
なんて、頼もしい2人なのだろう。
これも毎度のこと。
「アオ君、シュシュ、まったり行きましょう」
「はい、王都の入都門で嫌ほどわかりました」
「俺もだ」
入都門でのことを思い出した、アオ、シュシュ。そんな2人に、カサンドラは笑い。
「フフ、覚悟しているところ悪いのだけど……ここから先、王城に入ったら私達の味方はいないわ。でも億劫にならない、私達は何も悪いことをする為に、来たのではないのだから――堂々と胸を張りましょう」
カサンドラの表情と言葉に納得したのか、アオとシュシュは頷いた。貴族は気持ちで左右されたら、或ることないないことで踊らされて……おとされる。
巻き戻る前の私は感情を表してしまい、シャリィの手の上で簡単に踊ってしまった……2度とそうならない自信がある。カサンドラが大切にしたい、カサンドラを大切にしてくれる、シュシュとアオが居るから。
(それが――今の、私の心の全部を占めているわ)
シャリィ、あなたに伝えたい。毒を盛らなくても、カサンドラはあなたの邪魔はしない。あなたはあなたの道を進んで欲しいと、カサンドラは強く願う。
「ドラ、馬車が動く」
「ええ、私達の戦場へ向かうわよ!」
「おう!」
「はい」
カサンドラ達が乗った馬車は門を通り過ぎて、王城の入り口で止まった。先に降りたアオの手を借りて、馬車を降りたカサンドラは、届いた招待状を案内係のメイドに見せる。
案内係のメイドは招待状に記された「カサンドラ・マドレーヌ」の名を確認して、メイドはカサンドラを再び見た。
その態度に、カサンドラは心の中でため息をつく。
メイド達の間で噂していたのか。はたまた……メイド達の間で。カサンドラが賭けの対象にでも、されていたのだろう。今宵の舞踏会へ、アサルト皇太子殿下の元婚約者が本当に来たと、メイドの瞳は好奇心と喜びに満ちていた。
(賭けの対象にされることは良くある事、怒るほどではないわ)
「どうされました? 私達を案内してくださらないの?」
「し、失礼いたしました、舞踏会の会場までご案内いたします」
「よろしく」
頭を下げて、メイドは舞踏会の会場までカサンドラ達を案内する。その後を――カサンドラはアオの腕に手を乗せて、エスコートされて歩こうとした。そのとき香ったかおりに、カサンドラの体が反応して、手が熱くなるのを感じた。
(あぁ、アオ君から私と同じ香りがして……鼓動が跳ねたわ)
宿屋を出る前、アオの髪を整えた整髪料はカサンドラの物だから、同じ香りがするのはあたりまえだった。気を張っていたカサンドラに、これは不意打ちだった。
それをカサンドラの緊張だと感じ取った、アオが心配して足を止めた。
「カサンドラ様?」
彼の瞳が平気かと聞いてくる、それに口元だけで笑い。
「何もなくてよ、アオ、シュシュ行きしよう」
「……はい」
「かしこまりました」
メイドの案内で、舞踏会への会場へと向かった。
♱♱♱;
カサンドラ達は舞踏会の会場横に用意された、待合室へと案内される。そこは一部屋ではなくて、数名の貴族達と同じ待合室のようだ。
――家族と一緒よりはいいわね。
「マドレーヌ様、しばらくここでお待ちください」
「ええ案内、ありがとう」
メイドは頭を下げると、カサンドラの招待状を呼び出し係に渡して下がっていった。
この場で、名前を呼ばれるまで待っている他の貴族達は、現れたカサンドラをチラチラ見てくる。好奇心の視線に慣れてはいるが、あまり気分のいいものではない。それに気付きアオとシュシュが壁になり、カサンドラが他の貴族に見えないよう隠した。
なんて、頼もしい2人なのだろう。
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