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56話

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 朝食に向かうからシュシュと、アオを呼びに向かった。部屋から「おう」っと、アオは眠そうな顔を覗かせた。ベッドが合わなかったのか、あまり眠れていないみたい。

「アオ君、眠そうだけど、ベッドが合わなかった?」

「いいや、よく寝たよ」

 わかりやすい嘘をつくアオに、カサンドラは話を聞こうと思ったけど……素直に話してくれる訳ないかと、聞くのを諦めた。まだ王都までは長い、馬車の中で眠ればいいともカサンドラは思った。

(人の国で緊張しているのかしら? 何も、教えていただけないのは……少し悲しいけど仕方ないわね)

「シュシュ、アオ、朝食に行きましょう」
「おう、腹減った」
「行きましょう、お腹空きました」

 カサンドラ達は宿屋の大広間で、ビュッフェスタイルの朝食を終えた。そろそろチェックアウトの時間を迎え、カウンターでお礼と鍵を返して。宿屋前で御者が準備を終えた馬車に、カサンドラ達は荷物をしまい乗り込む。

「アオ君、シュシュ、宿屋に忘れのは無いかしら?」

「んー、ないな」
「私も、ありません」

 出発の合図を出すため、中から紐を引き、御者に声をかけた。

「本日もよろしくお願いします、出してください」

「かしこまりました」

 緩やかに走り出した馬車。アオは乗ったすぐに眠り、カサンドラは地図を開き、これからの馬車の道を確認した。

 シュシュと相談して昼食はパスタが美味しい、クローネの街で取ることに。夜は王都の近くのシチューの美味しい、ワルクの街で一泊して――翌日、王都に入都する予定を立てた。

 ――早く、王都に到着すればいいけど、まだ何があるかわからない。みんなと王都観光もしたいけど、安全が1番だ。

 だが、カサンドラの心は王都観光を待ち侘びている。ズッと、屋敷と王城だけを行ったり来たりしていた。そのため、10歳の頃から8年ものあいだ通ったのに、王都にどのような店があるか、カサンドラは知らなかった。

 本当なら、友達を作りケーキ屋巡り、流行りのコスメ、ドレス見てまわりたかった。だけど、皇太子の婚約者というだけで誰も近寄らない。近寄ってくるものは、カサンドラを蹴落とそうとする者ばかり。

 ひとたりとも、気は抜けなかった。

(ふうっ。それに……アサルト皇太子殿下の婚約者のときは隣国の言語、貿易、嗜好品、覚えることが多すぎて、景色を眺めることも出来なかった……)

「ドラお嬢様、クローネの街に着きましたら起こしますので、少しお眠りになりますか?」

「そうね、街についたら起こして」
「はい、かしこまりました」

 外の景色を眺め、カサンドラが気を落ちしたと気付き、休むように優しい言葉をかけてくれたシュシュに、カサンドラは心の中で「ありがとう」と感謝して目を瞑った。
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