上 下
55 / 75

55話

しおりを挟む
 アオが、カサンドラをエスコートしようとした。その手を重ねたとき、カサンドラの心はまた跳ねる。

(な、なんなのこれ?)

 そこでカサンドラは「わがまま令嬢と優しき側近」の本を思い出した。令嬢がエスコートされるとき、側近に触れると心が乱れると書いてあった。今のカサンドラがその状態だともいえる。

 ――まさかね。アオ君は素敵だわ、側近じゃないけど、私の騎士……⁉︎

「ドラ、顔が真っ赤だけど体調が悪いのか? 行くのをやめて引き返すか?」
 
「ち、違うから気にしないで……」

 今のカサンドラにはこの言葉を言うだけで、精一杯だった。シュシュはそんなカサンドラを見て、何か気付いたのか優しく見つめてきた。

(あぁ、シュシュは気付いたようね)

「シュシュ、今は何も言わないで」
「はい、かしこまりました」

「アオ君も舞踏会が終わるまで、私が変でも何も聞かないで」

 ああと頷いたアオ、それすら素敵に見えてしまう。舞踏会が終わった後でこの気持ちを認めよう。変に浮かれてしまって、みんなを危険に晒すかもしれない――と、カサンドラは気を引き締めた。

 チリルの街でラザニアとパン、サラダを買い馬車に戻る。御者はカサンドラ達よりも先に戻り休憩していた。
 お昼を終わらせて、今晩の宿を取るゴロールの街まであと5時間、6時過ぎには宿屋に入れるはず。

「少し眠るわ」
「俺も寝る」
「はい、ごゆっくりお眠りくださいませ」

 カサンドラとアオが眠るのを見て、シュシュは眠らず好きな読書を始めた。その本は騎士と令嬢の恋物語――まさにカサンドラとアオのよう。2人の恋物語を見たいと思うシュシュだったけど。

 買い物に出たマサンの街、先ほどのチリルの街でもカサンドラは考え事をする仕草をしていた。そして、何かに怯えているようにも見えた。
 
 アオもそれに気付いていて移動中は眠り、ゴロールの街で一晩中見張るつもりのようだ。シュシュは、移動中は眠らず、出来る範囲で辺りを気にしている。

 ――2人は大好きなカサンドラを守りたいのだ。


 5時間後、ゴロールの街に着き、この街で高級な宿屋にカサンドラ達は荷物を持ち向かった。御者の部屋を先に取り、鍵を渡して。次に自分達の部屋を取ろうとした、カサンドラをアオが止めた。

「3人一緒の部屋ではなく、2人部屋と1人部屋にしてくれ」
 
「え? ダメなのですか?」
「ダメに決まっているだろう! 俺は男だ」

 そんなのわかっている、という顔をしたカサンドラ。
 アオは夜通し見張るつもりだから、同じ部屋よりも別がいい。物音でカサンドラ、シュシュを起こすかもしれない。風呂上がりのカサンドラを見た、自分がどうなるのか分からない。

「頼む、1人部屋にしてくれ」
「何故ですか?」

 どちらも引かず言い争う2人をよそに、シュシュはカウンターの人と話して、部屋を決めてしまう。

「ツインルームと、シングル、ルームの部屋をお願いします」

「かしこまりました、こちらがツインルームの鍵で、こちらがシングル、ルームの鍵です。夕食は大ホールで8時までビュッフェスタイルです。朝食もビュッフェスタイルで6時から8時まで、チェックアウトは10時までにお願いします」

「わかりました、料金は前払いでお願いします」

「はい、料金は一泊ツインルームが30000ピール、シングル、ルームが2つで30000ピール合わせて、60000ピールになります」

「わかりました、ドラお嬢様、アオ君行きますよ」

「「え?」」

 会計も済ませてしまい、カサンドラとアオは、シュシュの後について行くしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その婚約破棄本当に大丈夫ですか?後で頼ってこられても知りませんよ~~~第三者から見たとある国では~~~

りりん
恋愛
近年いくつかの国で王族を含む高位貴族達による婚約破棄劇が横行していた。後にその国々は廃れ衰退していったが、婚約破棄劇は止まらない。これはとある国の現状を、第三者達からの目線で目撃された物語

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

陰謀は、婚約破棄のその後で

秋津冴
恋愛
 王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。  いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。  しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。  いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。  彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。  それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。  相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。  一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。  いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。  聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。  無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。  他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。  この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。  宜しくお願い致します。  

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

処理中です...