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35話

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 翌朝、怖い夢を見ることなく、カサンドラお昼過ぎには目を覚ました。当然ながら、アオとシュシュもだ。
 だけど、ここでは遅く起きようが、早く起きようが誰も何も言わない――基本、自由なのだ。

「ふわぁ、よく眠れました、アオ君、シュシュありがとう」
「おう、それにしても寝癖ひどいな」
「……ふわわぁ、ドラお嬢様、アオ君、私も気持ちよく眠りましたぁ~」

「シュシュの寝癖には負けますわ」
「ククッ、そうだな」

「?」

「フフ、お互い凄い寝癖ね」

 そう言って笑った、カサンドラの笑顔はいつもより眩しかった。
 みんなで顔を洗い、身なりを整え、庭出て実ったスルールの果実をキリリに一つ渡す。スルールの低木は果実を全て採取しても、次の日には果実が何個か実っている。
 
 お祖母様が言うには「ここの井戸水と、土に魔法をかけたからね」と笑っていらした。スルールだけではなく庭に植えてある、すべての薬草達も同じらしい。

(やはり、魔法って偉大だわ)

「キリリ、スルールの果実をどうぞ」
 
「今日もスルールの実も美味しそう。ドラ、アオ、シュシュありがとう」

「どういたしまして」

 スルールの実を貰って、キラキラ踊るキリリを眺めるカサンドラと、シュシュ。その隣にいるアオは何かを決心して、カサンドラに言った。

「ドラ、舞踏会が終わるまでは……タヌキの姿で一緒に寝てやる……」

 そのアオの言葉に瞳を大きく開いたカサンドラ、彼女にとって誰かと一緒に寝ることはなかった。子供の頃――いくら夢見が悪くても両親、メイドと誰にも言えず1人で耐えなくてはならない。そんなカサンドラは違い、妹のシャリィはお気に入りの大きなうさちゃんと、両親に抱っこされて寝室へ行くところを何度も見た。

(……シャリィはいいなぁ)

 小さなうさちゃんを抱きしめ、カサンドラは妹を羨ましがった。

 そんな伯爵家を出て、この別荘へと移ったカサンドラは初めて、シュシュと同じベッドに入って眠ったのだ。そのときに感じた、シュシュの温かな体温はカサンドラを癒した。

 それは昨夜も同じだった。

「い、いいのですか?」
 
「あぁ、いいよ。その代わりに今晩は分厚い肉が食べたいな。明日か明後日にドラとシュシュとで冒険にだって行きたいし、魔法訓練、図書館、買い物にも、なっ!」

「えぇ舞踏会まで一ヶ月以上ありますわ。泊まりがけで行きましょう、アオ君。シュシュ、今日の買い出しで良いお肉を買ってくるわよ」

「はーい! 私もドラお嬢様と一緒に今日からズッと寝ます。いいえ、舞踏会が終わってもズーッとです!」

「ありがとう、シュシュ」

 嬉しそうに笑うカサンドラ、その姿を庭の隅で見ていたお祖母様は「カサンドラの周りにいる子達が、いい子達ばかりで良かった」と静かに見守った。
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