上 下
3 / 20

しおりを挟む
「リリア、大丈夫か?」 

 大きな声と共に、熱にうなされる私の部屋の扉が、いきなり開いた。

 お父様⁉︎

 心配をした専属メイドが家に連絡を入れたのね。私の家族が心配をして、お見舞いに飛んできたみたい。

「リリア!」

「リア」
「リリー」

「リリアちゃん」

 宰相で仕事が忙しいトールお父様。隣国との共同軍事会議で忙しい五歳年上のカーラお兄様と三歳年上のジュンクお兄様二人。それを支える、たくましいハリアお母様。

 お母様は私のベッドの脇に、ご自分で持ってきた、大きな果物かごを置いた。

「これを食べれば、熱なんてすぐに下がるわ」

 なんでも熱さましに効くと。お母様の故郷の果物を沢山持ってきてくださいました。でも、一番に効いたのは久々に会えた家族かな。

「何かいるかい、リア」
「いや、何がいるかは、この僕に言いなさい」

「ありがとう、カーラお兄様、ジュンクお兄様」

 お母様とお父様、お兄様二人にたっぷりの愛情をもらい、果物もたっぷり取り、熱も徐々に下がりました。

 
 それから一週間ほどで体調も戻り。
 久しぶりに学園に登校をしたところ。それに気付いた二人は、見せつけるように私の前に現れた。

 嫌いな王子と、ヒロインか……。

「リリア嬢、体調はもういいのか?」
「いきなり倒れて心配していたわ」

「もう、平気ですわ。レオーン殿下とララーナさんには、ご心配をおかけしました」

 熱が下がってから二人を見ても、泣きもせず。何の反応を返さない私に、彼らは面白くないのか、突っかかってくるようになった。

「リリア嬢。ララーナ嬢と俺とで、お昼を一緒に食べないか?」
「すみません、殿下。私は友達と取る約束をしていますので結構ですわ。ララーナさんとお二人でどうぞ」

「リリア嬢、城に美味しいケーキがあるんだ、ララーナも加えて庭園でお茶をしよう」
「すみません、殿下。私はこの後用事がありますの。ララーナさんだけをお誘いください」

 笑顔でやんわり断り、乗らない私を見て、殿下は舌打ちをしていた。
 だって、どうでもいいの。私はあなたみたいな俺様が一番、苦手で嫌いなの。

「リリア嬢、どうして王城に来ない!」

 あれから、花嫁修業に向かわないと、機嫌の悪い殿下に、呼び止められて振り向き私はこう告げた。

「私はもう結構ですわ。花嫁修業は殿下の愛しいララーナさんとどうぞ。それはそうと殿下。さっさと嫌いな私と婚約破棄をしてください」

 去って行こうとする、後ろから殿下の声がした。

「それは無理な話だ。この婚約は俺の父上が決めた事だ、婚約破棄など簡単には出来ない」

 私は振り向き微笑む。

「殿下なら大丈夫です。きっと、国王陛下も殿下とララーナさん、お二人の愛をみたら、お許ししてくれるはずですわ」

 その場を笑顔で去り、誰も来ない書庫で涙を流す。殿下のことを嫌いなはずなのに。
 まだ、声をかけられると、期待してしまう自分がいて嫌だ。

 心の奥底に殿下を想う、恋心。

「だからと言って、簡単には許せないの。傷付いた私を嘲笑った二人を……私は許すことがでない」

 二度と殿下のことは好きにはならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

白い結婚 ~その冷たい契約にざまぁを添えて~

ゆる
恋愛
政略結婚――それは貴族の娘にとって避けられない運命。美しく聡明なルシアーナは、シュヴァイツァー侯爵家の冷徹な当主セドリックと婚約させられる。互いの家の利益のためだけの形だけの結婚のはずだった。しかし、次々と巻き起こる陰謀や襲撃事件によって二人の運命は大きく動き出す。 冷酷で完璧主義と噂されるセドリックの本当の顔、そして家族さえも裏切るような権力争いの闇。やがてルシアーナは、ただの「道具」として扱われることに反旗を翻し、自分の手で未来を切り拓こうと決意する。 政略結婚の先に待つのは、破滅か――それとも甘く深い愛か? 波乱万丈のラブストーリー、ここに開幕!

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい

たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。 王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。 しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

処理中です...